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文明が滅びた10000年後の地上で再会するキカイ傭兵と設計者の少女 原題:メタルエイジのMO-GA  作者: カズト チガサキ
銀雪と結束の第二章 氷獄の統率者・オウガ
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【辺境】8 8/39

新生活が始まったばかりの今日この頃(2023年4月3日)。

この時期は疲れに無自覚なものです。

疲れづらいのではなく。疲れに気づけないってトコロがミソなのです。

お大事になのです。

「ジエさんは甘党ね。りょーかい」


 食事を終えたモガたちは屋敷を出て、外苑をふらふらと歩いて進んだ。「気になるものもあるだろうから、しばらく散策でもしているといい」という青年の進言に従い、アーチを連れて外の様子を見て回る。


「気になっちゃうからって自分でも飲むことないでしょーよ」

「…………」

「あれ相当甘いはずでしょーよ」


 呆れを聞き流しつつ、モガはキョロキョロと視線を振る。三六〇度ぐるっと見回し、ハッと気がついた。


「ココはカンゼンにホウイされているのか」

「無視かーい」


 屋敷を取り囲む氷の壁は、一部の隙もない絶壁だった。壁のどこを見ても洞窟や小道などの進める道は見当たらず、見渡せる範囲で完結している。


 地続きに歩いたところで通り道は完全に閉ざされている。

 だが、この場所に感じる特異的な閉塞感は、なにも壁に囲まれている事だけが原因ではなかった。


「アイツは、『クレバスの中では分かりづらいが、今は朝だ』とか言っていたな。どれ……」


 モガは息が詰まりそうな心地で天井を見上げるも、太陽や青空、吹雪や雲といった外界の一切が塞がれていた。まさに天蓋というべき氷の屋根が、銀雪民の盾となるように鎮座している。


「やっぱアレっしょ。好きな人の好きなものは気になっちゃうーみたいな、そういうベタな感情がモガにもあったわけ?」

「オレたちのいるココは、どうもスノードームのような造りになっているらしいな」

「無視かーい」


 一人で頷くアーチに声をかけてやる余裕もなく、モガは一心にクレバスへ目を凝らす。


 ありとあらゆる造物が凍てついた中庭と。

 氷に浸食されつつも荘厳さを保つ貴族屋敷。

 完全に外と遮断された箱庭、ここはまさにそんな場所だった。


「まるで限界集落が、消滅と再生の狭間で揺れている……」

「いやまて、むしろここまで来たらアタシのほうこそハナシをガン無視してるまであるわね」


 これが青年の言っていたクレバスシステムの全容か。


「で、なんだってのよ? 何かわかった?」

「気にするな。コイネガがここを訪れたなら、ここの現状をそうとでも表現したかもしれん」


 氷の壁面、氷の天蓋。目を開けていれば、そのどちらかが必ず視界にチラつく。

 それらと真正面から向き合えってしまえば圧迫感に耐えられなくなりそうで、モガはとうとう瞠目(どうもく)した。


 集落としての体裁を保ってこそいるが、この場所は平穏と言うには辺境すぎる。


「なんとなく……そう思っただけだ」

「ふ~ん、コイネガ。また知らない名前が……ふんふん、それで?」

「別にそれだけだ」

「じゃこの話は終わりね。それでどうよ――――」


 自分から何か分かったかと訊いておきながら、アーチは興味の無さも明け透けに話を変えてくる。


「モガにはジエさんって想い人がいて、想い人のシュミやら好きなものを自分も好きになりたい、とかあるわけ?」

「真面目に答えなければいけないか、ソレは?」


 聞きたいでーす。

 この場所への警戒心はもう消えたのか、アーチからは気の抜けた声が返ってきた。


「あえて形容するなら、トモだ。以前にもそういっただろう。想い人というのはどうもしっくり来ない」

「えー、ホントかなぁ。でもジエさんが違うってなると、他に誰かいたりする? 一万年前に好きな人とかいなかったワケ?」


 アーチがなぜモガに想い人がいる前提で訊いてくるのかは不可解だが、モガの前にさらに不可解な光景が飛び込んでくる。


「パッと見だけど、アタシとアンタって同い年くらいでしょ。思春期でおかしくないんだから照れてないで――――」

「待てアーチ。アレを見てみろ」


 外苑を一周し、屋敷の裏手に回り込んだ時、それは突然現れた。


「あの一面を見ろ。食堂にあったモノと同じ、妙なカベを」


 何を映したものかは遠くて判別できないが、氷の壁面の一角が周囲とは明らかに異なる発色をしていた。

 強いて言うなら、草木を思わす緑色に見えなくもない。


「あっ、平原!」


 アーチには見て取れたらしく、再び浮かび上がる故郷の景色に堪らずといった様子で駆けだした。

 壁の前で立ち止まるアーチに追いついた頃、氷の映像に目をやって呟く。


「よく平原だとわかったな」

「見間違えるワケないっての。アタシのふるさとだしっ」


 だとしてもだ。あのキョリで見えるモノか? モガの中でちょっとした疑問が湧くも、映し出された映像の内容が気にかかって続きの言葉を飲み込んだ。


 ロクが。


「チョオロー、アンガス。それに……宿民が勢揃いしているな」

「前に立ってるのって……ロク?」


 まるで臨時の集会でも開いているようだった。宿民全員の視線を浴びる話し手はロク。普段はおとなしく、皆の前で主張するのとは対極の立ち位置にいるはずのロクが。


「モガ、アレ……なにしてるんだと思う?」


 ロクが宿民たちに、何か一生懸命に訴えている。音の届かない映像のみでは、何を訴えているかは分からなかったが。


「ココからでは何とも言えん。そもそも、エイゾウがホンモノというカクショウもない」

「それ、やっぱり気になるかい?」


 背後から青年の声。振り返ると、彼は片手を上げて歩み寄って来た。


「ビックリさせてソーリィ。でも、キミたちの驚きも分かるさ。ここに来たばかりの者は、得てして皆そういう反応だからね」

「…………」


 外からのギアニックを何人も受け入れてきたからか、やけに説明慣れした解説を聞く。


「幾重にも続く氷と氷がレンズの役割を果たし、たくさんの屈折を経た遠くの景色がクレバス内部の氷面にまで届くのさ」


 平原からクレバスへは、モガとアーチが数日歩き通してやっとたどり着ける距離にある。

 それだけの距離を、果たして光の屈折という説明だけで埋められるのだろうか。


「ミステリアスだと思うよね。でも本当の話さ。なんたって吹雪に飲まれたキミたちのもとへ部下を救出に向かわせる事が出来たのも、半分はこのアイスコープ現象のおかげさ」


 アイスコープ現象、とモガは口には出さず頭で唱える。

 原理は謎だが、謎の現象のおかげでモガたちが助かったのも事実だ。


「ふーん、アイスとスコープってこと。単純な名前ね」

「ワタシの命名さ! 親しみやすいだろう。さて、今日はどんな眺めが……おや?」


 モガたちが見ていたのと同じ場所のアイスコープ(氷面)を覗き込むや否や、青年は眉をひそめる。


「サプライズ……、今日はこんな裏庭に映っていたか」

「? どうした」


 急ぎたい様子の青年は問いに答えない。


「失礼、少し席を外させてもらうよ」


 説明も少なに青年は足早にいずこかへと行ってしまった。アイスコープに目を戻すも、映し出されているのは相変わらず臨時集会の様子だ。


「宿民たちとアイツは、カオ見知りだったのか?」

「んぃや、アタシは初対面よ」


 二人はいくつか憶測を交わし合うも結局、青年が何を思って抜け出したのかは分からなかった。考えても仕方ない、それより周囲に人目のない間に、アーチと今一度確認し合うべきことがあった。


「それで、どうよ?」


 アーチから、改まったふうに疑問を口にする。顔は平原が映るアイスコープに向いたまま、しかしアーチの瞳はもうどこも見てはいない。


「見つかった? ――――アンタの、兄弟」


 問いたげな瞳が、遠慮がちにモガを向いた。


「いや。居ないな、オウガは」

「……そっか」


 アーチはポツリと相槌を打つのがやっとで、またアイスコープに視線を落とす。青い空色の瞳に、今は暗い雲が浮いたようだった。


「意気ショウチンか、らしくない」


 腕を組みながら、瞼を閉じながら。モガは整理でもつけるように言葉を続ける。


「オウガが居ようが居まいが、オレたちの目的は変わらない。雪のモビルゲレンデを訪れたのは、ロクの傷心を解消するため。そしてジエの手がかりを見つけ出すため」


 モガは極めて平静に言葉を紡ぐ。目的を整理しているのか、はたまた自分の気持を整理しているのか。表情からではその是非を見て取れそうにない。


「ジエの手がかりについては、必ずしもオウガから手に入れなければならないワケではない。万が一オウガとはすれ違いだったとしても、これだけ広大なセカイならば、他にも誰かしら聞き出せる人物がいるハズだ。だが……」

「だが?」


 モガは映像の中のロクに目をやる。大勢の前に立って話して、彼女は平気でいられるのだろうか。

 あの夜の出来事を経てからというもの、心理的な傷が原因で、発作のように一人きりになろうとする姿がしばしば見受けられた。


 それが今、どういうわけか宿民全員に向かって何かを訴えている。いや、よく見れば懇願しているようにも見える。離れたところからでは、詳細な事情を知れないのがもどかしい。


「ロクについては、ここ……雪のモビルゲレンデにしか頼みがない」


 ジエの手がかり以外に、ここへ来た目的はもう一つある。

 モガたちはロクの心の傷を解消するために、ある人物を探しにここへ来た。


「でもあのお坊ちゃん、ここをクレバスって呼んでたでしょ? ここが雪のモビルゲレンデとは限らないじゃない?」


 たしかに青年は、出会ってから一度も『雪のモビルゲレンデ』というワードを使っていない。

 だがモガはほぼ確信していた。クレバスの外へとひとたび踏み出せば、きっとあの猛吹雪は再び自分たちを襲撃してくる。

 クレバス内こそ氷の壁と天蓋に守られているものの、寒しげな屋敷と中庭に立てば、大自然の猛威を肌身に感じることができた。


「あとでアイツに確かめなければな」

「そうしましょ。しっかし戻ってこないわねー、何してんのかしら、あのお坊ちゃん」

「そうだな、聞きたいことは山ほどある。雪のモビルゲレンデの是非もだが、下山の方法もだな」


 ここは異常だ。銀雪民がどう思っているか知れないが、地上のギアニックが異名を付けるのも頷ける。


「本当にあの人物に出会えたとしても、ロクと引き合わせるためには猛吹雪を抜けなければならない」

「もしくはロクの方をこのクレバスまで連れてくる……なんて、ありえないわね」

「ところがザッツ・ワロング! そうでもないのさアーチ嬢」

「ひっ!?」


 背後の空気が震えるほど張りのある声を背に受ける。モガはともかく、アーチなど急に冷や水を浴びせられたように肩をすくめた。


「銀雪民はロクだろうと誰だろうとウェルカムさ。キミたちにコールドコードを服用してもらったのと同じで、成長したあの子なら吹雪の極寒も負担にならないだろう」

「あぁもう知らんしらん! 吹雪以前に驚かせんな心臓に負担かかるっての!」

「ツッコみがくどいのだよ。コントよりも、聞きたいことがあるんだろう?」


 戻ってきた青年は、三歩後ろに大柄なギアニックを一人引き連れていた。

 部下だろうか、そのギアニックをモガはきつく睨んだ。


「聞きたいコトか……二つ増えたな」


 (うやうや)しく背後に控えている部下らしきギアニックは手枷の模した頑丈そうなグレートヘルムで、極太の鎖をバンテージにした関節パーツは頑健そうだ。

 実際モガは、イエティ・アニマの大将を投げ飛ばした鎖のしなやかさ、四肢の力強さを目の当たりにしている。


「ああっ! アンタ、さっきの!」

「正確には昨日です。もちろん、起きたばかりのアーチさんにとっては、あの戦闘もついさっきの出来事かもしれませんが……ね」


 女性ギアニックを(かたど)った氷像を肩に抱えながら、青年の部下――――騎乗手ギアニックが答える。

 腕っぷしを活かして、騎乗手は青年の荷物持ちとして使われているらしかった。


「ここにいたのか。ようやく見つけた」


 かつて森で(・・)激しく争った相手だ、見間違うはずもない。

 モガが騎乗手を睨んだのはほんの一瞬のことで、視線はすでに別のモノに移っていた。

 青年の指示に従い、騎乗手が氷像をそっと降ろすのを、モガは息を呑んで見守る。


 (かたど)られたギアニックはロボットフェイスで、信号機のようなLEDの瞳が特徴的。

 モガもアーチも、その面影には見覚えがある。


「探したぞ――――ユス」


 ユスの氷像が設置された。

 平原の見える位置、娘が見える場所に。













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