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文明が滅びた10000年後の地上で再会するキカイ傭兵と設計者の少女 原題:メタルエイジのMO-GA  作者: カズト チガサキ
銀雪と結束の第二章 氷獄の統率者・オウガ
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【辺境】3 3/39

 アーチは少女らしい華奢(きゃしゃ)な体格だが、宿では猟師として働いていただけあってほんのりと筋肉質でもある。

 モガは吹き荒れる雪の中、一向に目を開ける気配の無い彼女の左腕を手に取った。


「……! アーチ。オマエ、まさか」


 アーチの左腕は彼女の聴覚センサーと同じく、少女らしい人肌とはミスマッチな剥き出しの金属パーツで構成されている。

 モガはそんな左腕を握ると、特に手首に指を当てた。人が脈を取るような格好になる。


「眠っているワケではないが、コレは。コイツの状態は一体なんだ? ただ一つ、オレにもわかるのは――――」

「「「ゴォォォオアアアアァァァーーーーー!!!!」」」

「!」


 アーチの左腕からは、たしかに生命力が伝わってきた。

 かつて自分のボディと繋がったからか、モガとアーチの左腕は肉体的に接続せずとも通信し合う。


 もっとも通信というより直感程度のつながりだが、アーチからモガへ、アーチの健康状態がバイナリ(0と1)となってとめどなく流れ込んでくる。

 いまだ眠ったまま、澄まし顔のアーチをジッと見つめていると、ボディの情報と共に彼女の声がモガのCPUに響く――――アタシにかまわず、そいつらをやっつけろ!


「ゴアァッ、スタンプゥゥゥア!!」

「チッ。考えるイトマもないか」


 寝袋ごとアーチを脇に抱えて跳ぶ。そうすることで獣の踏み込み(スタンプ)を回避した。人の身長より数倍高い跳躍そのままに獣の包囲を抜け出す。


「見たコトの無いアニマだが……ナルホド」


 今、獣の影は三つ見えている。いずれもゴリラより太い手足、像に匹敵する体躯を持っている。吹雪の向こうにあと何匹ひかえているかは見て取れない。


「言うなれば雪男か。道理で、昨日までの山登りじゃあ目につかなかったワケだ」


 モガは足元に薄く積もった新雪を蹴散らす。顔を出した砂利の地面に寝袋ごとアーチを横たえた。さらに冷えてしまわぬよう、自身のマントを彼女に被せる。


 センガとの決戦の夜、モガを窮地から掬い上げたあのマントなら、自分に万が一があってもアーチを守り切るだろう。


 マントを脱ぐと、自身の動作環境が著しく落ちるのを感じた。外気に無防備なモガを予想以上の吹雪が見舞う。


「来るなら来い。あまりヨユウがないんでな」


 三匹を睨み、アームブレードを展開した。緑の電光が寄り集まり光る刃を形作る。

 圧倒的な光を前に、周囲の雪粒が煌めいた。獣たちのたじろぐ姿が浮き彫りになる。


「来ないならこちらから斬りかかる……っまでだ!」


 気合いと共に踏み込む。一足で距離を詰めた刹那、獣が反撃するその前に、首に添わせた刃が閃く。


「÷《ディバイド》!」


 ゴリラのような手足から想像はしていたが、ゴロンと雪の上を転がった生首は想像通りユキザルと呼ぶべき容貌だった。


「正面、テキの撃破カクニン……残り二頭だ」


 モガの交戦の意思とは逆に、仲間がやられたのを間近に見た左右のユキザル二頭はひどく(おのの)いた様子だった。モガに背中を向けて後退してゆく。

 全力の逃走を開始した。


「……戦わずに済むならば、それで――」

「――それで、では済まされませんよ。片角の鮮血」

「!? ……ダレだ」


 ユキザルたちが慌てて走り去る姿は、モガの目には敗走として映った。

 しかし、安全な距離を取ってからこちらを振り返るユキザルたちのニタニタ笑う面を見たところ、実際にはより大挙して襲うために前線を下げたに過ぎないらしい。


(仲間がやられるや否や芝居に走るか。ずる賢いレンチュウだな)


 そう評すると同時に、チラリと後ろに目を配る。


(ただ切り伏せるならまだしも、アーチを気にかけながらでは厄介かもしれん)


 吹雪の向こうに並ぶシルエットの数を確かめ、モガは歯噛みする。四頭のユキザルと、ひときわ大きいサイズのユキザルがもう一頭。


 解せない事に、大型サイズのユキザルには指揮官らしい騎乗手ギアニックが跨っている。


「コイツをけしかけたのはオマエか?」


 今し方切り落としたユキザルの生首を掴み上げ、群れへ放る。相手の出方を窺う挑発だ。


「そこらの野生動物ならともかく、御されているハズの猟犬が襲ってくるとはな。カンリがなってないんじゃないか?」


 ユキザルたちは左右に散らばり、モガを囲うようにじりじりと迫ってくる。五体が一斉に躍りかかって来るならそれもいい。アーチのために予断を許さない今、むしろ一度に済ませられる方が都合がいい。


 ÷《ディバイド》の速さに追いつけない程度の相手なら、何人で来ようと負けはしない。


 力量差で後れを取っているつもりもないが、それでも拭いきれない不気味さを騎乗手はまとっていた。挑発に対してとくにアクションを起こさず、悠然と構える騎乗手。


 騎乗手の態度もだが、見た目も充分に怪しかった。何より、重々しい手枷を象ったフェイスガードが威圧感を放っている。


 モガは再度アーチを盗み見る。

 やけに穏やかな顔で眠っていた。

 断っておくが、安らかに眠っていた……という意味ではない。

 死を連想するどころか、アーチから伝わってくる生命力は妙に安定している。


「騎乗手。オマエの目的はなんだ」


 再度探りを入れた。この雪の中でも騎乗手ギアニックは平気で活動している。ともすれば『雪のモビルゲレンデ』に踏み込んだことがあるかもしれない。あるいはこの猛吹雪エリアがすでに『雪のモビルゲレンデ』の一部なのか。


 モガは騎乗手に対して得体の知れなさを抱くとともに、点と点が繋がる感覚も覚えていた。ひょっとしたら、自分たちは一気に雪のモビルゲレンデに近づけるかもしれない。


 ほんの一瞬、そう思っていたのだが。


「目的が何か、とは笑わせますね。我らのナワバリに入った者には、すべからく裁きあるのみ……分かり切ったことです」


 ナワバリ。裁き。つまり騎乗手は、元から自分たちを排除するつもりでユキザルをけしかけたのか。

 ナワバリというからには、ここはユキザルたちの生息圏をだったのだろうか。それとも平原の宿のように、騎乗手たちが営むギアニックの集落があるのか。


 いずれにせよ雪のモビルゲレンデについては詳しく聞き出したかった。が、モガのそんな期待は騎乗手の険なる空気を前にして雪のように軽く吹き飛んだ。


「むしろこちらからお聞きしたいぐらいですがね。貴方(あなた)様方が不法侵入罪を犯すに至った動機を」


 臨戦態勢を取る周囲のユキザルを、騎乗手が手で制した。モガと話をする気らしい。


「ギアニックによる不法侵入は三○○年から五○○年の懲役、または一定のプログラムアルゴリズムのオミット処理が基本ですが」

「おい。何のハナシを……」

「残念ながら、かつての文明が風化した現代(メタルエイジ)には留置場もギアニック工学に精通した技術者もいません」

「…………だったら、なんだっていうんだ」


 よくぞ聞いたとばかりに、ユキザルを止めていた騎乗手の手がおもむろに振りかぶられる。


「今さら法に従って判決を下したところで、監獄もない。プログラムの修整による社会復帰の目途もない。刑に処せない罪人をどう扱うべきか? 誰しも一度は、究極の判決にたどり着くものです」


 究極の判決とはつまり極刑のことだろうか。だとすれば、もはや議論を交わす余地もない。


「チッ、もういい。オマエのハナシは長い……押し通る」


 頭上に上がっていた騎乗手の手が鋭く振り下ろされる。その動作は裁判官が叩く木槌のように決定的な合図だった。


「普く罪に裁きあれ!」


 騎乗手の合図で取り巻きのイエティが一斉に躍りかかる。


「手にかけるのが手っ取り早いのはわかる。だが……」


 弾丸となって迫る四体のイエティ。巨体から繰り出される八本の剛腕をくぐり抜けた刹那、訪れる好機に一太刀を叩き込む。


「オレの罪を、このテイドの脅威(キョウイ)で裁こうなどと……笑止、○《ツイスト》ッ!」


 アームブレードが瞬発的に強い光を放つ。その一瞬あと、刀身は爆発のような(回転斬り)を放ちイエティの波状攻撃からモガを守った。


(! 手ごたえが少ない。一匹斬り損ねたか)


 多対一の基本はヒットアンドアウェイ。○《ツイスト》を放った後の雑然とした戦況からは一度抜け出すのが、ひとりで戦ってきたモガの定石だった。


 しかし、今は背後にアーチがいる。自分だけが間合いを取ってしまえば、攻撃の手は無防備な彼女に向いてしまう恐れがある。

 離脱できない、しかし動かなければ無傷のイエティがたちまち反撃を見舞ってくるだろう。


(今までにないパターンでいくしかない、というワケか……ならば勝負だ)


 モガが決心した直後。全身をめぐる回路に新たな関数(メソッド)が流れ込んでいく。

 その瞬間、自身の(オイルブラッド)の巡りすべてを把握するような一体感が満ちる。

 直感によって引き上げられた潜在能力が槍の武装(デバイス)に伝わって、弾けた。


「◎《サークレイド》ッ!」


 右手首に格納されていたバリアブルスピアを排出、握りしめ、回転斬り。アームブレードより長大な槍のリーチが、○《ツイスト》を免れたイエティに(炸裂)した。剣と槍の二重奏。


「ターゲット……チンモク」


 二重の回転斬りによって身体を裂かれたイエティたちは、もはや意識の無いその巨体を崩折り新雪を潰す。

 自然、モガと騎乗手は一騎打ちの格好になった。


「あとはオマエだけだ、騎乗手」

「お見事です片角の鮮血。では謹んでお相手しましょう、この立派なユキザル・アニマでね」


 重厚な黒い鎖を手綱にして従えられたイエティ――いや、ユキザル・アニマ――が、その剛腕で雪の地を殴りつけた。雪崩さえ引き起こしかねない衝撃と地鳴りが、仲間を屠られた怒りをよく伝えてくる。


 騎乗手が「戦え」と鎖の手綱を振るう。金属をぶつけられたユキザル・アニマの肉厚な鼻から白い息が荒く立ち昇る。

 何人も見通せぬ吹雪の中、雄叫びが敵意を轟かせた。




モンスターを使役して戦う……アドベント!?

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