【決着】2 15/32
ついに決着です。
(ケッチャコ……)
テクノロジーでテクノロジーを制圧するギアニック同士の決闘が始まった。
「クッソがぁ、こうなりゃやるしかねェ……って、うおっち!?」
「・《プッシュ》ッ!」
白兵戦最強の傭兵ギアニックが繰り出す光槍を、諜報のギアニックは間一髪で躱す。
一命取り留めたが、スペックの差は歴然だった。
センガは潜むことを専売特許に生きてきた。戦闘の術はほとんど持ち合わせていない事をモガはよく知っている。
槍を突き続ければ、いつかはセンガの心臓部を捉えるだろう。
敗北の道理はどこにもない。
「:《バッシュ》」
「アッブネ、あぶね……あ~あァ、こりゃあダメっスわwww」
「∴《ラッシュ》……っ!? ドコへ行くつもりだ?」
「どこってそりゃあ……に~げるんだよォ~~~!」
センガは逃走を図る。
一片の活路も渡すまいと、モガが追い詰める。
「そこだ……・《プッシュ》」
どちらのギアニックも木々の間を高速で駆け抜ける。だがその上で、モガは引っ切り無しに槍を放つバイタリティがあった。
「うおぁっ!? ……ッとォ、なァ~にが『鈍チンになった』だァ!? 現役のタイリョク馬鹿じゃァないかぁ!?」
「……………………」
強靭なボディを駆使し、ただ寡黙に獲物を追い詰めていく。
このまま鬼ごっこを続ければ、センガのエネルギーが先に底を突くだろう。
モガにしてみれば、追いかけながら対象を破壊するか、動けなくなったところを一刺しにするかの二択でセンガに王手をかけている。
もはや決着は時間の問題だった。
「……もう終わりか、センガ」
「ハァ……ぜェ……オワリィ……? 違ェねぇ!」
窮地に観念したか、センガは立ち止まる。枯れ葉以外に何もない、山中の平坦な土道だった。
「ここでオワリだZE……テメェがなァッ!!!!」
センガが観念などとんでもなかった。
枯葉の下にでも忍ばせていたのか、クナイを手にしたセンガがモガの懐に飛びかかった!
「≡《スケーライズ》」
槍を手槍サイズに≡し受け太刀、返す刃でセンガの肩口を斬り払う。しかし与えた傷は浅い。
センガはさらに飛びかからんとしたが、隙の無いモガの構えを前にして、その動きが直前で止まった。
「アマい奇襲だ、アキれるほどにな」
「イってくれンぜ大人げないねェヨユウがあってイイねェ!? だがそーいうタイドはイノチ取りなンじゃね!? 時代が違えばフラグ立っちゃうZE~?」
「軽口はよせ……死ぬぞ」
間合いを掴ませない電光の手槍と、月光を受けて闇に輝くセンガのクナイ。
互いの視線、互いの刃が睨み合い、硬直状態が続く。
(宿ではアーチが一人で戦っているハズ……グズグズしていられない……!)
モガの思惑に反して、硬直は続いた。
クナイを逆手に携え、油断なくこちらを見据えるセンガ。
モガに隙が無いのと同じく、センガの構えにもまた隙が無い。
「ギアニックとして……」
「ぁン?」
「ギアニックとしての性能の差はレキゼンだ。戦力差をリカイできないオマエではないだろう?」
「アニキのレベルなら俺様なンざ物理で殴ればいいと。ハハ、おもれー。ソレがホントなら俺様ぁとっくに死んでらぁ」
「そうではない。オレが知りたいのは……」
「まだ続けるかよォ? な~ンか切羽詰まったカオしてンZEアニキぃ。お腹痛いンかァ~~~~~????」
揺さぶりは容易く看破される。口八丁のセンガに心理戦など通用しないことは、考えれば当たり前だ。
(考え過ぎては思うツボか。地力で押せばいいハナシだ……。構えなど、追い込まれたセンガのハッタリだろう。ユダンはできないが下せない相手ではない……!)
じりっ。
モガは僅か数センチ、摺り足でセンガへ距離を縮める。
「オレが知りたいのは、そうまでして成し遂げたいことは何なのか、ということだ。こんな無謀に刃を振るって……オマエの言う、救世とは一体なんだ?」
質問に対し、クナイが蛇の目の如く閃いた!
長きに渡った両者の硬直が弾ける。
「言ったろォ? 宿のヤツらにゃあ粛清、手ェ汚すのが救世! 作り変えんのさ世界を!!!! ママンの理想のママに、セカイをサァぁぁああ!!!!」
「手を汚すことがジエのリソウだと。くだらん世迷言だなっ」
歪む叫びと共に迫る凶刃。素人の刃をモガは槍で悉く叩き返してやった。
クナイは時折、槍の防御を這う蛇のようにすり抜けることもあった。
しかしモガは身を翻す。
その度に体で押し返す。
足蹴にして追撃。
さして早くないクナイを容赦なくいなす。
誰が見ても無慈悲なほどの力量差を、モガはセンガに示し続ける。
「よせYO、くだらねェなンて。我らがママンの理想だぜ? 俺様とぉ、アニキのママンの……って、嗚呼……そうか!」
口を回しながら、センガはなおもクナイを拙く操る。攻撃のすべてを、モガはいなした。
「そうかそうかソウカそうかァぁぁぁああアーーーーー!!!!!!!!
モガのアニキぃ、アンタにゃあ分からンでしょうねェ! このYOの中を変えたい……変えたいって俺様の……グスッ、キモチ……俺様とママンのキモチが!!!」
「何を泣いている……?」
モガの気のせいではなく、クナイの軌道が僅かに鋭さを増した。そんな狂気を以てしても、センガではモガの足元にも及ばない。
「ダマレよォ!! アニキが……テメェが眠りこけてからのママンがどれだけ悲惨な仕打ちを受けたコトか!!」
「――――!」
一本のクナイでモガを停止しきれないと見るや、センガは後ろ飛びで距離を取った。
「オシえてやるさァ……救世ってのはなぁ!!!!」
距離を保ってセンガは後ろ腰に諸手を回す。
次に目にした時、両の手にはクナイが二振り握られていた。
「ママンに集るハエ共が……アイツらが生み出した薄汚ねェギアニックを!!!! ぜ~んぶブッ壊すのさァ!!!!」
ひと息でモガに詰め迫るセンガ。滅茶苦茶に振り回す二振りのクナイを、モガは片手の槍で器用に捌きまくる。
ぶんぶんとクナイを振る間もセンガの狂言は続いた。
「この世界にママンと無関係なギアニックはいねェ!! アニキ知ってっか? アニキがいなくなっちまってからのセカイじゃあ、ギアニックは二種類に仕分けされたンデェェェェン!?!?」
「? それは――」
「ママンがツクリしギアニック。んでもう一山はぁ……クズどもがママンの知性をカスめ取って生みだした、侵略しか能の無ェギアニックさァ!!」
感情任せな攻撃が来る。その直後の乱れた体勢を狙い、バリアブルスピアを突き出した。
「それは違うっ」
すんでのところで、クナイに軌道を逸らされた。片手しかないモガは、再び受けに回らざるを得ない。
「手を取り合えてこそのヘイワ……らしい。だからジエはっ、他国にもギアニック工学を伝えたんだ」
畳みかかるクナイを避けながら、反論せずにはいられなかった。
平和を掲げ、一度言えば決して曲げない。
高潔なジエをモガは誰よりも近くで見守ってきたから。無論、センガだって知っているはずだが。
「漬け込まれたっつったろ!? お偉方ってのどいつもクソだ!! 他国も自国も腐っちまってクソッたれだった!! 悲劇はどれもコレもママンのパパンが逝っちまってからだ……好き放題しやがって! クッソ、……ぃ許さねェ~……っっ!!」
怒りの宿るクナイを、モガは何度も間近で避ける。
「そうさァ……ママンは優しかった、だから自分の技術を惜しみなく広めた、ダのにYOォ!」
なりふり構わずな戦闘姿勢が相まって、一言一句が呪詛のようだ。その気迫に圧され、モガは今一歩攻めきれない。
「アンヨを手伝ってやった弱小国も、チキュウの裏側のクニさえも、お偉いサンは浅まし~くママンを見てやがった……欲塗れな目でな。ケッキョク、世界中がママンを使いつぶしに来たZE」
「ジエは……リヨウされた、ということか」
「リヨウだァ!? ンなヌルい手合いじゃあねェ……略奪だYO。残されたモガシリーズVS、世界全土のパチもんギアニック。俺様らはあっという間に負けた。ママンもグロい目に遭った。マンネン経ったイマでも、虫唾が走って止まらねェ」
ジエの事を語る頃、耳障りなほどだった声の勢いはすっかり失せていた。
思い出しているから、というだけではないのだろう。声だけでなく、今やクナイの攻撃動作さえ緩慢だ。
センガのエネルギーが尽きかけていることが、モガにも見て取れた。
好機は必ず来る。
「まさか、つまり……略奪を仕掛けたギアニックを停止させることが救世だと、そう言いたいのか」
「分かってくれた、さすアニぃ」
「一万年前のギアニックなど、そういるハズがない……いや」
苦しげなセンガの口元が、嫌に笑う。モガが察した事実を皮肉った嘲笑だった。
「チョオローがいる、か」
「ハナシ戻すZE。救世ってのはそういうこった。出来ればアニキをヤりたくは無ェ。でもアニキぃは俺様を食いトめるつもりなンダろ?」
「当然だ。アーチもチョオローも守る、守り切る。オレが知るジエなら、そういう任務を、きっと与える」
「ダメだ、断れ。タニンを庇護して、ジブンから進んで犠牲になって、ママンはどこまでも傷ついていった、テメェも同じもん見てきたダロ!!!!」
息も絶え絶えだが、センガは奮い立つ。
「最強サマが俺様ごときの説得なンて滑稽だZE、俺様ぁ本気だ!!!! いずれ敵に回りそうなヤツぁ肉親だろうとスクラップッ!! ア~ンド――」
センガの背後から数本のクナイが突如姿を現した。
クナイたちは不可思議な力に操られ、手品のように宙を舞っている。
「まさか武装か。いつの間にそんなモノを」
未知なる力でセンガに従うクナイ。
その凶刃が月明かりをギラリと反射する。
「――スクラップってなぁッ!」
殺意の号令でクナイが一斉に突き動く。
対するモガは半身に手槍を構え、次々に叫んだ。
「・《プッシュ》、:《バッシュ》……ぜりゃぁぁああ!」
・、:、さらに中空を薙ぎ払い。暴れる槍の一太刀、一突きが確実にクナイを叩き落とす。
「おら、オラ。オラァァン!! スパイ専門の俺様ですらァ、こうやってタタカうしかなかったンデェェェェン!! アニキは知らねぇよなぁぁァアあああ!?!?」
叩き落としたクナイが八つ、九つ目。
どこに向かってか知らないが、センガは笑っていた。
聞くだけで涙が滲むような悲痛な哄笑。戦鬼の如き形相。
モガの知らない遥か過去の時空でも、センガは笑いながら戦っていたのだろうか。
「平和を謳って行き着いたセカイなンて……ケッキョク、ヒデェとこだったのさァ!!!!」
笑っていなければ戦えない。そんな戦場があったとしたら、惨すぎる。
理を外れた超常的な弧を描いて、更なるクナイがモガを襲う。
「チッ……オレの知らない関数まで扱うか……踏みとどまる気は無いらしいな――――仕方ない。アニとしての務めを果たしてやる」
モガの心は決まった。
勝利宣言であり、決別の言葉だった。
(目が覚めたのはオレの方だ。コイツはオレがセキニンを持って停止させなければ)
狂った笑顔で凶器を握るセンガに、およそまともな精神は残されていない。
宿に対する凶行的な行いが、裁いて良しと裏付けている。
もはや一片の情けもかける余地はない。
今なお隙を晒し続けるセンガに向かって、地面を蹴った。
「カァッ!」
「ひっ。やべ」
〇.一秒。土道に伏した十本のクナイを踏み越え、一足で突っ切る。
〇.二秒。半身に構えたモガの手槍から最速の刺突が放たれる。手持ちの得物を撃ち尽くしたセンガに俊槍を止める術はない。
〇.二五秒。決着がついた。
争いの末に生き残るのは、決まって二つに一つ。
ギアニック同士による、同じ条件での戦い。
しかし初めから、両者は分かっていたはずだった。
与えられたスペックまでが同じではないことなど。
「……。っか~、やっぱアニキぃ……強ェわ」
傭兵と内偵。白兵戦最強ギアニックとして人々を守るため造られたモガと、情報収集に特化した隠密ギアニックのセンガ。
圧倒的な場数・力・殲滅性能を有するモガの前では、誰もが持たざる者になる。
戦闘のエキスパート相手に力と力でぶつかり合えばどうなるかは、誰もが予想できた。
「………………センガ」
「…………アバYO、アニキぃ」
――ゴンッ。数秒前までギアニックだった鉄塊が土道にくずおれた。
彼が最初から本気なら、そもそも戦いなど成立さえしなかっただろう。
(…………。オレは何をしている?)
アーチの手料理を食べて、客室を出た時。あの時はまだ、戦いの末に平和がくると思っていたかもしれない。
だが実際はどうだ。
戦いの終わりなど、ドラマチックなはずがない。
モガの眼前に広がる光景はあまりに絶望的だった。
土道にうつ伏せのギアニックが一体と、それを見下ろすギアニックが一体。
戦いを制したのは、片腕が失われたギアニック。
返り血を浴びたような赤黒いツートンカラーの勝者を、夜の月は見逃さなかった。
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