【≠《ディファインブレイク》】4 25/32
がんばろう。
私といっしょに無理せずがんばろうぜ。
「ギ、ぃイいぃアアあAHHHHHッ!?」
≠《ディファインブレイク》の=がセンガの=《オーバーラップ》を弾く。
クナイとダークアームブレードどちらの武装も無力化したところに、すかさず/の一撃を放つ。
会心の新関数が、モガに勝利をもたらした。
「ぐ、……ぁあ、はぁ。おれっ、様はぁ……たった今からデータを捨てる……!」
「……………………」
瀕死のボディが何か発しているが、強まった雨にかき消されて聞き取れない。
≠《ディファインブレイカー》の最後の一撃は、センガのボディを痛烈に捉えた。
胸が二つに断ち分かれるほどの深い切り傷を湛えたセンガは、切られた格好のままピクリとも動かない。
「今っさら捨てても、おせぇのか……クソッ、たれがぁ……っ!」
センガのボディから禍々しい瘴気が離れていき、黒かった姿が普段通りのモガのコピーボディへと戻っていく。
センガの左腕に取り付き、異様なプレッシャーを放っていた黒いアームブレードも消えて、モガと同じ緑の刃に戻る。
「終わった、か……」
問いかけるような呟きに答えは返ってこない。
代わりに、対峙するセンガのボディがぐらっとよろめく。
鉄塊となったセンガが、ゆっくりと、時間をかけて仰向けに倒れた。
センガの顔に、傷口に、雨が落ちる。
「勝利したが……くっ。オレも無キズとはいかないか」
重力に負けて、モガも平原に片膝を付く。
治癒の炎のおかげで外傷こそないものの、強い倦怠感がモガを襲った。
炎が消えた途端、モガは弱々しくくずおれる。
(おそらくはホノオのせいだな。エネルギーのショウモウが想像より激しい……!)
まだやる事はある。アーチたちに、戦いは終わったと、オレ自身の口で伝えなければ。
しかし、モガの身体は言うことを聞かない。
「……ぁ……さん」
「? 今のは……」
雨のノイズをかき分け、モガの聴覚センサーに声が届く。
声に平時の元気がなく、か細い。
センガらしくなかった。
いつもいつも騒々しく、モガシリーズの中でも末の方だからか、よく兄弟機相手にちょっかいをかけて回っていたというのに。
「か……ん……」
「どうした。またかまってほしいのか? 以前のオレたちがそうしていたように」
思うように動かない身体で、モガはどうにか顔を上げる。
センガは口先さえ動かせずにいた。ただ声帯付近に内蔵されたスピーカーから途切れ途切れの声を発している。
「かあ、さん……!」
「! ……センガ」
「ああ、かあさん……おれさまは、ただ、よォ……かぁさんをオモって……。あぁ、かあさん。かあさん。かあさん。か、あ、SA、……ン……」
「センガ……はっ」
次の瞬間、それがセンガの今際の言葉なのだと、モガには分かった。
「ザ、ザザーーーーーー――――」
砂嵐のノイズがセンガの喉から平原へと渡る。ノイズの主は胸の傷が開くのも厭わず、力強く身体をのけぞらせた。きっとこの数秒の後に、センガは静かに眠ってしまう。
(オマエが、死を嫌がっているのが分かる。どうしようもなく伝わってくる。いつかのイノシシ・アニマもそんな風だったんだ)
自分とは平行線の信念だったが、それでもセンガの無念を悼まずにはいられなかった。
砂嵐のようなセンガのノイズがやがて止んだ。
聴覚センサーに雨音が戻って来る。
「こんなモノがヘイワへの道なのか。だとしたら、途方もない覇道だ」
モガに見守られてセンガは逝った。
宿と平原にかつての穏やかさが戻るのは間違いないだろう。
子供たちや、特にロクなんかは、ショックから立ち直るのに時間はかかるかもしれないが。
横たわるセンガにモガは寄り添い、深々と開いた傷が痛まないよう、そっとボディを抱え上げる。
「! ……」
弟について知らなかったことを、モガは一つ気づかされた。
「オレの姿をコピーした割にひ弱な体躯だな。こんなカラダでは、剣にロクな重心も乗らないだろう?」
今になって知った。
コピー状態であっても、弟のボディは意外なほど軽い。傭兵と内偵では元となる造りが違うからか。
センガは見かけ以上にひ弱なボディで戦っていたらしい。
「なにが」
今さら考えて何になる。
「なにがディファインブレイクだ。巫山戯ているのか!」
物言わぬセンガをさらに持ち上げる。自分の胴とセンガの胴がくっつくほど近くに抱き寄せた。
「どうした。おい。起きてみせろっ。そういえば、うっかり戦場に踏み込んでは、死んだふりばかりでやり過ごしていたな」
モガはもう一度浅紅の炎を呼び出そうと頭の中で強く念じるが、マントはいつまでも濡れたままだぶついている。
とても炎を起こせる状態ではなかった。
「今回もそうなんじゃないか?」
熱を持って稼働していた二人のボディを、雨粒が徐々に冷ましていく。
心なしか、センガのボディの方が、より冷たい。
「モガ! どうなったの……って、うわ」
戦闘音がしなくなって様子を見に来たのか。
アーチからすれば、モガが停止したモガを抱きしめているように見えているはずだ。
「それ、センガよね。アンタ何やってんのよ?」
「センガが目を覚まさない」
モガは差し迫って顔を上げる。
リアクションに困ったような、微妙に引き攣った表情のアーチと目が合った。
「あ、当たり前でしょ。なによ、ヘンなの。アンタがそれを倒してくれたとこ、アタシはちゃんと見守ってたわよ」
「チガウ。この雨でホノオがカンゼンに消えた。センガは、もう、助からない」
平和のために必要な戦いがあると、モガだって一万年前から理解していた。
それでも、譲れない事はある。
「なに言ってんのよ。アタシたちを守って、モガも生き残ってくれて……ほんとによかった」
(こんな凄惨な戦場は……ジエに見せられたものじゃない)
センガなら照れくさがるだろうと思いつつも、モガはセンガのボディを抱き抱えると、宿に背を向けて歩き出した。
「ちょっと、どこ行くの」
ジエにとってはモガシリーズの誰もが友人、兄弟、親代わり……大切な存在だった。モガシリーズ同士の争いなど、ジエは何があっても望まない。
宿や平原が平和になろうと。そのためにジエが悲しむくらいなら、オレは――――。
「…………は? なによそれ」
「アーチ。オレは」
「戦ってるときに頭でも打った?」
困ったようなアーチの態度が、一変して冷たくなる。
「ほっときなさいよ、そんなもの」
モガは思わずアーチを振り返った。
空色の瞳は鋭く剥かれ、アーチの言葉は降る雨以上に冷たい。
「アンタ、最初からそれを助けるつもりだってこと? 信じらんない。アタシまで戦わせておいて」
「おい」
「なによ。まさか結局、アンタもそれと仲間なわけ?」
「ソレ、ではない。テイセイしろ。センガは……オレ、の……ザザ――――」
モガは突然、腰から下が消えたように支えを失った。
「……? ちょっと!」
さしたる重さもないセンガのボディが、ガクンと抱え難くなる。
センガが重くなったのではない、自分の力が急激に足りなくなっている。
激しい戦闘を終えてもうじき、モガはエネルギー切れを起こす。
「ザザ――……オレの、おトうとヲ……ザザ、たす……け」
「もう! しっかりしなさいっての! 助けに来てくれたと思ったら、今度はセンガなんかを助けたいとか……しかもけっこうマジだし。意味不明」
センガのボディを取り落とし、ついにモガ自身も地面に手をついた。
「アタシにどうしろってのよ!」
アーチはどちらも庇わなかった。センガはともかく、そのセンガを救命しようと動くモガに対して、彼女はハッキリと不信を向けている。
「オレ、はヘイキ、だ」
「平気ったって……」
戦闘で受けたダメージは炎が即座に修復していたから、モガの方はスリープすれば直る。
そう言いたいのだろうが、エネルギー切れ寸前のモガがアーチの目には危篤に映る。
「あまり時間はない……! どうスれば、いイカ、と、オレにキいたな……」
「でもアタシはっ、そいつだけはっ!」
死に瀕するように喘ぐモガを前にしても、アーチの心は決まらない。
信じていたモガが、家族の仇であるセンガを助けるなどと言い出すから、アーチは自分がどうするべきか、揺れに揺れている。
「ザザ……オトウトな、んだ。アーチ……センガをタノ、む……――――」
「もういいわ! アンタがやらないってんなら……アタシがそいつを殺す」
そう言い残したのを最期に、モガの口からも泡を吹くような砂嵐が溢れた。
アーチは胸中で反芻する。
モガの弟。
「……だからって!」
モガは眠ってしまった。
もう片方の奴も、もう動かない。
「……なによ、なによなによ! 助けるとか殺すとか……とっくにくたばってるじゃないっ!! チクショウっ!」
地面に倒れる二人を前にして、アーチはどうするでもなく立ち尽くした。
ザラザラした砂嵐のノイズと雨。
戦いで傷ついた平原が泣き叫んでいるみたいだと、アーチは妙に冷静な頭でそんなことを思った。
「モガには悪いけど……いくらアタシでも持ち合わせて無いから。こんな奴にまで焼いてやる世話なんて」
雨の中にセンガを捨て置き、モガのボディを大事に抱えると、アーチは宿へと帰っていった。
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