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【平和】3 28/32

はじめて読んだ漫画はアイシールド21(←唐突なコレが私のあいさつになりつつある)

 水瓶から口直しの一杯を掬い、飲み干してからチョオローの小屋へ。

 四人か五人で寝食するのが限界な大きさの、藁製テント型住居があった。


「やぁ、モガ君。あらためて、君が無事でなによりだよ」


 中で待っていたのは、モガに声をかけたアンガス――オマエもケガが残らなくてよかったな――と、モガを呼びつけたチョオロー当人。


 そして、モガの目を引く人物がもう一人いた。


「オマエは……ムガ、いや」


 そムガに為り替われて、かつムガよりも再会が現実的なギアニックが他にいる。


「センガか。どうしてムガの姿になっている。≒《ニアライズ》か?」

「――――違ェんだなァコレが。コピーだよ、コ・ピ・ぃ」


 さぁな、とジェスチャーしたムガの白磁の腕が、覇気なくだらり下がる。


「宿ジジイの魔改造で俺様ぁワンリョクも関数(メソッド)もムガ準拠になっちマったァ。文字通~り無力で無関数(のうりょく)よ、あたくし」

「どうした。ずいぶん(しお)れたな」


 ムガなら絶対に組まないであろう胡坐(あぐら)を組み、「無力で~」のあたりから倒れるように後ろへ寝転んだ。

 見た目無機質で情味の欠片も感じさせないムガのボディで、これでもかと気だるさをまき散らす。


「他のカラダに戻れやしねェの。ま~じで詰ンだわ」


 ムガのボディは、塗装前の人体模型さながらに色味がない。白磁のラバーに骨格をなぞる黒のライン、あとは藍色の点字(・・)のみ。


 特に、点字のみで形作られた目鼻には誰もが思わず注目するだろう。『○』の中にビー玉を埋めたような『▽』の点線、それがムガの目と鼻だ。

 感情を表にしないムガのらしい、無機質なフェイス。


 本来内蔵スピーカーに穴を開けただけの口元は、ユスの時同様センガがオリジナリティを発揮して表情が伺える仕様に作り変えてコピーしている。


「コレカラ俺様の処遇がキマっちまうんだわ、()えもするぜェ。しぃかぁもぉ、平原で一番エライっつう宿ジジイのツルのヒトコトで決めンだぁってよ。俺様もう負けダろコレェ。自分自爆いいっすか?」

「チョオロー。やはり、センガは助からないのか?」


 脇の丸椅子に鎮座するチョオローが、厳かに口を開く。


「ワシも宿の長ぢゃ。宿民のためなら、時として果断な処置も厭わん」

「あァ~あ、やっぱり? 死ぬンだぁ、俺様。煮るナリ焼くナリ好きにシろよ!!!!!!!!」


 話の流れがどこか引っかかる。まだ聞いていない続きがありそうだ。


「なら、オレが目覚めるのを待たずに話を進めることもできたハズ……そうだろう?」

「そうぢゃとも。センガのカラダに妙な細工の痕跡があるのを、ワシが見つけなければスクラップにでもしていたかもしれん」

「! 細工のコンセキ? それはなんだ」


 それを説明するには、少し話を遡るぞい。とチョオローが続ける。


「雨の夜、ヌシが気絶した後のことぢゃ。宿のみなを陥れたセンガなぞすぐにでも葬るべきだと声が上がった。アーチをはじめとしてな」

「ああ。許せないのは当然だ」

「ぢゃが同時に、アーチに運び込まれたヌシがしきりに呟いておったんぢゃ。センガを助けてほしいと、気絶していながら何度も、うわ言のようにのぉ」


 寝ている間に自分がそんなことを。ピンと来ていないモガにアンガスが付け足す。


「本当だよ。宿民はみんな、君に命の恩がある。だからこそ迷ったんだ。危ないからとセンガ君を処分するか、危険を承知で救命するか」

「そうだったのか。だがセンガが生きているということは、オマエたちが助ける決断してくれたということだろう。カンシャする」


 ≠《ディファインブレイク》であれだけのダメージを負ったセンガの息を吹き返させるのは、相当な回復技術を要したはずだ。


「重要なのはここからぢゃ。ギアニックの手術はチョットだけ得意ぢゃから、ワシはセンガボディを切開して中身を覗いたんぢゃ。したらな……」


 チョオローは自身のローブにゴソゴソと手を突っ込み、黒い何かを取り出す。

 メタリックな光沢と錆びを思わせる赤いラインが入った、黒真珠とでもいうべき機械パーツだった。


「もしやそのタマが、センガに施された細工の正体か?」

「ザッツライト。でもアニキ、もっと他に気づかねェか?」

「他に……。いや、わからん」

「それ、マキナの素なンだぜぇ」


 マキナのパーツだと言われて、モガは腑に落ちる。禍々しい魔物たちと色調や錆びが酷似していた。


「目を覚ましたこやつは、自分の行いはすべてこの黒い球が引き起こしたことだと(のたま)っておる。まっこと調子の良い事にな」

「すまん、コイツのお調子者は生まれつきだ。世話をかけた」


 モガは、あの夜のセンガの言動を思い出す。

 基本的に拗らせているセンガの妄言だが、彼らしからぬ表現はあった。


「アニキ、アニキよォ。俺様が一度でもママンの事を神だ仏だなんて言った事があったか? 無ェよなぁ!? あの夜の戯言はぜんぶ、ぜ~んぶその玉ッコロに言わされてたンだ!」


 センガが詰め寄る通りだ。モガシリーズは皆、ジエを都合良く神格化したりはしない。


 自国の民衆から神のように頼られた彼女であっても、全てを救える訳ではなかった。取りこぼした分だけ自分の事のように傷つき、傷つくと分かっていても次の手を差し伸べる。


 ジエと苦境を共にしたモガシリーズなら、そういったジエの人間くさい側面を誰もが理解している。


 センガだって例に漏れず、ジエの理解者に違いなかった。


 モガはセンガを信じられる。

 たしかに、あの夜のセンガが操られていたという言い分は、センガにとって虫の良すぎる筋書きだろう。

 それでも。


 ジエと同志だった頃の結束が、センガの胡散臭さを上回った。


「どうぢゃモガ? ワシはこの一件、宿を救ったヌシの信じ、ヌシの一存に託そうと思うとる」

「……オレは――――」


 センガの処遇を言い渡し、モガはチョオローの小屋を後にした。




 同じ小屋にいたアンガスと共に、仕事へ向かう。

 着いた広場は作業場だった。宿民はみな工具を握り、木材の加工に勤しんでいる。

 宿が無くなり全員の寝床が確保できていない今、小屋の建造が急務なのだと、となりに並び立つアンガスから聞いた。


「出ろ、アームブレード……!」


 モガは左腕をアームブレードに換装。光刃をノコギリさながらに丸太へあてがい、無骨な幹を木材へと変えていく。


「ところで……オマエはアレで良かったのか。宿の問題だというのにチョオローを差し置き、オレが方針を決めてしまったが……」


 切りながら、丸太を抑えるアンガスを見る。彼はモガの懸念などまるで気にしていない風に自分の役割に専念していた。


「う~ん。まぁ、いいんじゃないかな。今は君が目を覚ましてくれているし、万一センガ君が暴れても鎮圧してくれるだろうから」

「楽観的だな」

「モガ君を信じてる。もしまたセンガ君が危ない事をしようとしたら、君は今度こそ斬ると思うし。責任感の強い君なら、きっとそうする」


 あとは……と、アンガスは少し躊躇いがちに言葉を継ぐ。


「僕は君の事を、この宿の誰より理解してるつもりだから」

「? どういうイミなんだ、ソレは」


 三メートルほどに切り揃えた木材のセットを、アンガスと協力して担ぐ。作りかけの小屋まで木材を運びながら、アンガスが照れくさそうに目を反らす。


「僕はあの日襲ってきたモガ君を、どうにか説得しようと試みた。けど内心では、『ああ、これは違うな』って気づいてる自分もいた。そんな自分の直感を、もうちょっと信じて上げても良かったなぁと」


 自分を信じる、か……?

 これは違う、とはつまり、偽物のモガに気づいていた、という意味なんだろうが……。


「わからん。自分を信じる、とはまた、当たり前すぎるような気もするな。それは大事な事なのか?」


 もちろん大事さ、と運び終えた木材を作り途中の小屋に下ろした。この木材を使って、やがて同じような小屋がいくつも立ち並ぶのだろうか。


「たとえばさっきのセンガ君。しでかした内容の重さ的に、スクラップにして廃棄。とか、そんな結末もあり得たと思う。でも、君は処分保留にした。実質お咎めなし。かなり大胆な判断だと思ったよ」

「……やはり。アイツを自由にさせるのは不安か?」


 これにアンガスは首を振る。こんな打ち明け話みたいなやり取りをするアンガスには、すでにセンガを信用する踏ん切りがついているのだろう。


「まったく、思い切った判決だよ。でも信じられる。僕はモガ君の判断についていくよ。君なら、僕らの知らないセンガ君の良いところをたくさん知ってるだろうから」

「……まぁ、な。一万年前は同志だったんだ、アレでもな」


 今もそうだ。と言いたいところだが、一万年前という言い方に留めておく。被害者の前で同志だ仲間だなどと口にするのは、モガでも憚られた。


「で、だ。ここからが教訓なんだけどね。僕らに襲い掛かって来たモガ君が偽物だったことだって、あの場で気づけたかもしれない。目の前のモガじゃなくて、生真面目に宿を手伝う方のモガを信じてあげれば、見抜けた。何かしら次の行動に移せたかも」

「それは……さすがに結果論ではないか?」


 アンガスはいや、と首を振る。


「君は過去のセンガ君を知ってるから、罪を犯したセンガ君をも信じられる。同じように、普段のモガ君のことを知っていた僕なら、あの場で『本物のモガ君が駆けつけてくれるまで、みんな逃げろ』って言えたかも」


 思いのたけを喋りたいだけ喋り、説明お終いと言い放ってアンガスは視線を投げ返す。


「モガ君くらいの人を見る目が、僕にもあればと思ったよ」

「わからん。結局それは、大事な事なのか?」

「君から教わったことだから、僕にとっては大事だよ」


 それからいくつかの木材を切ると、作業の工程にも一区切り付けることができた。二人そろって休憩をとる。


 やがてアンガスが昼食にするというので、モガは持ち場に戻って引き続き作業だ。


 ……と、頃合いを見て立ち上がった時。


「おっと、だめだめ。ご飯抜くとアーチに怒られるよ。病み上がりのモガ君はとくに」


 作業には向かわせてもらえなかった。

 モガとアンガスは対面でテーブルに座し、人の三倍長い昼食と相成る。


 食事の途中、話題がもう一度センガを向いた。


「実を言うと、僕は最初からセンガ君は生かしておくべきだと考えてたよ。チョオローには言えなかったけど」


 果物の食感が口内を荒らす。有機物のぞくりぞくりとした感触に意識が向くあまり、アンガスの言葉を話半分にしか聞けなかった。


「モガ君が目を覚ました時、宿のみんなによってセンガ君がスクラップにされたと知ったら復讐されるんじゃないか、って考えたりもした。あの炎と君の力なら僕やアーチなんて一瞬にしてスクラップ…………なんてね。まぁ、ちょこっとそんな恐ろしい未来が視えた。いや恐いよね。結果として、僕が介入せずともセンガ君は五体満足だから一安心かな。センガ君なんて今すぐスクラップにしろーって過激な宿民も、中にはいたはずなんだけどいやー良かったよ……あれ、聞いてるかい。おーい?」


 どうにか昼食を飲み下し、モガは次の仕事に向かう。


 アーチと共同のアニマ狩りにも慣れたものだ。そう思って狩りの準備を進めていたのだが、「ごめん。アタシ寝不足だから解体だけやるわ。アンタ獲ってきてよ」というので、単独でイヌ・アニマ二匹を仕留めて寄越した。


「今は畑の作物が大量にあるから二匹でおっけーよ。おつかれさん」

「次は何をすればいい?」

「解体の間はアタシのそばで休んでなさい……あー、いや、待って」


 言い出しづらそうな一拍の後、アーチがモガに頼む。


「アンタの腕、借りるわね」

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