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【平和】2 27/32

わたし ろぐはうす すき

 丸太壁の隙間から朝の日差しが入り込む。

 宿民全員の朝食が出そろった頃、小さな手の平が、いまだ寝ているモガの肩をおそるおそる揺すった。


「おき、て。モガにぃ、おねがい、」


 起き抜けの聴覚センサーが、幼い声をキャッチする。控えめに肩が揺られ、モガは目を覚ました。

 藁の天井と丸太壁の間から青空が見えて、朝がやって来たことを確認する。


 センガとの激しい戦いを経てから、モガはようやく朝を迎えた。


「モガにぃ、おきた……ぁ、あぶないっ」

「!」


 モガが身を起こそうと、藁のベッドに手をつく。手をついたと思った時、体勢が崩れた。

 階段を踏み外した時のような浮遊感。

 危うく床に転げ落ちそうになったところを、ロクがとっさに支える。


「左腕が無い。なにか知らないか?」


 次に来るはずの衝撃から助けてくれたロクに、モガが訊く。


 左腕はアームブレードも格納されている大事なパーツだ。それらの行方をロクは知っているらしかった。


「じゃあ、かえしてもらいに、いくっ」

「ああ。連れてってもらおう」


 布一枚の玄関を出る直前、ロクがくりんと振り返り、こう付け足す。


「あさごはん、も。いっしょに、ってアーチねぇが」


 後ろをついていくモガの足が止まった。


「……………………………………。水ならば」

「むぅ。きょう、からは、ぜったいだって。おみずだけは、きんしだ、って」

「いや。だがな」

「きてっ!」

 

 小さな両手が、残ったモガの右手を握る。

 力ずくで振り払うには、ロクの手は柔らかすぎた。

 むんずと掴まれるがまま、モガは食卓へ連行される。


 手を引かれて川の土手を登る最中も、なぜかポツンと離れた自分の小屋事情が気になった。


「…………なぁ。訊いて良いか」


 どうして自分とアーチだけが、やたらと切り離されているのか。


 昨夜、(たきぎ)が三つ四つ集まって燃えているのをモガは見た。他の宿民の小屋は、暖かい薪を囲うように寄り集まって建てられているというのに、なぜ自分たちだけ。


「あぶない、からって。チョオロー、おじぃが」


 夜が暗くて見間違えた、とかでもないらしい。薪が燃えていた辺りに四角いテーブルと丸椅子――やはりどれも丸太製――が並び置かれ、三十余人の宿民が朝食に集まっていた。


「……そうか」


 土手を越えて平原に下りた。宿があった辺りで山積みになっている丸太を横目に、皆が集まる草地に向かう。


「ン。昨日は気づかなかったが、ずいぶんと茂ったな」


 平原の地平に視線を飛ばすと、なんと背丈ほどもある雑草がそよ風になびいている。

 いや、波打っていると表すのが正確か。長い背丈の草々がぼうぼうと吹かれているさまは、大海の荒波にも匹敵するスケール。

 

 テーブルや小屋を用意した土地は、そんな草々を刈り取って設けられたらしい。刈草が積み上がった平原は、踏み歩くと足裏が柔らかい。


(景色が、まるで別モノに変わってしまっている。それこそ何年と経ったかのような、別モノに)


 またそよ風が吹いて、今度は木々が大きくざわめくのをキャッチした。大した風量ではないのにたくさんの葉擦れが鳴っている。

 一週間前と同じ風でも、木が葉を増やし枝を広げたなら、音も大きくなるのは分かる。


(平原のみならず、森までも急速にセイチョウしている。これは……?)


「モガ」


 思案するモガの意識は、すっかり馴染み付いた声によって現実に引き戻された。


「おはよ」

「ああ」

「ロクおいで。食べよっか」


 昨晩、行動を共にしたアーチがあっさりと応じるのに対し、他の宿民はモガの再起動を大いに喜んだ。


 宿民たちの喜びの理由は、無事に目覚めたことの他にも、モガがはじめて食卓に同席した、というのもある。


 言われてみればアーチとロク以外の宿民たちは、モガがまともな食事を摂っているところを見たことがなかった。


 一応の注釈を挟むなら、モガの決戦の日の夜食にはユスも居合わせたが、知っての通り彼女の正体はセンガ。

 モガは合わせて四つのテーブルを見回す。残念ながら、センガらしいギアニックは見当たらず彼の安は不明のままだ。


「アーチ」


 肉にかじりつくアーチの背に声をかける。


「あに……ゴクンっ。文句言わずに食べなー?」


 隣にはロクもいる。食事に夢中のロクに聞かれぬよう、モガは声を潜めて訊く。


「ボソッ……ロクは、ユスについてどう聞かされているんだ?」

「あぁ~、それについては、あとでチョオローから話あるわ。たぶん」


 話をする必要があるという事は、宿民の間で取り決めが交わされているのだろうか。


 センガはロクの目の前でモガからユス、ユスからモガへの変化(へんげ)をみせていた。

 一連の様子をモガは通信越しに窺っていたが、ロクは理解が追いいていない様子だった。


 無理もないだろう。

 ロクでなくとも非現実的な光景だった。


 実の母親が黒幕だったロクのショックは当然として、他の子供たちにも影響が出てしまわないか、宿の大人たちは一層気を配る必要がある。


「チョオローと話すまでは、アイツの事ぜったい口にしちゃダメだから」

「そうか……分かった。じゃあ、オレは行く」

「なにしれっと逃れようとしてんの、許されるわけないでしょ? となり座れ。逃がさん。今日という今日は。あとコレね」

 

 言いながら、アーチは黙って借りていたモガの左腕を差し出してきたので、受け取る。


「? どうした。その手を放せ」

「コレ渡したら、今日からちゃんと食べるって約束できる?」

「ちゃんと、とは。有機物をか?」

「有機物っていうか、アタシの料理をよ。どうする?」


 どうもこうもないだろ。メインウェポンの腕を返してもらえないのでは、さすがにモガも拒否しきれない。


 素直に腕を装着して、アーチの隣りに腰を下ろした。嫌々ながらに肉を咀嚼し、菜を食み、水でゾワゾワを誤魔化しどうにか喉へ流し込む。


「モガ。アンタ意外と葉物が好きなのね」

「まぁな。刃物はキライじゃない」

「だと思った。やっぱおチビたちと変わんないわアンタ。好き嫌いは顔に出ちゃうもんよねー」


 機械たるギアニックが本当に食べてしまって構わないものなのかどうか。

 葉っぱも肉も有機物であることに変わりないし、モガの胸中ではまだまだ嫌疑が残るものの、脂っこい肉より水分を主に含んでいる葉物の方がモガにとって抵抗が少ないのが現実だった。

 

 モガが一般宿民の約三倍の時間をかけて朝食を終える頃、チョオローから声がかかる。


 ワシの小屋に来とくれ、と長い藁のテントを指差すので、モガは使った食器を洗ってから向かうことにした。

(評価・感想・ログハウス引換券お待ちしております)

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