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文明が滅びた10000年後の地上で再会するキカイ傭兵と設計者の少女 原題:メタルエイジのMO-GA  作者: カズト チガサキ
銀雪と結束の第二章 氷獄の統率者・オウガ
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【辺境】1 1/39

続きました。またよろしくお願いします!

「ねぇ」


 背後をついてくるアーチの声はもはや不貞腐れる寸前だった。


「だいぶ遠くまで歩いたわよね?」

「ああ」


 彼女は不機嫌ながらも決して足は止めない。二人が一歩踏むたび、乾いた砂利が擦れ合う。


「歩いたってか登ってるわよね。それも、けっこーガチな高さまで」

「そうだな」


 モガが背後を振り返ると、三つの物が視界に入る。

 一つ、上を見上げればすぐ近くに迫る青空。

 二つ、見下ろせば雲の遥か下に広がる平原。

 そしてモガの数歩後ろをついてくる白髪の少女が三つ目。


 平原を半日山道を三日間歩き通し、ついに疲労で顔も上げられなくなったらしい。先ほどから振り返って様子をうかがうも、真っ白い頭頂部しか見えてこない。


 汗ばんだ白髪をかき上げつつ、息を切らして勾配を登る少女の名はアーチ。エネルギーの消耗を減らすべく、先導するモガの足跡を丁寧に踏んで後をついてくる。


 モガが歩きやすいポイントを踏み固めて歩くおかげで、足跡を正確についていけば幾分かは楽ができた。


 しかし山登りの小技を使っているとはいえ、森林限界をとうに越えた荒れ山道がアーチにはひどく堪えるようだ。


「宿民たちの生活様式を鑑みるに、これまで遠出の経験はなかったんだろう。そんなオマエがバテてしまうのも無理はない」


 モガのフォローを、アーチは相変わらず頭のてっぺんで聞いた。


「宿周辺、ねぇ……。もう無くなっちゃったけどね。宿」


 一体どんな面持ちでそれを言ったか、モガにはわからない。アーチの顔は一向に上がらないので、モガのカメラアイに白い頭ばかりが映る。


「水が必要か?」

「必要。あと休憩も必要」

「休憩か。ふむ……おい。見ろ」

 

 モガが山道の遠い一角を指差す。今いる急勾配の坂道とは違い、平らに切り開かれた広場があった。


「あのあたりまで行けば休めるだろう。日が傾くより早く、余裕を持ってトウチャクできる」

「つまり? あとどんくらいで休憩?」

「早めに見積もったとして……四十分だな」

「はぁ。サイアク」


 きっかり四十分後に広場、すなわち本日の拠点にたどり着く頃になると、アーチはすでに満身創痍だった。


 もし誰かがボディを小突けば彼女は突かれるままに滑落してしまうだろう。

 落ちる先が崖下だろうと抵抗できそうもないほどに、今のアーチからは気力を感じない。


「カバンを下ろせ。メシはオレがつくってやる」


 体力の抜けたアーチからバックパックを受け取る。宿から持ってきた保存食、旅の途中で確保した食料。二人分の寝袋など背負ってきた荷物をモガは次々取り出した。


 食料の中から、今日の朝方早くに獲ったアニマ肉の包みを掴み取る。すでにサイコロ状に捌いてあるそれを火にかけるつもりらしい。


 一口大のサイコロステーキは他の部位より脂が少なく見えた。


「多少なりともマシか……?」


 赤い断面をしげしげと見つめ、アーチが好んで食べていたシカ肉のステーキを思い出す。アレは脂がたっぷりのっていた。金属たる自分が食して良いものとは到底思えない。


 その点、規則的にカットされた見た目も相まって、脂の少ないサイコロステーキは機械のモガが食すにも抵抗感が少ない。一〇〇%だった拒否反応が、九九.二%にまで抑えられている。


「食わねばならんか。仕方あるまい」

「メシ作るったってねぇ。アタシ抜きで料理ができるとでも?」

「未知ではある。が、見よう見まねでやってみるまでだ」


 手のひらサイズのカセットコンロを点火。使用者のギアニックから電力を受け取って動くタイプだ。

 電力供給部の握りに触れ、脳内で「点火」のシグナルを発すると、コンロはトロ火を頼りなく放った。


「よし」

「ヨシか。そのチョロチョロの火で。不安だけどまぁ、作ってくれんならありがたいし……モガ」


 胸の高さほどある平たい岩の上にコンロをセットする。

 不慣れな手つきで小さな鉄板焼きを作っていくモガを、アーチはハラハラしつつも見守った。


「モガ。そばに荷物まとめとくから、踏んづけないでよね」

「ああ」

「アタシコッチで座って見てるからね。なんかあったら呼びなさいよ」

「まかせろ。問題などない」

「いやぜったい呼びなさいよ。アンタってばどうせなんもわかってないんだから」


 まだ日があるうちに夕飯を済ますことができれば、明日の早朝には再出発できるな。

 徐々に熱を持ち出した鉄板焼きを見守りながら、モガは脳内で明日からの工程を組んでいるときだった。


「アタシたちの宿が遠いわね……あんなに遠い」


 宿の建っていた平原はとうに地平線の向こう側だった。

 平原なら今いる荒れ山の(ふもと)にも広がっているが、それは別物。

 似たような草原をモガたちはすでに二つ越えてきた。


 

 いくら目を凝らしたところで宿は見えない。

 距離の問題ではない。

 アーチが自分の口で「もう無いけどね」と虚ろにこぼした通りだ。宿は燃え尽きた。


「こんなとこまで歩かせてくれちゃって。センガの情報がデマだったらアンタが責任取んなさいよ」

「ああ」


 頂上に雪の気配を帯びるこの荒れ山は、宿民たちの平原からはるか北に位置する。


 モガがアーチとの約束を反故(ほご)にして、こんな辺境まで北上したのには二つ理由があった――――絶対に遂げてやる。


「ホントなら宿を建て直すために東の山麓街に行くはずだったところを、アンタがどうしてもっていうからアタシも付いてきたのよ。案内役として」

「ああ」


 アーチの視線が出身の平原から東へ移ろいゆく。連なる山々に遮られた視線の先に、山麓街とやらがあるのだろうか。


 モガもアーチに習って山々を望むも、一万年が過ぎた今の時代の地理に明るくないモガは、無数に並ぶ連峰のうちどれが宿民たちのいう「東の山麓」なのか分からなかった。


「オマエは東へ行かなくて良かったのか?」

「は? 行きたかったに決まってるっしょ。もっかい言うからよく聞いて」


 景色を向いていたアーチの視線が、鋭くモガへ引き戻される。


「東に行くって約束したはずのアンタが! ど・う・し・て・もって聞かないから、アタシもここまで一緒に来てあげたんじゃない! 案内役もといアンタの世話役としてっ」

「そうだったな。カンシャする」


 憤懣(ふんまん)を背で受け止めながら、岩の上のコンロを見守る。サイコロステーキはまだ焼けない。


「セキニンを取れ、と言ったか」

「?」

「アンシンしろ。東の山麓街に向かわないことで、たしかに宿の再建は後回しになるが……コウカイはさせん」


 センガの素行はどうもアレ(・・)だが、重要な情報伝達で噓をついたことはない。

 諜報ギアニックの矜持があるなら、モガたちが彼の情報をもとに北の山々に出向いたことはきっと無駄にならないだろう。


「『雪のモビルゲレンデ』…………このまま北上すれば、オレたちの目的はそこにいる」


 焼き目のついたサイコロステーキを、不器用ながらも慎重に返して、続ける。


「目的は果たす。宿代のツケに誓って、必ずな」

「やれやれ。アイツなんかの言葉を信用なんてアタシには到底できんけど、ここまで来といて愚痴ってもしょうがないし……あ。そっち焦げそう」


 アーチは腰かけた岩からヒョイと降りるや、鉄板焼きに駆け寄る。そばの串で肉を突くや否や、「いただきます」と一声。


 その所作に、作った人物を差し置いて先に食べる事への遠慮や躊躇いはない。


「あぐぁ、あっつ。うっま~」


 感想を漏らしたのが合図となって、調理台だった平たい大岩がそのまま立ち食いテーブルに変わる。


「歩き疲れた身体に効くわ~。ゴハンと気持ちいい眺めがあるだけでもついてきた甲斐があるってもんね」


 夕食というにはまだ明るいが、これでいい。モガにとって未知だった料理さえすませられれば、あとは明日の朝までは予定通りに事が進みそうだ。


「ふむ。コレは適切な調理だったか」

「塩振ってないわね。そのまんまでもうまいけど」

「ン……塩とな。たしかオマエのカバンに」


 調理料がある。

 と言いかけ、足元の荷物を探ろうとモガが屈んだ時だった。


「バカッ、危ないっ!」


 左側頭部のヘッドギアが鉄板焼きと接触し、食べ頃のサイコロステーキを岩の上にぶちまけた。


「モガ平気っ!? 火傷とかっ」

「何も問題ない」


 頭を火に炙られたり肉汁を浴びたりはしなかったが、モガが顔の上げた時にはすべてが終わっていた。

 まさに食べごろといった肉汁が、ひっくり返った鉄板焼きから岩へと滴っている。

 旨味を湛えた黄金色の油が、細かな砂粒に吸い取られていく。


 じっくりと焼いたサイコロステーキであっても、高高度の大気に冷やされた岩の表面に落とされては、瞬時に湯気が立ち消えてしまう。


「アタシの……アタシの、お肉が、」


 アーチにとっての数少ない楽しみが、一瞬にして転げ落ちた。

 岩や砂利に落ちた肉片を、彼女はいまだ恨めしそうに見下ろしている。


「あぁ……〜、どーしてくれんのよコレ」


(ギアニックたるオレからすれば砂利もニクも変わらないんだが……黙っておくか)


 長いこと山道を歩き進み、彼女は疲れ果てていた。

 だから食べたくてしょうがなかったんだろう、アーチはよだれを引っ込めてモガを()める。


「落ちたニクはオレが処理……いや、(しょく)そう」

「いやいや。そこまで罪の意識感じなくてもいいわよ。ばっちぃし」


 アーチの制止を無視し、落ちた肉に串を刺す。サイコロの焼き目は案の定砂まみれだが、地面に落とそうが洗おうが九九.二%の拒否反応に変動はない。


「オレからすれば脂も砂も同じだ」

「え……、食べるの? まって。心の準備が」

「いただきます、と唱えるんだったな。いただきます」

「やっぱ無理、ダメ! それアタシの肉――――きゃっ!?」


 悲鳴のわけは、自分が食べるはずだった肉をあわやモガに奪われそうになったから……ではなかった。


 熱々の肉が落とされた岩。ただの岩だと思っていたそれがうぞうぞと動き出す。


「なに!? なんなのコイツ!」


 岩はまるでぶちまけられた鉄板や肉の熱さに耐え兼ねたように頭を振るい、必死にも熱を逃がしている。


 ただの岩だと思っていたが、その正体は。


「チッ……アニマか」


 突然の熱源に飛び起きた岩のアニマ。目も声も持たない正真正銘岩の塊だが、脊髄反射とも見える必死な反応が目の前の岩を生物(アニマ)たらしめている。


「わわっ、地面が……っ!」

「今見えているのはカラダの一部に過ぎない、ということか」


 モガたちが訪れる以前からずっと埋まっていたのか、岩の手足が地を割って現れる。


 地面の亀裂から勢いよく競り上がった岩の四肢をバックステップで回避。


「デカイ図体だな。我ながら、よくこんな場所でメシにしようと思ったものだ」


 土塊(つちくれ)がべっきりとめくれ上がった亀裂の跡。ズタズタになった砂利の広場は、起床(きどう)したてのギアニックの布団の跡とよく似ている。


(だとしたらマズいな。眠れるシシを叩き起こしたかもしれん)


 モガは左腕をアームブレードに換装し、臨戦態勢に入る。


 目前の敵を油断なく見据えた。大小の岩をつなぎ合わせて出来た手足と、頭でっかちな大岩の頭部のみ。


 胴や腹は見当たらず、ほぼ頭だけで構成された一頭身の大岩のアニマ。

//胴腹ナシ→ほぼ頭で手足岩、の順に提示

 一万年前の戦闘車などボディプレスで容易にぺしゃんこにできる巨体を持っていながら、岩はジタバタと慌てふためく。落ち着きのない子どもが騒いでいるようにも見えた。


 しかし気持ちよく眠っていたところに、鉄板で頭を焼かんとする二人組が現れれば誰でも岩でも驚いて当然。


「モガ……!」

「わかっている。問題ない」


 モガたちの背後には谷がある。追い込まれた位置にいる以上、どうぞ好きに暴れさせるわけにはいかない。


「少し離れていろ」


 言葉と同時、アームブレードに緑の電光が満ちる。


「すぐ終わる」


 岩より強靭なテクノロジーの剣を携え、モガは猛然イワダルマ・アニマの(ふところ)に飛び込んだ。




(第二章がはじまっても評価・感想お待ちしております)

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