表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
21/71

【平穏は去る】6 21/32

(ココのスペースの使い方。たまにはなんも書かない日があってもいい)

『モガにぃ……きて、くれたっ』

「ロク……! ダメだ、こっちへ来るな。気づいてくれ!」

『モガにぃ……おかあさんが、いないの、どこにも』

「はぁっ……っ、オマエの母はおそらく、……っ!」


 センガはユスに為り変わって宿に来た。ということは、宿にたどり着く以前に本物のユスと出会っていたはずだ。


 センガが本物のユスをどうしたのか、具体的には分からない。

 少なくとも、決してロクと出会えないような状態に陥れたはずだ。

 宿で鉢合わせれば、自身の潜伏が危うくなるから。


『ガキぃ、テメェのママンは死んだZE。もうウン百年も前にな』

『え……なにいって、るの?』

『モガや。冗談(ぢょうだん)はやめんか。こんな大変な時に』

『≒《ニアライ~~~ズ》☆ へへッ……コレだろ、ママンって?』


 目線が高くなり、通信から届く声音が淑女に変わる。

 宿民たちが驚愕の目でセンガを見る。中でも、チョオローはひときわ戦慄に染まっていた。


『ごめんねロクちゃん。急にこんな事言ってビックリしちゃったね……そーです、私がロクのお母さんです。ザンネン!』

「ふざけるのもタイガイにしろ……センガぁ!」


 目の前で起こった出来事を受け入れきれないのか、ロクは戸惑っている。他の宿民も事態を吞み込めずにいた。


 ショックの只中で、ただ一人危機を理解した人物がいた。


『センガぢゃな……貴様ぁ!』

『ロクちゃん、ちょっとの間お外で待っててくれる? お母さんは宿のみなさんとやることがあるの』

『モガにぃ、は?』

『モガさんは死んだよ。ね? 良い子だから外で待ってて……ぐぇっ、』


 一足早く正体に気づいたチョオローがユス、もといセンガを突き飛ばす。


『今のうちに逃げぃ、ロク! 皆もぢゃ、こやつはモガぢゃない。こやつこそ首謀者ぢゃぞ!』

『宿ジジイぃ〜……テんメェ~……!』


 突き飛ばされたユスがモガへと為り変わる。

 バリアブルスピアでチョオローを()ね退ける頃には、ロクの姿は食堂から消えていた。


 ロクはちゃんと、外へ逃げてくれただろうか。


「そうだ……逃げろ。オレが行くまで生きのびろ!」

『逃がすかよォ……・《プッシュ》』

『ぐほぉ、っ!?』

「! ――――」


 一人の宿民が、腹を深く抉られてうずくまる。

 狂刃と化したバリアブルスピアは、それだけでは止まらない。


『:《バッシュ》』

『ぎぇあっ……ぐぁあっ!』


 うずくまった宿民の後頭部に、釘を打つような一刺し。

 逃げ惑う宿民の心臓部を背後から一本突き。

 どれもこれも死は避けられない一閃だった。


『も、モガ……殺さないでくれぇ!』

『けんのひと、どうかしちゃったの……ねぇ、なんでパパを』

『∴《ラッシュ》』

『ぶはぁっ!』

『ぎゅぶっ』

「なんだ……? ……この光景をオレに見せるのが救世か……?」


 モガと宿民たちが初めて出会ったのが食堂だった。

 さっきまでアーチの手料理を食べていたテーブルに血潮が飛び散る。


『一体何があったんだモガ! き、君はとても素直で! 畑仕事にも真面目で……嫌な顔一つせず、僕らを手伝ってくれたじゃないか!』

「あ、アンガス……チガウんだ」

『無口なあなたが怖いって子もいたけど……良い人だって、みんなすぐ気づいたわ』

「ミナール……キケンだ、ミナール!」

『あなたはこんな事する人じゃないわ! ちゃんと話してくれれば……』

『アリガトウミナール……∴《ラッシュ》』


 テーブルの血潮が増えた。


「アンガス、ミナール、ナッジ。レイル、シア……ベアルブーツ。……あ」

『かーちゃん……とーちゃん、起きて、みんなしんじゃう、たすけて』


 ジスタマインと、彼女をかばった夫のジエン。宿で出会って、そのまま夫婦になったそうだ。

 アーチが羨ましそうに語っていたのを覚えている。


 冷えて鉄塊となった母と父のボディを、息子のジージーが懸命にゆすっている。


「じ………ジージー。後ろにオレが……いやオレではない、チガウ、センガが!」

『エイヤっ』


 バヂィッ!!

 槍の威力に、小さな体が破裂する。

 新しい血潮と親子そろいの鉄塊が出来上がった。


 主観視点で繰り広げられるクリアな(虐殺)の光景が、モガの視界いっぱいに広がる。

 ジエが整えただけあって、通信映像は高解像度。

 自分がその場にいるような臨場感がある。

 自分が殺しているんじゃないかと錯覚する。


『ンー、あと一歩足りねェ。なんか違ェ。なんでオマタのムズムズが止まらねェンだ! このモドカしさ……はっ、ソウカ!』

『やだ、やだよぉ。みんなぁ……けんのひと、カイブツから、ボクをたすけてくれたのにギぃ』

『もうやめてひゅブゥ』

『ころさないでころさないでころじっ』

『∴《ラッシュ》、∴《ラッシュ》、∴《ラッシュ》∴《ラッシュ》ぁあああッ!

 ∴∴∴∴∴! 

 うおお〜∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴!

 ∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴~~~ッ!!

 ∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴、∴《ラッシュ》!!!!

 ぎぎぼぎぼぎぼ気”持”ぢじい”い”いぃぃ~‼』


 自分の右手が、自分の槍が宿の仲間を殺めていく。

 殺される直前の恐怖に晒され、竦み上がった仲間の表情と目が合う。

 もう一度夢だと勘違いしたくなった。


 何人もの仲間に怖がられる。説得を試みられる。

 でも最後には、死で強張った顔が血だまりに沈む。例外はなかった。


「クル、オーモン、テリッサ。おのれ………センガぁ!!」


 悪夢には間違いない。直視し難いが、映像から顔を背けることもできない。


 せめて焦点を逸らし続けていると、映像の端に何かが動くのを捉えた。


(チョオロー……まだ息がある!)


『ふぅ……そろそろイくか。アニキの左腕も回収しねェといけねェ』


 宿民の亡骸を蹴散らし踏み荒らし食堂を横切る。

 湿った足音と、興奮で乱れたセンガの鼻息が食堂のぬるい空気を混ぜる。

 センガは自身の狂乱を抑えようともせず、食堂の扉を突き破った。


『……ぁ』

『あれ、ロクちゃんマダいたの!?!? どうちたの~ヨチヨチぃ♡』


 ロクが不安げな瞳でこちらを、センガを見上げている。


「どうして……なぜなんだロク。なぜ逃げなかったんだ!」

『モガにぃ、おかあさんがね、ここで待っててって』

「お、オマエは何を言っている……?」


 モガは愕然とした。

 母を信じて待っていたというのか?

 この異様な状況で、本当に母が迎えに来ると思っていたのか?


 ――――許せないのはセンガだ。


『ロクちゃん寂しかったねぇ〜。ってイケネ、イマ俺様ぁ女形じゃねェ。アニキだったは』

『良い子にしててねって、だから……待ってた、の』

『あ~あ。ナルホド。ようし、モガにぃがおかあさんのとこ連れてってあげよう。アニキのイうコトちゃんと聞けるか?』


 自分の顔で笑いかけられでもしたのか、ロクは懸命に頷いた。

 期待に応えたい、良い子に出来るもん、とでも言い出しそうなが純粋さが見ていられなかった。


「モア、どこにいる。こうして通信しているのに、サーバーのオマエが見ていないはずないだろう」


 ロクの手を引いて、センガが宿の外へ出た。

 外にはアーチがいる。つまり、センガがやろうとしている事は一つしかない。

 自分が食い止めなければ。


「救世とは何なんだッ‼ こんなことをして何になるって言うんだッ……モアよ、応えてくれッ」


 モガを目にした宿民と同じように、モガも神に縋りたかった。

 自分の祈るような声が、遠くなっていく。

 センガからの映像が途切れ途切れになる。

 悪夢だった通信がようやく切断されようとしている。


 通信が途切れる間際、宿の外でジエが戦っているのが見えた。アームブレードを振るって、宿を守ろうと必死なのが伝わってくる。


(すまないアーチ。オマエの守りたかったモノはもう、全て……っ)


『ハァアァァェェぃイ、アーチおねいさん注☆目ゥ!!!!!!!!』


 センガのひしゃげた声にアーチが振り返った時、通信が完全に途絶えた。

 モガの意識は真っ暗な虚無に投げ出される。


 どんなに抗議しても、センガにしてやられた自分に、もう出来ることはない。


 機能が完全に停止して死んでも、自分は宿民と同じ場所へはいけないだろう。


 センガの邪悪を見破れなかった自分は地獄へ送られるのだ。

 こんな通信など地獄の序章に過ぎなくて、今度は自分が宿民に殺されるのかもしれない。


 殺されるたびに生き返り、殺されるために生き返り、アーチやロクからも報いを受けて最後にはスクラップになる。ギアニックの地獄はきっとそんな場所だ。


「生き返る、生き返りか。もしオレが生き返って駆けつければ、アーチやロクだけでも救える……か?」


 我ながら馬鹿馬鹿しいと思った。だが考えずにはいられない。

 またアーチと狩りをし、ロクやチョオローと食事を共にする明日。


 いまだ有機物は受け付けない。だかいつか克服し、満足そうな自分の顔をアーチに見せられる日が来るのではないか。


 そんな平和な営みが、もう二度とあり得ないのだろうか。

 死んでしまった宿の皆をも再起動させ、穏やかな日々を取り戻す方法がないものか。


 ジエなら知っているかもしれない。ギアニックの創始者なら、彼らを甦らせるプログラムでもなんでも作れるはずだ。


 真っ暗い意識の海を漂っていると、モガの前後に道が浮かび上がる。

 ああ、今度こそ自分は死ぬのだろうか。


(ジエよ。オマエはどっちにいる(・・・・・・)。どっちに行けばオマエに逢えるんだ?)


 正面の道は現実感がなくて真っ白。とにかく明るくて気持ちよさそうな場所に続いている。

 川を横切る必要がありそうだが、そこを超えた先に花畑が見える。

 死んでいった子型の宿民が、大人たちに草花の冠をプレゼントしていた。花冠のおかげか、(みな)の顔つきは安らかだ。


(! なんだ、後ろからか……?)


 背中側の道はごう、ごうと燃えている。

 道を焼く炎は、ジエがくれたマントとよく似た浅紅色をしていた。


(暖かい……フッ。まんとと同じ、おかしな色のホノオだ。アチラに行けば、このまんとの意味でも分かるのか?)


 業火がひしめく覇道を、モガは選んだ。

 燃え盛る浅紅の向こうで、ジエの呼ぶ声がしたから。


(評価・感想お待ちしております)

(ここまでついて来てくれている読者様。ありがとうございます!)

(励みになっております)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ