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【約束】 32/32

サブタイトル。32/32。

【メタルエイジのMO-GA】これにて完け……つ?

「ウヘヘッ、さっき別れたぶりだな」


 平原を抜けたのではなかったか。モガは訝しさから身構える。


 センガのボディは非力なムガのままだった。相変わらずの風体がこちらの警戒心を削いでくる。

 なぜ舞い戻ってきたのか。目的が見えないセンガの行動にモガは戸惑った。


「や、ま、ソンな怖いカンジじゃぁねェって」

「じゃあどうしたんだ。忘れモノか?」

「ソンなトコロだ。言ったロ? お別れと取引の続きをするって」


 センガから険は感じないので、モガは素直に警戒を解く。


 別れはさっき済んだ。ならば次は取引とやらだろうが、「取引の続き」と言われても身に覚えがなかった。


「一度に済ませられなかったのか」

「だ~からワスれ物なンだって! アニキの成長が涙腺にエグイから悪ぃンダルオォン?」

「そうだったな。では取引とはなんだ? オレには何のことだかわからないんだが」

「ちょwww冗談よしてや~」


 モガが見当つかずでいると、センガはまたまた~というジェスチャーを繰り出す。


「依頼料はキチンと貰ってンぜ。アニキのカラダで♡」

「カラダ……コピーの事か」


 たしかにモガは、ボディのコピーをセンガに迫られたことがあった。

 ――――ん~にゃ、とりあえず今のアニキをコピーさせてくれよォ。ママンについてはそれくらいの値が張るぜぇ~?


 センガとの戦いが始まる以前、ジエについて尋ねた際に自分のボディをコピーさせろと持ち掛けられた。


「ソレそれェ。アニキは約束通りの対価を支払ったンでェン」


 とっくに反故(ほご)、いや最初から成立してすらいないものだと思っていたが。


「あるぜェ……とびっきりのヒトネタとォ、イマのアニキにとってハイっパーオトクなお釣りがなァ!」










 朝になっても、ロクは起きてこなかった。

 ロクの小屋に様子を見に行く。まだ寝ているかもしれないから、こっそりと。

 すると案の定、ロクは寝息を立てていた。朝に強いこの子にしては珍しい。


 壁を向いて眠るロクの肩に、アーチはそっと手を置いた。


「ロク。みんな起きたわよ。朝ご飯食べれ……る」


 思わずアーチは起こす手を止めた。魚の腹のように生白い頬に、一筋の水に濡れた跡を見つけたから。


「ロク……」


 眠りながら涙を落としたと、一目でわかる跡だった。泣いたのだとしたら、ユスの夢を見たのかも。


「んぅ……アーチねぇ、おはよう」


 藁や丸太の即席ではなく、子供たちやチョオローには辛うじて状態を保ったベッドや布団が与えられている。

 ちなみにモガの炎は、さすがに繊維や羽毛には通じないらしい。


 柔らかい羽毛の中で二度三度もぞもぞと身じろぎしてから、ロクはひょいとベッドから舞い降りた。


「ロク大丈夫? 朝ご飯、食べられる?」

「うん、平気。……ごめん。みんなにしんぱい、かけてるよ、ね?」


 あの夜、ロクは誰より辛い思いをしただろうに、起きて一番にみんなの事を気にかけている。

 まったく、この子ときたら。


「そんなの気にしないで。今は自分だけを大切にしていいのよ」


 母親がわりというには一回り小さい身体で、アーチは全身でロクを抱いてやる。


「わぁっ。アーチねぇ、あったかい……ねむくなっちゃう」


 ロクが少しでも安心してくれるなら嬉しい。そのまま寝かしつけてしまいたくなるが、空腹の音が聞こえたのでやっぱり食べさせた方がいいよねと外のテーブルに連れ出す。


 日差しはあるが、背の高い草がジャマなせいで陰気くさい。


「肩車してあげよっか!」

「アーチねぇ、どう、したの?」


 うっ。親子っぽく楽しませれば元気になるかと考えたけど、首を傾げられてしまった。これでは自分の方が空回っているみたいではないか。


「いいからいいから。ほいっと」


 頭まで抱え上げる時、ロクの身体が普段よりも軽く感じた。これも、無断で借りてきたモガの左腕の力なのか。


「乗り心地どうですか」

「すごい。おっきくなった、くさ、より高いよ」

「おっ。それいいねぇ。アタシも草の上から見てみたいかも」


 少しだけ心の内が顔を出した。

 みんなが言わないようにしてる本心。

 ないものねだりみたいな本心が。


 この平原も狭くなった。自分の背より高い壁みたいな草に、元・宿民の誰もが圧迫感を覚えているはずだ。


(部屋が残ってれば、この平原も一望できたのかな~……なんて。言葉にしたらあの頃が羨ましくておかしくなりそうだから、みんな言わないんだろうけど)


 変わり果てた平原や慣れない小屋暮らし、みんなが色んなストレスを抱えてるけど。

 それもこれも、すぐ終わらせてやる。


 アーチはちらと宿跡を見る。ロクが乗っているので、頭を揺らさずに目の動きだけで。

 覗えば、嘘の写真みたいに山積みな丸太が残っている。


(あんだけあれば、きっと余裕で建つわよね)


 東の山麓街から大工集団を連れて来れさえすれば、また元の生活が戻って来るだろう。


「ね、ロク。また前みたいな宿が戻ってきたら、嬉しい?」


 それに多少の困難があっても、今はモガがいる。


「うんっ。あったかい、もん」


 モガに最初から最後までおんぶにだっこをしてもらおう、なんて情けない事はしないつもり。だけどアイツが頼りになるのは本当。


「今度ね、大工さんたちにお願いしに行くのよ。宿のみんなと、それにモガも一緒に」

「アーチねぇも、いっちゃう?」

「うん。モガにぃは非常識だから。おねぇちゃんが面倒見ないと他のみんなに迷惑かけるだろうし」

「おふろ、おろうか(廊下)、びちょびちょ」

「そうそう。ほんと困っちゃうわよね~……だからおねぇちゃんもちょっとの間出ていっちゃうけど――――」

「まってる。おるすばん、する」


 あ。この声のカンジ。きっと無理してるな。


 これ以上の寂しい思いはさせられない。

 やっぱりロクを置いていくなんて無理かな。


「ごめんごめん。なるべく早く帰って来るから、それまでは」


 いくら無理かなと思っても、アタシは行かなきゃ駄目だろうな。

 ここから東の山麓までの道のりは長い。だから、道中自分で食料を確保できる人が行かないと。

 アニマ狩れる、かつ料理もできる。うわ、アタシ食料担当の筆頭格じゃん。


 だから、ごめんロク。


「だいじょうぶ。チョオローおじじと、まってる。あと、おてつだい」


 やばい。

 泣きそう。

 ロクが男を上げようとしている。


 肩車してて良かった。

 今のこの顔を見られたら、アタシの方が心配されちゃう。


 よし、よし。気合い入れろ!

 ロクのためにもやるわよアーチ。


「アーチ」


 背中からモガの声。慌てて感涙を引っ込めて振り向く。


 モガは昨日、宿の再建を手伝うと約束してくれた。「宿はオマエたちの平和に欠かせない」とかなんとか、力強く賛同してくれた。


 今日か明日、準備し次第、一緒に東の山麓へ出発する予定。


「あ、モガ! あのね、いまちょーど」

「悪いが――」


 ぜったいどうにかなる、いやする。決意した矢先の事だった。


「――オレは北の雪山へ発つ。宿再建のオマエたちとは別行動だ」




(第一巻の評価・感想お待ちしております)




※続きます

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