【平穏は去る】3 18/32
ずっとアーチちゃんにスポットライトが当たっております。ひょっとしたら、もうモガくんの出番はないかもしれませんね。
「はあぁぁぁあああ!! /《スラッシュ》ッ!! /《スラッシュ》!!」
「GiiーーーーPiGii!?」
正面のマキナを/、振り向き様に背後のマキナを/。
「GaHhhーーーー!!!!」
「!」
ゴリラ・マキナの太い腕が鉄槌となってアーチを襲う。ゴリラの前腕は錆びつき凶悪にささくれ立っている。
打撃をまともに受ければアーチの皮膚はズタズタに擦り切れ、その一瞬あとにぺしゃんこだろう。
「……÷《ディバイド》おッ!」
降りかかる鉄槌を÷、自慢の武器を失い無防備となったゴリラ・マキナにさらなる一太刀。容赦なく切り捨てる。
マキナの群れの只中で、アーチはなりふり構わず腕を振るった。異形の鉄爪や牙をかいくぐり、おぞましい金属をただの金属片へと戻していく。
「はぁ、はぁ……倒したマキナの後ろから……ぜぇ、別の奴が控えてる……どんだけいるっての、よっ!!」
弱音をも弾き飛ばす勢いでアームブレードを閃かせる。前後、左右どこに振ってもよかった。敵は四方向すべてから迫ってくる。
「でもあいつの剣、ほんと強い。これならアタシでも……おぇっ?」
予断を許さない戦況の最中、アーチの身体が唐突に嘔吐いた。
身体の内と外がひっくり返りそうな吐き気に、思わずアーチは動きを止めてしまう。
一度溢れ出すと、ボディの異変は堰を切ったように止まらなかった。
「ぐぁあああっ!? い、たい……痛"い"!」
嘔吐きの次に痛みが走った。左肩から首にかけて。
昼間に違和感を覚えた箇所が、酷く熱を持っている。
「づあぁ~……~ぁあッ!!」
ふつふつと回路が焼き切れる感覚に、息が詰まる。叫ばなければ呼吸さえままならない。
苦悶に潰され片膝をつくアーチを、マキナは慈悲なく取り囲む。
「た、立たなきゃ……つ"あ”ぁっ!」
「Fuuu……BuFuuuu……」
油を滴らせる牙が、苦しむアーチの眼前に迫る。
マキナの鉄臭い呼気におぞ毛が立った。
「立たないと……死ぬっ、おぶ!? うぶぇっ!」
柔らかな土手腹にゴリラ・マキナの拳が刺さるも、そのまま殺されるより立ち上がる方が早かった。
「○《ツイスト》ッ! よし……ごぶふっ? ぅおえぇぇ――――」
吐き気と痛みを跳ね除け、決死の○を放つ。四方八方のマキナを鉄塊に還し、窮地を脱する。
「お……――――!」
たまらず吐しゃ物を撒き散らした。胃の中のものが、足下の亡骸にびちゃびちゃと跳ねる。
嘔吐きがどうしようもなく止まらない。たった一度の○で三半規管がイカれてしまった。
楽になるどころか、身体が強張る。
吐く時に力を込めた部位の回路が、さらに焼き切れていく。
(自分のカラダじゃないみたいだ、どうして……ぅ)
目から。
吐き気と同時に、目と瞼の間から謎の体液が溢れ出した。涙や血でないなら、まさか吐しゃ物の一部だろうか。
無理を押してアームブレードを振るう。吐き気が苦しい。自分の身体が憎い。
痛みは左の肩から全身へ、毒が回るようにアーチを侵し蝕む。痛い、
熱い。苦しみの甲斐あって、マキナの数は順調に減り続けていた。
「あとは……ぜぇ、アンタたちだけ……!」
残るはあと一群れ。それを倒せば、マキナは平原から完全に消え失せる。
アーチは最後のマキナたちが襲ってくるのを待ち構えた。自分から向かおうとはしない。歩き出そうと四肢を動かせば、その分だけ痛みと熱が全身を駆け荒らすから。
回路を切らさないよう慎重に、アームブレードを身体の前に持ち上げる。
マキナが飛びかかって来るのを、じっと待ち構える。
(こいつらで終わり。もう終わって!)
しかしなぜか、マキナも動かない。アームブレードも鉄爪も、お互いに得物が届かない間合いで戦いは硬直する。
「げほっ、ぅうぷ。どういうつもり?」
自分から攻め込むのが難しいアーチと違い、彼らはまるで戦意を無くしたように停止していた。
「ハァアァァェェぃイ、アーチおねいさん注☆目ゥ!!!!!!!!」
「! モガの声……?」
マキナからゆっくり視線を切り、声の方へ振り返る。
宿の前に、信じ難い光景があった。
「モガ……なの」
左腕が欠け、右手にバリアブルスピアを握ったモガが、宿を背にこちらを見ていた。それにチョオローとロクも一緒だ。
あのピンク色のマントを着けてないこと以外は、宿を出ていった時と同じ姿のモガがいる。
「アンタ……二人になにしてんのよぉっ!? うっぐぅ……」
出会ってからずっと仏頂面だったモガが。
この状況で笑っていた。
凄みのある笑顔に思わず身震いしそうになる。
状況も相まって、現実のものとは思えなかった。
チョオローは腹に攻撃を受けたらしく、玄関の戸にもたれている。
誰から受けた傷なのかは、今のモガの所業を見れば明白だった。
人質にそうするようにバリアブルスピアをロクの首に添わせて、口元を、目を、歪めている。
あのモガが、恐怖で動けないロクを見せつけ、こちらをせせら笑っている。
悪魔と呼ぶに相応しいモガの形相に嘔吐感と痛みを忘れ、かわりに果てない嫌悪を覚えた。
「お決まりのセリフ行くZE? 人質のガキ殺されたくなきゃこのモガのイうコトを聞きなさい!」
「アーチや、騙されちゃいかん! こやつは」
「おっと、ソレ以上はいけねェやジジイ」
人質は逃がすまいと、ロクの足を踏みつけ、
「っい、たい……アーチねぇたすけてっ」
穂先をチョオローに向け……そして。
「《スケーライズ》、いけいけーニョイボー!」
人質であるロクの逃亡を許さず、槍を≡チョオローの胸に深く届かせた。
「あぎゃ、……や、槍がっ……ふごぅ!」
「からの~、《スケーライズ》ぅ!!」
「がはっ!?」
「チョオロぉおーっっっ!!」
胸に穂先が沈み、内部機関をガキボキと砕き、背中まで貫いた。
「へへ……ジジイの悲鳴じゃ萎えるわな」
アームブレードがジリジリと震える。
今ならダッシュで斬りかかれる。
怒りで、痛みなんかとっくに麻痺していた。
「宿ジジイとチビガキの二人が人質……じゃあねェ。今や宿ごとこのモガ様の手中よォ!!!! 分かったら返事しろィアーチおねぃたまぁ♡!!」
「アンタを……殺す」
「ぃひぃ良い答えだ。逆らっちゃったら人質死ぬけどナ!!」
たしかにチョオローにはまだ息があった。
殺し損ねたのではない、嬲ったのだ。人質としての価値を残しておくために。
下卑た笑いが証拠だ。
天を刺すようにバリアブルスピアを掲げたモガ、そして――――。
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