【平穏は去る】4 19/32
今話の投稿準備を完了したのが2023/03/06現在なのですが、2023/03/06現在、私は元気です。
天を刺すようにバリアブルスピアを掲げ、そして――――。
「かかれクソマキナ共ぉ! アームブレードの性能を引き出させろォ! アーチねぇ頑張って、応援してル!」
「GiiiAHーーーー!」
傍観者だったマキナの群れが、モガの号令で息を吹き返した。
(あのモガが従えてるんだとしても、ぜんぶぶっ倒すまでよ!)
「これ以上宿とみんなを傷つけたら殺す……いや、アンタはどうせ殺すけど」
「いいから戦えよオラァァン!? 宿民共はみ~んな家族なんだルオオオォォン? オマエがやらねば誰がやる!」
背筋を逆撫でするモガの哄笑を無視し、迎え撃とうと構える。
「い”ぎゅ、ぢゅあ”あ”っ!? はぁ、はぁっ……くっ!? うっ――――ぷ」
アームブレードの重みを感じると、身体中の痛みが舞い戻って来た。
「PiKiiiーーーーn!」
鉄の悪魔が牙を剝く。
アーチの苦悶に目ざとく気づいた一匹が意気揚々に躍りかかった。
「アンタはモガじゃないわ。アタシにとってのモガは、左腕にいるんだからっ!!」
闘志に呼応し、アームブレードの電光が迸る。
「/《スラッシュ》ッ」
「÷《ディバイド》!」
「○《ツイスト》ぉッ!!」
強烈な痛みに立ち止まらないよう、身体があげる悲鳴を自身の怒りで塗りつぶす。
腹から上る吐しゃ物に構わず、むしろ撒き散らしながら敵を蹴散らす。
あのモガを停止めるまで、動きを止めるつもりはない。
「アンタが最後。はあぁぁあっ、=《オーバーラップ》!!」
「PiGiiーーーー!!」
平原のマキナを一匹残らず=。
(まだ終わりじゃない……モガ!)
すぐさま平原から駆けていく。
宿の入り口に立ち塞がるモガは、従えたマキナが全て倒されたというのに、愉快そうに笑っていた。
一度見れば忘れないだろうというほどに、口元を邪悪に歪ませて。
「アンタって奴は……なんで笑ってられんよの!」
マキナと戦い終えたアーチの中に、二つの声がある。
「身体が限界だ。回路がどこもかしこも焼き切れている。このままではきっと自分の熱でボディが内側から溶けてしまう。
逃げるべき。戦っちゃダメ。」
「あいつが憎い、一刻も早く刺すべきだ、止まるな。モガを殺してしまえ。
退くな。踏み込んで戦え、殺せ!」
アーチの心は、後者の声に支配されていた。
槍でロクを竦み上がらせて弄ぶモガが、走るにつれ近くなっていく。その向こうでは冷や汗をかいたチョオローが倒れている。
圧倒的な怒りがアーチを駆り立てた。
「アンタがモガでも、誰でも許さない。殺す……ぶっ壊す!」
ロクが刺されてしまう、その前に。
勝負を決めるつもりでアームブレードを振りかぶる。
「ヴォイ!! ザコ相手に無双したからってのぼせンな女ぁ!! 人質サマがいる以上俺様の優位は揺るがな……。……………………ンわぁ」
振りかぶった刃が、モガに向かって振り下ろされることはなかった。
モガを討つより先に、アーチのボディに限界が来たのだ。
「いぅ、いぎィ~……っ~。ぐああぁぁーーーー!!!!」
「おほぉ? おぉ~絶景かなゼッケイかな。よく見たらバグの温床じゃねェかコレ? 当たり前ェだろガ女ぁ!! ザコ規格のパンピーが我らモガシリーズ様の御チカラ預かろうなンて百万年早ぇわヴォケ!!」
「こ、こんなとこで……ぐっ! 憎い……殺す……んぐぁ!?」
倒れ伏したアーチの横っ腹にモガのつま先が刺さる。
「ンな睨むな。コーフンすんだろ。俺様ハシャギ過ぎっとうっかりロクちゃん仕留めちまうかもだからさァ? エイっ、キックキック♡」
「ぐぶ、おぶぅ!」
「だめ、やめてくだ、さい……ぁ」
顔面を踏みつけにされ、視界がぐにゃんと歪みだした。地面と夜空の境界が曖昧になる。
「うわっばっちぃ! 足裏に女のゲロついちゃったYO」
「アーチねぇっ!」
視界が自分の吐しゃ物に塗れて、斬るべき相手の姿も見えなくなった。
「殺すうぅ……うあぁああぁーーーー!」
「まだ向かって来るか。ドMかよwww。次はドコ蹴って欲しい。なァ!?」
目を拭い、ロクとモガの間に割って入ろうと試みるも、モガはあっさりアーチを躱す。
「ぎゅえ、ごひゅぶぅ」
「だめ、アーチねぇ、し……しんじゃう。だめぇっ」
「あぁ~どいつもこいつもクる声で鳴きやがりゅ~……足裏のゲロもゲロ女の髪で拭いといて、と」
グリグリ足裏を押し付けられ、すでに土の上だった顔がさらに地面に擦り付けられた。
それでもまだ、アーチに抵抗の意思はある。
思いのまま殴りつけようと、起き上がる力を籠めれば籠めるほど、回路が焼き切れ吐き気が込み上げるだけで、倒れ伏したまま身体は立ち上がらなかった。
人の頭を足拭き代わりにするモガが、思い出したようにうるさく叫ぶ。
「あ、俺様としたことが。女子供に誑らかされてホンライの目的をワスれちゃいけねェ」
「おい朝だ女ぁ起きろ」
「大丈夫か」
「傷は浅いぞ」
「何勝手にノビてんだ起きてアニキの左腕返せやオラァァン!!!!」
気が触れた怒号と一緒にさらなる暴力が振り下ろさせる。のを覚悟したが、衝撃はピタリと止んだ。
「やめてって。いってる、しょ……!」
「ああ、ガキ? おまえはもうイラネ。ママンのとこ帰んな」
石蹴りでもするかのように、気安くロクを槍で薙ぎ捨てる。脇腹を深く抉られた小さな体が、土の地面に放り出された。
「いや失敬。このセンガ様こそがロクちゃんのママンだったんだっけか、ワリぃワリ」
「ぜひゅ……ぁ」
「あ。やべ。イマ言ったこと全部ナシね。俺様ぁセンガ様じゃないYO、すごくモガだよ」
モガの姿をコピーしたセンガは、小さな体躯から血を溢れさせるロクに目もくれず、うつぶせのアーチを蹴って転がした。
「ぐぅ。ロク……チョオロー、がふっ」
呼びかけても二人の声が帰ってこない。モガに、いやセンガに聴覚センサーを壊されたのだろうか。
それとも、二人とも、もう停止したのだろうか。
あと、この騒ぎに宿のみんなが気づかないはずない。宿の中から誰も助けに来てくれないのは、二人が最後だったってことだろうか。
「待っててロク。こいつを道連れにして、おねぇちゃんもすぐそっちに行くからね……!」
遠くでロクの血が止めどなく溢れている。ただでさえ小さな体なのに、ドクン、ドクンってたくさんの血を流してしまって。
血、ちゃんと残ってる?
「やくそく……増やしちゃった。でも平気よ。センガはアタシがぜったいころ――――ぢゅっ」
「はいはい。よく言えまちたねェ、カッコイイ♡ もっとイキってけゲロくそ女」
左腕が上になるまで何度もアーチを蹴り転がした。ようやく取り外しやすい角度になって、センガは腰を下ろす。
「ちゃんと外せっかな~コレ。ひょっとしてドライバーとかヒツヨーなカンジ? どう思うアーチねぇ。てかどうやって付けたの? ねね、ちゃんと聞いてるの? さみしいよ♡」
(こんな近くにいるのに……ちょっと刺せば殺せるのに、くっそぉ!)
「い”! ぎギぃ……!」
「大丈夫? イタいの? まぁ引っ張りゃ取れるか☆」
「んっ――――」
関節とアームブレードの接続が切れる。アームブレードは、いつもの左腕へとその形を戻した。
アーチはセンガに見下ろされながら熱い痛い吐く。
腹が溶け落ちて背中と一つになる、全身が灼けてのたうち回ると空が
青く、雲が白くて瞼の裏で視界が白んでいく。
地面が冷たくて気持ちよかった。
「麗しのアニキボデェ~に装備しまして……ピッタリだねェ~うん、ヨシ。やるぞ~。
……ママン、いや神よ!
嗚呼、愛しき我らが創造主どの!
ワタクシの、このセンガ様の声が届いていますか!?
今宵はその……ちょっと照れくさいですけど、お願ェがあって参りました!
まずはコチラをご覧ください!」
モガの姿をしたセンガが、装備した左腕をアームブレードへと展開する。そのまま天神にでも献上してしまいそうな恭しさで、虚空に刃を捧げた。
「片角の鮮血。彼の者の武装は我が手にあります。
であれば!
今こそ!
救世がための関数を此処に呼び出し給えェ!」
何者かの意思に反応したか、掲げていたアームブレードが、突然刃を格納しだす。
光る刃は完全にしまわれ、元の左腕に逆戻り。
正しく接続していたはずの関節部から、モガの左腕はボロリと零れ落ちた。
「ああっそんな、せっかくの左腕がぁ〜。お気に召しませんでしたか、頑張って取り戻したんですがね!? ゴメンなさい……いや、クォレは!!」
左腕を失った接合部から、マキナと同じ黒い金属が伸び出でる。
本来アームブレードがあるはずの空間に、歪で禍々しい暗黒が居座った。
影に潜むるセンガに相応しい、暗い無彩色。
彼の新しい左腕が、どす黒く冷たい鎧をまとって姿を現した。
「拙者でも見たコトない左腕……そうか、そういうコトなのですね創造主ジエ! 不肖このセンガ様、アナタ様のお考えの一番の理解者でございますから……コピーィィぃいいイヤ、ッフォォぁあアアハァァン!!!!!!」
モガの姿に黒い左腕。センガは「最強のギアニック」をイメージし、最強の左腕をコピーした。
「おお、アニキのボディにピッタリなイカツいアームブレード! なんという闇のプレッシャー……す、すげー、かっこいいぞー!」
禍々しさは、アームブレードが黒いだけでにとどまらなかった。
モガのヘッドギアに荒々しく亀裂が走る。
バイザーは、まるで漆に漬けた銀。頭髪は硝煙を被った灰色。
赤と黒だったモガのアーマーが、影と闇のツートンカラーに塗り替えられていく。
「もしや俺様オリジナルの姿を頂けるのですか!? 今まで他人にしか為れなかったワタクシ様を気遣って? 鏡、カガミはどこですっ」
手近に宿の窓を見つけ、素手で汚れをこそぎ落とす。僅かな反射を頼り、異形の自分に目を凝らした。
「黒い、濁っている……ボクは影だ。後ろ暗い任務がトクイだったセンガ様にべすとまっちじゃあないですか!? 身に余る慈愛! ママンについてきて良かった!」
思うがままに興奮を発散。ひとしきり喚き散らしたあと、センガは実に満ち足りた心地で辺りを見回した。
夥しいマキナの亡骸、血の匂い。
「破砕と死の止揚! ンフぅ~♡、ここを聖域とする!」
するとどうだろう。
不愉快な光景が目に付いた。
獲物が一匹、地面を這いずっているではないか。
「やらなきゃ……アタシが」
まだ諦めていないのか、鳴き声の主は落ちたモガの左腕に手を伸ばしていた。
「へへ、イイ事思いついた……ZE♡」
そうだ、試し切りをしよう。
センガの足は真っ直ぐアーチへと向かっている。
「ヴォイ、オォイ! ゲロくせェ手でアニキに触んな、スクラップ紛いの似非ギアニックが!! ママン、どうか見ていてください。アナタ様から賜ったこの聖剣で、舐め腐ったメタルエイジを救世してみせましょう!!!!」
血迷った救世を宣言した、その時。
最後まで復讐を果たさんとするアーチの目の前で。
彼女が決死の想いで守った宿がごう、ごうと浅紅の炎に燃え上がった。
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