【平和】4 29/32
そういえば作者はツイッターやってます。カズト チガサキで検索ケンサクぅ。
「アンタの腕、借りるわね」
「左腕だろう。かまわないが、一体何に?」
左腕といえば、朝起きた時も無くなっていた。そのせいで転ばされそうになった事を思い出す。
「こうすんのよ」
アーチはやけに手慣れた所作でアームブレードを装備し、川で冷やしたイヌ・アニマの肉をアームブレードで次々に捌いていく。
(さてはオレが寝ている間にも使っていたな。それもニチジョウ的に)
アームブレードを用いてスムーズに下準備をするアーチを観察していると、今朝の食事準備を終えた彼女が、自分の左腕を持っていた理由に腑に落ちた。
さらにモガは、午前中の仕事を思い出す。
刃物が標準装備のモガは自然と丸太を切る配役となったが、自分の腕はむしろ食事だけでなく、小屋やテーブルを拵えるノコギリとしても利用されていたかもしれない。
「それとも、気安く借りて良いもんじゃなかった? アンタの腕」
「いや、ゾンブンに役立ててくれていい。どんな形であれヒトのためになっているならアイツも、ジエも本望だろう」
モガがジエの名前を出したきり、二人の間に沈黙が落ちる。
モガはさしたる気まずさも感じていないだろうが、アーチにはもどかしい沈黙だった。
「その、ジエ……さん? アンタを作ったっていうギアニックってさ……」
自分がどこまで訊いて良いものかと、図りかねた口ぶりでモガを見る。
「大切……な人だったり? あのヘンテコな炎を出した時は、その人のもとに帰るーって言ってたわよね?」
土手の斜面に腰を下ろしたまま、モガが答えた。
「その質問に答える前に。ジエはギアニックではなく、ニンゲンだ」
「またそんな屁理屈を……」
「ヘリクツではない。オマエたちの定義でいえば、ニンゲン・アニマだ」
「本気なの? 前はおとぎ話かと思って流したけど」
「ホンキだ」
アーチは百歩譲る素振りでモガの話に納得する。
モガ曰くの「ニンゲン・アニマ」などアーチからすれば突飛なフィクションだが、そこは受け入れなければ話が進まない。
「作ったってことはジエ……さんはモガのお母さんかお父さんでしょ?」
モガとしても、ハッキリと表し難い質問だった。
「あえてキゾンの関係に当てはめるなら、友だろう。オレは親でも製造主でもかまわないんだが、ジエ自身がギアニックとは友でありたいと、よく語っていた」
「自分で産んだ子供を自分の友達にする……もしかしてアンタの家族って複雑な事情アリ?」
モガが現存していた元の時代では、ギアニックそのものが珍しかったので、自分とジエが複雑かどうかなど、モガには分からなかった。
「さぁな。だがロクやユスから察するに、オレとオマエたちの時代では根本的にギアニックの定義が違うらしい。そもそも訊きたいんだが……」
一匹目のイヌ・アニマの解体が終わろうとしていた。二匹目に取り掛かるアーチの背に質問を投げる。
「この時代では、ギアニック同士で子を開発しているのか?」
「開発って言い方はよしなさい。でもそうよ。アンタがいた一万年前がどうかは知らないけど」
アーチは一万年、と具体的な数字をすでに知っていた。おそらくモガが気絶している間にセンガから事情を聞き出したのだろう。
「それで、どうやって造るんだ?」
「えらい直球ね。どうやるかったって……」
二匹目を解体するアーチの手が動揺で止まる。モガに背を向けているので、どんな表情で固まっているかは伺い知れない。
「アタシは知らないから、チョオローにでも聞いてみたら?」
「そうか。まぁそれはいい。それより最初の質問がまだだったな」
話を戻す。「ジエは大切な人か」という問いだが、モガの答えは決まりきっている。
「オレにとってジエは、二番目に大切なソンザイだ」
「二番目? じゃあ一番は誰よ?」
ヒトではない、と前置きを挟む。
イヌを解体する調理台から、アーチがこちらを振り返った。
「オレが一番に優先するのは、ヘイワだ。もっとも、何を以ってすればヘイワなのかは、戦い終えた今でもわからんが」
期待からの呆れ顔で、アーチの声が飛んでくる。
「平和ぁー? じゃあアタシは何番なのよ!?」
「オマエは一四番目だ。悪くない」
「じゅうよん? はぁ、そう。アンタからすれば、アタシなんてけっこうビミョーなのね。いいけどべつに」
モガはアーチを好ましく思っているが、どうも彼女には伝わっていないらしい。
反応の悪いアーチに、モガは補足した。
「拗ねるな。もう一度言うが一四番目は悪くない。三番から十三番はすべて兄弟姉妹機で埋まっている。ヘイワとカゾクを含めなければ、オマエはジエに次いで二番目だ」
「もういい。ソレ以上は言わないで」
意図したとおりに伝わったか定かでないまま、この話はブツリと終わらされてしまった。
「オマエの口からジエの名前が出てショウジキ、オレは驚いた」
「それはほら、アタシを助けたアンタが意味深に言い出したから」
「それでもだ。ひょっとしたらオマエは、寝ている間にセンガから手がかりを掴んだんじゃないかとも考えたが……そうではないらしい」
チョオローから聞かされたセンガの処遇に夢中のあまり、自分にとって大事な事を訊きそびれていた。ジエの居場所の手がかりは、次にセンガと顔を合わせた時に問い詰めるとしよう。
「オマエのメシをはじめてまともに食った、あの夜の出発。アレは演技だったが、ジエの手がかりさえそろえば別だ。アイツのもとに馳せ参じるために、オレはすぐにでもココを発つ。アーチ」
そろそろ二匹目の解体も終わろうかというアーチの背中が揺れた。
「それまでは、また世話になる」
「わかってるわよ。わざわざあらたまる事でもないってのっ」
イヌ・アニマ二匹の解体を済ませ、夕飯に利用できるよう諸々の処理を加えた後、モガが思い出したように口を開く。
「チョオローに訊きそびれた事があった。ロクについてだが」
夕飯の支度までは、まだ時間がある。モガは休憩のアーチと並んで、食事の時と同じテーブルについた。
「眠たげだな。あとにするべきか?」
アーチはさっき、寝不足を理由にアニマ狩りを控えていた。今も食事のテーブルに伏せ寝ている。
あとどうでもいいが、モガに左腕を返し忘れている。
どこまでわざとなのかは不明だが、着けたままの左腕を枕にウットリと惚気ていた。
「このままでいいんならどーぞ~」
「チョオローから、ロクの事情を聞きそびれた。オレはアイツにどう接するべきなんだ?」
「じじぃ~……教えなかったんかいぃ~……」
「眠たげだな。やはりあとにするべきか。ジャマをしたな」
アーチは眠気を感じさせないとっさの動きで、席を立とうとするモガの手を取った。
唯一残った側の手を握られてはモガも身動きできず、そのままテーブルに釘付けとなる。
「ロクなら今日もどっかのお手伝いしてるはずよ。宿がなくなる前と同じレベルで」
「まさか。もう立ち直ったのか?」
モガは自分を起こしに来たロクの様子を思い出す。たしかに今朝のロクからは、一人きりにして心配になるような危うさは感じなかった。
だが、だからといって、あの事件の悲惨さを楽観的に捉えるのは難しい。
「そうじゃないわ」
アーチは長い息を吐きながら、頭を起こして頬杖をつく。彼女の悩まし気な視線は、平原のどこも見ていない。
「ちょくちょく引きこもってる。仕事中に目を離すと、発作が起きたみたいに一人になって、小屋で泣きながら眠っちゃうのよ」
「ホッサのように泣く、か」
母親のいないモガには上手く共感できない。「難儀だな」と言葉を添えるのがやっとだった。
「とっても痛々しかったわ。本人はみんなを手伝いたいみたいだけど、きっと無理してる。ねぇモガ」
「…………」
「センガを近づけないようにするのはもちろんとして、アタシはロクに何をしてあげられると思う?」
「……………………、それは」
アーチが夕飯の支度を始めなければならない時間が来るまで、モガは思いつく限りの提案を出し続けた。
しかしそのほとんどが、モガが眠っていた一週間で、すでにアーチが試して効果なしと実証されたものだった。
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