【決着】1 14/32
マント身につけてる人を実際に目にしたことはありません
宿を焼く。センガに好き放題させれば、宿民を停止すという声明の通りになってしまう。
「いい加減にしろ。どこまでホンキにしていいのか分からん」
「ほ~ン、わかンないすかァ? 一万年間のグースカですっかり鈍チンになっちまったンじゃねェの? 荒事に関しちゃ右に出るキカイはいなかったってのに、最強ギアニックの名が泣くZEオイ!? お~いおいおい、オイラザンネンだよアニキぃ~(泣き」
電気の通っていない平原の夜は、火事があればすぐに分かる程度に闇が深い。
万が一があるかとモガは聴覚センサーに集中する。
幸い、宿方面にはなんの異常も起きていない。
しかし、センガから感じる得体の知れない威圧感もまた、ハッタリではない。
センガが発するこのプレッシャーの正体は何なのか。
もし戦闘に発展したとして、諜報ギアニックと傭兵ギアニックが一対一なら結果は火を見るよりも明らかだ。
力づくな展開はセンガにとって不利なはず。
それを覆せる要素とは、果たして何なのか。
「アニキぃ……テメェは俺様をおびきだしたつもりだろうが、逆だZE。テメェが宿から引きハナされたンだYOォ!!!! 俺様とチョオローの共謀でなァ~~~~ぁァア!!!!」
「! チョオローだと!?」
チョオローが伏兵。事実はいまいちピンと来なかった。
ほとんどの戦場をたった一人で収めてきたモガだからこそ、裏切りに会うのは初めてだった。
「……チッ。その様子だと、他にも仲間がいそうだな。ソイツらに宿を襲わせる気か!」
「クククク……ニャハハハッ! 御名答ァニキぃ、百点満点!!!!」
チョオローが裏切ったかどうかは、この際考えても仕方ない。
それよりも、センガとの一対一ではなく一対無数だとは失念していた。
(オレはジブンが有利だと勘違いしていた……。いや、オレに勘違いさせられるこの状況を、センガは計算づくで用意した可能性すらある。コイツもモガシリーズの一人、ということか。侮れないな)
「だぁがなァ~……アニキならもっと早く気付けたダルオォォン……この森に隠れたクソマキナ共にもなァ!!!!」
「DoDoGYuuuuN!!」
「――――!?」
モガの背後で、枝葉の潰れる音がする。
ゴリラのような巨躯を持つマキナがぬっと姿をさらした。
センガに座るよう仕向けられた倒木の裏からも、ネズミ大のマキナが群れで飛び出す。
頭上から不快な金属のいななきが降る。背の高い木々を見上げればサルがそうするように、マキナが枝にぶら下がっていた。
「GYui……GYuiiii……」
「BuFuuuu……Fuuu……」
金属の異形が大群でひしめいている。
浮いた赤錆の匂いが、自然の香りをツンと塗り潰した。
モガは自律兵器と呼んでいた魔物と、実に四〇日振りに相対する。
目算で四十、五十体ほどだろうか、モガがどこに視線を向けても、物騒な敵意を孕むマキナの視線とぶつかり合う。
前方には下卑た笑みを浮かべるセンガ。
背後にはモガの二倍の上背を有する巨躯のマキナ、下を見れば地面を這うマキナ、左右に動物を模したマキナ、頭上にもマキナ、木々の向こうにもマキナ、マキナ、マキナ……。
(数は揃えたようだが……問題はない)
「問題はない(キリッ)。とかオモっテっかも知ンねぇが」
拾い上げたネズミ大の手下を見せびらかしながら、センガは更なる脅しをモガに重ねていく。
「言っとっけど宿にはもっとヤバいのをウジャウジャ連れてってやったZE☆!!!! ロクちゃん? とかアーチねぇ? とか! あっという間にぐちゃぐちゃにされちまうンだろぅなぁ~????」
「……オマエは、本当に正気でそんなコトを……っ……」
「うひひ……ハアァぁ~ン、ぜひともお目にかカりたかったなァ~~~~♡♡♡」
愉快そうに空を仰ぐセンガ。
もはや彼の視界にモガは映らない。
「そうか………………
………………………もう喋るな」
ジエのもとで時を同じくした者として、センガとはきっと分かり合う道が残されていると思っていた。
だが――――ヤツはその道に、自ら唾を吐き捨てた。
やるべき事は一つだと最初から分かっていただろう。
そしてついにその時が来た、というだけの事だ。
穏やかだった森に、モガの険が充満していく。
夥しいマキナの気配を、圧倒的な闘気で弾き飛ばす。
「出ろ、バリアブルスピア――――≡《スケーライズ》」
モガは右手首から排出されたペンほどの棒を≡させる。
≡《スケーライズ》、つまり拡大縮小させる関数により、棒は自分の背丈程度の両手槍となってモガの右手に収まった。
右手のみで、半身に槍を構える。
アームブレードと同じ緑に迸る電光の穂先をセンガに向けた。
怒りの乗った刃と目を合わせても、センガは余裕を崩さない。
マントで左半身を隠しつつ、モガは猛然駆けだした。
「……すぐに目を覚まさせてやる、センガッ」
「へッ。ママンが為の救世は……そう簡単にゃ止まらねぇのYOォ!!!!」
胸の中心を狙い一直線に突き出したバリアブルスピアは、手下のネズミ・マキナの体当たりによって阻まれる。
「くっ、ジャマだ!」
「GiTiiii……Pii!?」
ネズミを散らして追うモガ。
逃げるセンガ。
両者の間に巨躯のゴリラ・マキナが割って入った。ゴリラを相手取る隙にサル・マキナ、シカ・マキナ、イノシシ・マキナ……金属の魔物は次々モガに殺到する。
「ハハハァァンッ、サスガアニキぃモテモテだねェ! 俺様も参戦とイきてェトコだが内偵専門なンで戦えまセン!!!! 木から高みのケンブツ決め込むコトにするZE☆。テメェがクタバった頃にボディコピペしに降りっから、それまではせいぜいソイツラの相手してなァ!? んじゃ、ばいび~☆」
「待てっ、センガ……っ!」
「「「GiiiAHhhhhーーーーーー!!」」」
モガの行く先に大群のマキナが立ち塞がる。
「目障りだ……、・《プッシュ》ッ!」
関数を呼び出し、襲い来る内の一体をバリアブルスピアの・で破砕した。
「キサマもだ……:《バッシュ》ッ!!」
砕けたマキナの金属片が地に落ちるより速く、忍び寄る二匹に:槍を放った。
「∴《ラッシュ》……でぃやぁーーーッ!!」
電光弾ける穂先が∴とマキナを屠っていく。
様々な軌跡が表れては消えるのを、情報集積を得意とするセンガは木の上から眺めていた。
モガが駆ける残像の後にマキナの残骸、幾重の鉄をも突き抜ける刃の残響、直後にマキナの断末魔。
モガが、次なるマキナの郡れを殲滅する。
槍が、先ほどと異なる軌道を描く。
バリアブルスピアが放つ緑の軌跡が夜の森を鮮烈に照らし、マキナを葬る。すると槍は、また新しい軌跡を描いてマキナを滅する。
踊る槍は千変万化。万華鏡の如く鮮やか。
戦場は終始モガの独壇場だった。
「舐めプかァニキぃ? 白兵戦最強の傭兵ギアニックが、ソンなケチな戦いするワケ無ェだろがい!!!!」
時に槍を≡持ち替えながら戦うモガは、敵との間合いすらも変幻自在。
翻弄と戦術はまさに、モガが最強と謳われた由縁に他ならない。
その証左に、あっという間に全てのマキナが鉄塊と化した。モガに一切のダメージは無い。
「コレで全部か。他愛無いな」
「テンメェ……舐め腐りやがって!! 剣は、左腕は!? 御社ご自慢のアームブレードはどうシた!!」
「いや……全部なハズがないな。おそらくは宿にも刺客が」
「ヴォイ!! 無視すんなァ⁉ センガ様が降りてきてやったぞZE、コッチ向けやオラァァン!?」
「…………センガ」
殲滅し尽くしたモガと、とうとう引きずり降ろされたセンガが対峙する。
「いつものヤツ出せよ、片角の鮮血ぅ!!!! 毎日ヒダリテに引きこもってルご大層な剣ちゃんをよォ!!!!」
「使って欲しかったのか……なるほど」
センガの能力について一つ腑に落ちた事がある。
「コピー、といったか。新キノウとやらはキオクの中にいるオレではなく、実物を参照しなければハツドウしないと見た」
「ぬ、っぐ……いや! 実は! いつでも使えるんだな~コレが(大噓」
「センガ」
なぜ降りて来たか知らないが、戦力のマキナが底を突いた以上、諜報役だったセンガがモガに対して打てる手はないはず。
センガの計画にはそもそもの無理がある、とモガはあらためて脳内を整理した
。
兵としての力で他の追随を許さないモガに、センガの取った行動は二つ。武力行使と、脅迫。
戦闘においては見た通りだ、いくら数が多かろうと武力でセンガに勝ちの目はない。
「センガ……もういいだろう、センガ」
「駄まらっしゃい!! 最強のヨーへー様が何だってんだァ!? もういいわ控えのマキナに宿と人質襲わせたるは!!!!」
「センガ……この一万年間で、やはりイカれたか」
「行きなァ、クソマキナ共ォ!! 女とガキ共を喰えェ……ぐちゃぐちゃにいてまえやぁゴルアァァァーーーーンッ!!!!」
センガの号令が夜空に響く。
宿に待機したマキナが本当に動き出した恐れがある。
「サァどうだアニキぃ! オレが一つ叫びゃあ下僕共は動きを止めるZE!? コピーさせてくれさえすりゃあいいンだ、ソレだけで! あの女とかもぶっ壊れずに済むンだZE!?」
「オンナ。アーチの事を言っているのか」
「テメェがそう思うンならそーだ!! どうだい? コピーさせる気になったかYO!?!?!?」
センガが最後の脅迫に出る。モガが察するに、これがセンガの切り札ではないか。
モガを襲わせたマキナに加え、宿にもマキナを差し向けた。調教でもして仕込んだのだろうか。
さらに、彼曰くチョオローと共謀もしたという。
実に用意周到で、手段が卑劣であること以外はセンガらしい。恐ろしく抜け目がない。
「ムダだ。マキナだか自律兵器だか知らないが、ザコにアーチの相手は務まらない」
「ハッ、ザコは女の方だろ。危険分子かとオモってイチオー観察したっけど、ありゃダメっすわ。服装まで平和ボケで肉付きがイイ……のぉおほほほォぉォ~~♡……………………あ? 見せモンちゃうぞコラァ!!! 俺様もうホンキなンだZE~~~~!?」
「勝手にするがいい。宿の事はすべて――――アーチに託してきた」
バリアブルスピアを土に刺し、空いた右手でマントを翻す。
隠していた自身の左半身を、センガにもよく見えるように晒してやった、すると。
「左腕が……丸ごと無ぇだァなァ、どういうことだってばYO????」
「宿にオレがいなくとも、オレの左腕がサイゴまでアイツらを……アーチを守るだろう」
すっぽりと隠れたマントの中、モガの左腕を欠いた状態のボディを目にしてセンガは愕然とする。
「じゃあナニか!? クソマキナ共との戦闘なンざァアニキ様にとっちゃお戯れに過ギなくて、ハナっから右腕だけでジュウブンだった……ってコト!?」
「『宿民をネラう』などと声明を出すからだ。まぁ、アレのせいで散々気を回すハメに遭ったのはたしかだがな」
「ヴァ"カが、看破してたからってオロかだぜアニキぃ! 俺様たちモガシリーズの超TUEEE武装をちんちくりんガキ女に貢ぐとかっ」
「だからこそだ。キケンはオレ自身で引き受け、『ナカヨし』に降りかかる火の粉をも……この手で払う。オレはカクシンしている。
ジエはっ! ソレが出来るようにと、このオレを造ったに違いない!」
遠くで破砕音がする。今し方耳にした、マキナが砕け落ちるのと同じ音だった。
きっと今、平原ではアーチが戦っている。
アームブレードを持たせたとはいえ、ロクたちを守りながらではアーチに万が一があるかもしれない。
アーチのもとへ、早く、駆け付けたい。
「自信があるみてぇだが……ククくくクっ! 宿ジジイと同じコトさ。そのアーチねぇが俺様と謀ってるっつったらどうする? ねェどうする~www」
「その心配は要らん」
土に刺していたバリアブルスピアを抜き取った。片手で操り、センガの首を狙って再び構える。
「オレにとって……アイツはもう『ナカヨシ』だ」
宿はどんな状況だろうか。自分の腕は、しっかりアーチたちを守ってくれているだろうか。
いつまでも、かつての弟にばかり構ってはいられない。
「オレは信じる。オレがこれから、同志に対してどんな決断を下そうとも……ジエの願いから生まれた、オレ自身のハンダンを信じるッ」
弟に甘い自分を叱咤するような、あるいは決意のような気合いを上げ、モガは猛然突っ込んだ。
「覚悟しろセンガ……目を覚まさせてやる、我がオトウトよッ!」
(マント着けてる人の目撃情報・感想お待ちしております)




