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【≠《ディファインブレイク》】1 22/32

平穏が去って終わり、ではないらしいです。


続きます。

 土道に積み上がる枯れ葉と一緒に、モガはどれぐらいの時間を眠っていただろうか。


「! 森が燃えている。なにがあった」


 ここが本当に森かどうか判別がつかないほどの煙。

 視界一面が浅紅色の炎、炎、炎。


 跳ね起きて辺りを見渡すが、視線をどこまで飛ばしても景色は一様に燃え盛っていた。


 そして異常事態がもう一つ。

 瀕死だった状態から、平然と立ち上がれている今の自分とは。


「オレのキノウも回復しているだと……。いや、それよりも。今はアーチをところへ」


 機能停止から快復したボディを全力で駆動させ、アーチが戦っている宿に駆け出す。

 ダッシュが速かった。明らかに機動力が増している。


 数段高まったコンディションに気を取られて、炎を浴びたの枯れ葉が灰にならず分厚い緑の葉へと蘇っている事に気づく余裕はなかった。


 一体誰が森に火を放ったのか。思い当たる人物は一人だが、果たしてセンガにそうまでする理由があるだろうか。


「チッ、まんとに引火していたか」


 草木から燃え移りでもしたのか、いつの間にかマントが燃え上がっていた。

 マントは炎の塊となってモガのボディをすっぽり覆っている。


 傍から見れば丸焼きなのだが、炎はモガに一切の苦痛を与えない。


「このホノオ、暖かく心地いい。キズついたパーツから、ジエに補修を施された時と同じ(ぬく)みを感じる」


 浅紅の炎はモガを焼かないどころか、ボディの傷を癒し、侵入したウィルスを滅していく。

 エネルギーを浪費する無茶なダッシュを続けても、浅紅の炎が更なるエネルギーをモガに湧き上がらせた。


 ジエがくれたマントと同じピンク、浅紅の炎。

 マントが持つ権能を目の当たりにして、モガはジエのプレゼントを理解した。


「まんと……いや。マントとはこうやって使うものだったのか」


 草木から燃え移ったのではない。モガのマントが、最初に森を燃やしたのだ。

 停止したモガの命をもう一度灯すために。


「ジエ。今なら分かる。オマエが最後の時間を使って、オレにコレを託した意味が……!」


 アーチやロクを助けるため、モガは宿へと急いだ。

 モガの疾走を受け、フワンフワンとマントが(なび)く。

 靡くマントが火の粉を散らす。

 散った火の粉が、倒木の苔に舞い降りる。

 火の粉が舞い落ちた部分の苔から、パッと一輪花が咲く。

 

 マキナとの戦いで荒らしてしまった木々や自然が、炎を浴びて回復していく。

 回復どころか、とうに死んだはずの枯れ葉までもが蘇っていく奇跡を、モガは横目に確認した。


「フッ。やはりジエには敵わん。どこまでもオレを導くつもりか」


 浅紅の火球となって森を抜け、宿の裏手にたどり着く。

 灯り一つない宿は静かで生気を感じない。

 宿民は寝静まるどころか、永遠の眠りに就いてしまっている。笑えない冗談のようだが、通信で観測した悲劇はすでに起こってしまった。


 反対に平原の方は騒がしい。

 狂乱のセンガが支離滅裂に叫んでいる。

 アーチが必死の反抗をしている。

 駆けつけたくて胸をざわついた。


(すぐに行く。それまではどうか、持ちこたえてくれ)


 モガは治癒の炎を完全に理解したわけではない。自分以外のギアニックにも効果を発揮するかは分からないし、時間が経ち過ぎたダメージには効き目が無い可能性もある。


 そもそも、マントの炎がいつまで保つかも不明だ。モガの意思と関係なく、ふとした拍子に立ち消えてしまうかもしれない。


 考えれば考えるほど、宿を優先するしかなかった。

 アーチが孤独の戦いを繰り広げている平原を後回しにして、裏口から宿内へ飛び込む。


 とにかく食堂を目指して廊下を跳んだ。

 センガに壊された食堂の扉。その向こうに、通信と変わらない凄惨な光景が放置されてあった。


 荒らされた備品、真っ二つの食卓、真っ黒く固まった(オイルブラッド)溜まり。


 浅紅の炎が、暗い部屋の惨状を浮き彫りにする。

 扉のすぐそばに、恐ろしい物から逃れようとする格好で倒れた女のギアニックがいた。


「テリッサ」


 テーブルの下に、仰向けのミナールを見つけた。

 最期までオレを信じ説得を試み、あっけなく刃で斬り裂かれた彼女。

 死に顔は深い絶望を湛えていた。


「ミナール……。っ、あれは」


 素直で真面目だと、それはオマエの方こそだろう?

 オマエがそんなだから、オレは畑仕事を面倒くさがる事が出来なかった。

 どうしてもサボれなかったんだ、ずるいぞ。


「アンガス……くっ、炎よ!」


 アームブレードやバリアブルスピア同様、マントが武装(デバイス)ならば、道理としては治癒の炎が関数(メソッド)のはず。


(ジエ、頼む。どうかチカラをかしてくれ!)


 彷徨える魂の目印となれるよう、旗を振るイメージでマントを翻した。


 ()(いただ)きし (つわもの)覇道(はどう)

 機略(きりゃく)思惑(おもわく)蔓延(はびこ)残虐(ざんぎゃく)

 ()焦熱(しょうねつ)が (たい)らげん


 未知の力に戸惑っている場合ではない。使い方さえわからずとも挑まないわけにはいかない。

 血みどろの仲間を前にして、モガは手を尽くした。


 その結果、奇跡は起こった。

 マントから無数の火の粉が舞い飛ぶと、倒れた仲間のボディにこびり付く。

 火種がチラチラと燃え出したかと思った、刹那。


「――――、やったか」


 亡骸を火種にして、いくつもの浅紅の火柱が屹立した。

 火柱の数は三十余りある。アーチたちを除いた全員が、復活の炎を浴びている。


(どうだ。オレが再起動したならば、きっとオマエたちも――――)


 果たして、火柱の中から声が上がった。


「あつく……ない!?」

「「「ないーーー!!!」」」

「ちょ、火事! ていうか無事!?」

「その声、かーちゃん!」

「ジージー、そこにいるの!? 平気!?」

「よかった……あたし、生きてる」

「テリッサも生きてるってー!」

「皆いるか!? 動けない者はいないか」

「えっ……うわ、けんのひと!?」

「こちらベアルブーツ。僕は平気だ」

「おれ腕まるごとなくなったけど痛くないぜ、てか傷口が燃えて腕生えてきてんだわ!」

「モガがいるって……逃げた方がいいんじゃない!?」

「あたし刺されます? あたし刺されますぅ!」

「! 待て。オレは――――」


 先の出来事を思い出す。宿民はモガの姿をコピーしたセンガに惨殺されたのだった。

 宿民たちからすれば、このモガが偽物とも限らなかった。


 喜んでばかりもいられない。一刻も早くアーチの助太刀に馳せるために、パニックは避けねばならない。


「何言ってんだいあんた。本物のモガに決まってるさね!」


 聞こえた声は、どうにか説明せねばと思った矢先だった。


「助けに来てくれたんだ……今度こそ、ほんとうに!」


 宿民のおかげで、モガが心配するような事態には陥らなかった。


「モガ……モガ。そこにいるのかい?」

「! その声、アンガスか。オレはここだ」


 火柱の奥から、アンガスが歩み寄って来る。彼の足取りは非常にしっかりしたもので、どこも(オイルブラッド)漏れしていない。


「暖かい……痛みが和らいでいく。このピンクの火を、君が?」

「ああ。オレもよく分かっていないが、オレの大切な友がくれた……『ナカヨシ』を救うためのチカラだ」

「モガ…………、すまない」


 モガが頭を下げられてしまった。過失はセンガを甘く見た自分にある。そう思っていたというのに、先にアンガスに謝られては逆に困る。 


「なぜ謝る?」

「…………君の姿で暴力を振るう、あいつ。僕は、あいつがモガ君なんだと疑わなかった。話せば止まってくれると、本気で思っていた」

「………………アンガスよ」

「君がそんなことするはずないって分かっていたのに……!」

「まぁ待てアンガス。オレはまだ、やらねばならない事がある」


 アンガスがハッとする。モガを引き留めてはならないと理解していながらも、まだ言いたいことがたくさんある、という顔だ。


「アーチのところへ行くんだね。きっとあの、君の偽物もいるだろうけど……」

「大丈夫だ、オレが終わらせる。だが……どうしても謝意を示したいなら、そうだな……仕事を替わってくれ」

「え……っと、なんだって?」


 アンガスの向こう側、食堂の火柱が一つ、また一つと消えていく。傷や機能を完全に回復し、役目を終えて燃え尽きたのだろうか。


 すべての火柱が消える頃には、モガの見知った顔が一人も欠けることなく蘇っていた。


「畑仕事だ、替わってくれ。全てに決着が付けば、この宿はヘイワに……平和が、戻る」

「ああ、信じるよ。今度は絶対に」

「平和が戻って来てなお、オマエの気が済まないというのなら。その時はアンガス、オマエがオレの分の仕事をこなせばいい。いいな?」

「もう、こんな僕と一緒に畑仕事なんて出来ないってこと……かい?」

「チガウ。そうではない。そうではなくてだな。つまり」


 自分としたことが、言葉を間違えたか。これがアーチなら伝わるんだが、うむ。

 もっと言い繕うべきか?


「やっぱりモガ君は素直で真面目だ。おまけに、冗談が通じないときた」

「ジョウダン? よしてもらおう。まだアンシンしていいジョウキョウではない」


 モガは宿民に良くしてもらっていた。しかし面と向かってからかわれるのは初めての事だった。

 こんな関係性が明日からも続くなら、それはきっと、とても心地良いものだろう。


 ――――彼らと宿を、守り切らなければ。

 今度こそ、絶対に。


「ごめん。嬉しくてつい。僕たちならもう平気だよ。アーチのところへ行ってあげて欲しい」

「! おい」


 またもや頭を下げられてしまった。アンガスだけではない。アンガスに続いて、宿の大人たちが揃ってモガを頼っている。


「けんのひと……アーチねぇをたすけて!」

「「「たすけて!!!」」」 

「…………」


 子供たちまで、大人に習っている。


「……ああ。必ず」


 宿民たちに託されたものの大きさを感じながら、宿を出た。

 玄関口を出てすぐ、モガのつま先がうっかり何かの金属を蹴った。


「アーチの腕か。部屋では断られたが、ジョウキョウ的にそうも言ってられん。借りるぞ」


 アームブレードをアーチに渡し、バリアブルスピアをセンガに奪われたモガが、唯一の対抗手段を身に着ける。


「一撃で仕留めたいところだが」


 正面の平原に目を戻す。悪を煮詰めたように黒いボディの自分自身が佇んでいた。

 夜空より暗い闇をまとい、ボロボロのアーチに舌なめずりで刃を向ける邪悪。


 あれがセンガか。

 迂闊なオレが敗北したせいで、あんな狂気のギアニックを宿に解き放ってしまったのか。

 

 暗黒のモガに対抗するように、浅紅のマントが煌々と燃ゆる。


 モガの炎が闇を払うか、センガの救世が平和を葬るか。


 ジエは。

 彼女はどちらの結末を望むのだろうか。


「Ѧ《プラズマフィスト》ッ!!」

(評価・感想・≠←コレの正しい読み方、お待ちしております)


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