【平穏は去る】5 20/32
本日も学校&部活&お仕事、お疲れ様です。
休日だった読者様も、お疲れ様です。
読者様におかれましては、上記のような日常をそれぞれお過ごしかと思われます。
しかし作品内におきましては、平穏が去ります。
去ります。
時刻は、傷だらけになったアーチの眼前で宿が炎上する少し前。
「ここは……どこだ?」
センガとの決戦に敗北を喫し、モガは機能停止した。
覚えているのは槍でセンガを突く寸前、背中を無数のクナイに刺されたこと。左腕の無い自分の姿を写し取り立ち去って行くセンガを、土や枯れ葉同然の低みから見上げていたこと。
そうだ、バリアブルスピアも奪われてしまった。
あれはモガが二歳になった祝いに、ジエが開発し贈ってくれた物だった。
(あのクナイ、バリアブルスピアで叩き落として終わりではなかった。おそらく糸状の何かで操っていたのだろう。センガと、再び浮き上がるクナイに挟み撃ちされた、というわけか……いや、それより)
自分は負けた。クナイにウィルスが塗られていたんだろう、ボディが酷い麻痺を引き起こし、身動き一つ取れなかった。
倒れたまま放置され、刺傷の応急処置も出来ず、血が大量に漏れて止まらなかった。
なすすべなく活動限界がきて機能停止。
というのが、敗北の経緯だ。
そして現在、モガはまるで幽体となって宿へと走っている。
不思議で懐かしい感覚だ。自分は今、何者かの視界を乗っ取っているような感覚。
土と木々の獣道を駆け抜け、道が無ければ奪われたはずのバリアブルスピアで道を拓く。
モガの幽体はとにかく真っ直ぐに突き進んだ。
ボディが完全に停止したモガに、自分の足で走れるはずはない。冷静すぎる理屈を無視して視界はぐんぐんと木々を抜けていく。手足を動かせるはずもないのに、景色が進んでいく。
「オレはまた、ユメを見ているのか?」
列車の先頭車両に乗っている。あるいは没入感の高い映像を見せられているような感覚だった。
「早く目覚めなければ。同じテツを踏むわけにはいかない」
自分が眠りこけることで、ジエに続き宿民までもが遠ざかっていくなら、起きて駆けつけなければ。
センガの次の狙いはアームブレードを持っているアーチだろう。立ち去る寸前のセンガは、左腕を欠いた自分の姿をしていた。アームブレードを手にすれば、コピーは完全完了する。
宿を守るために、アーチはきっとまだ戦いを続けているはず。ならば、急がなければ。
一万年を経て、センガはただの諜報員でなくなった。
アーチがもし、モガさえ下したセンガと一騎打ちになれば、待っているのは平和とは程遠い最悪の未来。
モガが状況を整理する間も、夢らしき景色は次々に切り替わっていった。木々を抜けて山道が終わると、狩りに向かう時に通る平坦な道に出る。
川と平原に挟まれた小道は、宿で過ごして約一週間のモガもすっかり見知った場所で、センガを引きつけるために通った時とまるで装いが変わっていない。
夢はどこまでも現実に忠実で、冷や汗が出るほどにリアルだった。
耳に金属の破砕音が届く。
平原の惨状が伝わってきた。
(マキナが砕ける音……アーチか!)
青々とした平原を、夥しいマキナの群れが黒一色に変えている。
そのマキナの群れが波となって押し寄せる先に、モガの過ごした宿。
そして、勇ましく矢を放つアーチがいた。宿を背にして、宿を守っている。
(オレに差し向けた十倍はいるな。これだけのマキナをセンガが集めていたのか)
『くっそおぉぉぉおおっ!』
黒一色の戦場に一条の雷撃が迸った。ちっぽけなフラッシュが絶望的な数のマキナを浮かび上がらせ、そのうちのたった一体を葬って消える。
雷撃をいくつ放っても、圧倒的な戦力差は覆らない。
自分の幽体がアーチのそばに駆け寄る。
「まだ終わっていない……アーチ。しっかりしろアーチ!」
モガに出来たことは、発破をかけることだけだった。
どうにか戦況を保っているが、すぐに駆け付けなければ無事では済まないのは明らか。一対大群で押し込まれれば、宿はたちまち蹂躙されるだろう。
(オレは何をしている……いつまで指をくわえているッ)
目覚めろ。起きて戦え。夢から醒めようと自意識がもがく。しかし、何も起こらなかった。
大群のマキナに屈さず、アーチがクロスボウを構え直す。
「そうだ。それでいい……オレもすぐに」まだ行けそうか?』
自分の発した「声」と自分によく似た『声』が被って、途端に居心地が悪くなる。
奇妙な現象だが、慣れ親しんだ感覚でもあった。
『……っ。当然ッ! ここまで来たら、なんだってやってやるっての……ふッ!!』
視点は自分と同じ高さ、しかし自分ではない誰かが、映像の中でアーチと言葉を交わしている。
夢だと思っていた現象の正体にはたときづいて、モガは戦慄した。
「コレは、通信か。センガとの回線が開かれているのか。一体なぜ?」
センガが捉える光景がそのまま、リアルタイムで送られてきている。
主観視点の通信映像は、自分がその場にいるような没入感がある。そのせいで夢だ幽体だと勘違いしていた。
「モア。聞こえるか、モア。……やはりダメか」
サーバー・モアからは応答がない。
モガがこの時代で起動した直後も、モアは音信不通だった。通信が回復した今ならと思ったが、昔とは事情が異なるようだ。
『流石だな。オレは裏手の森からのマキナをケイカイする。正面は頼んだぞ、アーチ』
モガの姿モガの声で、センガがアーチに告げる。
森に向かうという言葉とは裏腹に、センガは宿へと侵入していった。
「何をするつもりなんだ……おい」
不気味な足取りで宿の廊下を闊歩する。
『……………………』
「おい。聞こえているんだろう。センガ!」
ユスとして宿で寝食していたセンガは、勝手知ったる廊下をずかずか進んでいく。
モガは気づいた。センガは食堂を目指している。
「まさか……よせ。やめろ」
食堂には宿民が集まっているはずだ。
宿に危険が生じた場合、各々の部屋より一か所に集まった方が守りやすいから、と。
提案したのはチョオローだった。
センガが戦利品のバリアブルスピアを展開する。灯りの消えた廊下を緑の電光が照らし出す。
「止まれセンガ! アームブレードならアーチが持っている。宿の中にはない!」
『ククク。宿ジジイがキチンと仕事したんなら……ここだなァ』
固く閉ざされた食堂の扉を前にして、センガがニタリと笑った気がした。
通信で表情は分からない。それでも悪寒が止まらない。
「目的はオレのチカラだったんじゃないのか。何をするつもりなんだ……答えろセンガ!」
扉の隙間に穂先を差し入れた時、扉の向こうから悲鳴が聞こえた。
『落ち着くんぢゃ。平原の草木とよく似た、緑の光……モガの武器の光ぢゃよ! 安心せい、モガがきたんぢゃ!』
『馬鹿で健気。コレで性別メスなら愛してやったのになァ~~~????』
扉の鍵が物騒な音を立てて壊れる。
食堂には、モガの知る宿民全員がいた。
畑仕事を共にした屈強な大人たちは、何かあれば身を挺して宿民を守るつもりなのだろう、顔に恐怖と戦意が同居していた。
子供たちは恐ろしさのあまり大人たちに泣きつく。
大人たちが一緒とはいえ、この状況。子供では心細くて仕方がないはずだ。
宿民の誰もが神に縋りたいと思った。
宿民の前に現れたモガは果たして救世主か、悪魔か。
扉の鍵を壊しても、センガはバリアブルスピアをしまわなかった。
『剣の人……来てくれたのか!』
「チガウ……ソイツはオレじゃない」
モガの到着に、大人たちが警戒を解いた。
『きいてよ! アーチねぇがひとりで、その……とにかくたいへんなんだって、たすけてあげて!』
『『『あげて~~~~!!!』』』
「もちろんだ、助けるとも。助けに行く……だからオマエたちは逃げろ!」
大人に習って、子供たちもホッとした様子だった。
母のいないロクは特に心細そうで、モガを一目見て大きく安堵する。
「まてロクっ、ソイツは!」
モガが、ユスでセンガだとは知らないロク。
『よかった、モガにぃ……!』
「止まれ。そんな、安心しきったカオで……近づいていい相手じゃない!」
映像の向こうで、ロクの嬉々とした瞳と目が合う。
潜んでいる邪心など疑いもせず、まるで当たり前な足取りでセンガに駆け寄った。
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