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【接敵】5 13/32

わくわくわくわく!

わくわk(書くことが思いつかないのをわくわくで乗り切る図)


上手く言葉にできないときもありまぁす。

 満月より僅かに陰った月が、この森の木々より遥か上空に浮かんでいる。


 月明かりで薄ぼんやりと浮かぶ葉と土ばかりの獣道を、マントを羽織ったモガが行く。


(この、まんととやら。森の中では色が目立つな)


 宿民に黙ったまま部屋を後にしてこの森まで、ピンクの布はモガのボディをすっぽり隠し続けた。


 製造日プレゼントと称してジエから贈られたこのマントが、モガは何とも不可解だった。

 身体を隠せても、結局存在そのものを隠せていない。アーチがいつも履いているズボンの迷彩柄なら分かるものの、こうも鮮やかなピンクでは、かえって景色に紛れづらいだろう。


(………………、)


 それでも気休め、景気づけ程度には装備する意味があった。

 これから自分は、センガと相対することになるのだから。


 その結末が和解か闘争か、何が起こるか予測がつかない。願わくば戦わずに済むなら――と甘い考えが残る。

 考えるな、やることは一つだ。


 しかし甘くとも、モガたちが争い合うことなどジエは望まないだろう。

 モガシリーズ同士、兄弟と言っても過言ではない間柄。

 一万年越しの再会だというのに、モガは現在のセンガを得体が知れなく思う。


「ハンコウ声明などと……バカな」


 たとえセンガとの戦いが避けられないモノだとしても、その先に平和が有らんことをと、モガは願わずにはいられない。


 明日、宿がどうなっているか分からない、予測不能。だが宿民は守り切る。

 マントの内側を、つい縋る思いで握りしめる。


 もしここにジエがいてくれたら、今のセンガの気持ちと、自分たちを待ち受ける結末が分かるだろうか。


(どんなジジョウであれ、ジエなら兄弟機同士での戦い合いなど望まん。決してな)


 生まれてたった数年間のモガにとって、世界は知らない事ばかりだった。

 それを教わる相手はいつもジエだった。

 大事な場面でいつも導いてくれた。

 今夜もきっとそうだ。


「ロクを寝かしつけたんじゃなかったのか――――ユス」


 アーチと幾度も狩りをした森に、アニマとは異なる気配が背後にあった。


 振り返れば、赤褐色で女性らしい流線形の人型。

 魚類のヒレを模した機械パーツがゴテゴテと腰や耳辺りについた、ロボットフェイスのギアニック。

 ロクを成長させたようなシルエットは、ユスで間違いない。


「オレが宿を出ていくと、チョオローあたりから聞いたか――――センガ」

「……ハッ。コレでおびきだしたつもりかよォぉおおぉアニキぃい!!!!」


 ユスの口から、歪みの効いた男の声。

 久しい兄弟機の声だ、聞き間違えということはない。


「ハァぁあ~あぁ、アンマしオドロいてないねェ(変装)した甲斐がないねェさてはァニキツマンない男だなァ?」

「オマエの目的はなんだ? あのブッソウなハンコウ声明とやらは、一体……」

「プッ、おいおいwwwオォイ、オオォォォイアニキぃ!!!! いきなりホンダイ入ンないでさぁ、世間話しようZE、セケンバナシぃ。一万年振りの感動☆再会ってアニキ分かってンのかYO、ぁア?」


 叫び笑いとともに、ロボットフェイスの口元がヒビ割れる。

 見せていなかっただけでユスとして振る舞う間もずっと存在していたのか、無機質な面の内側から同じく赤褐色、しかし淑女とはかけ離れた笑い方をする人肌の口が露出する。


 歪んだ笑みを浮かべ、口は流暢に動いた。


「俺様の女形(おんながた)、ケッコー上手ぇだろォ。昔はよくコレで潜入したモンよォ。だのによォ、一体いつだ!? なんで見破りやがったンだ、アニキYOォお!?!?!?!?!?」

「昔より(こじ)らせているな……まぁいい。ソレを話せば、オマエも目的を教えるか?」

「ああ話す話す、アニキにならこのセンガ、いくらでもゲロりますとも~www」


 あまり付き合ってられない。

 センガの質問には手短に済ませると決めて口を開く。


「今朝、オレとアクシュをしたのがマズかったな」

「あン? 握手だァ???」

「手合わせすれば手の内もわかる……オレは戦闘用だからな」

「手合わせってのはなァ……そういうイミじゃねえダルオォォン!?」


 シュッ、シッシ! こーやってヤリ合う、ケンカすんのを手合わせっつーんダルオォンがぁ!!!!

 サンドバッグに見立てているのか、センガは黒く太い木に向かってシャドーボクシングをかまして指摘。


「それと文字だ。オレがテーブルに『魚鹿(ロク)』を書いてやったあの時、オマエは実に懐かしそうなカオをしていた」

「ヴォイコラ! さっきからアニキだかラってテキトー言ってンじゃねェぞオラアァン!! ロボットフェイスにお表情(カオ)なンざ無ェだろがィ!?」

「見なくてもわかる。オレも同じだ。あの一瞬、オレの回路もコイネガに漢字(カンジ)とやらを教わった日々をツイオクしていた」

「オレ『も』って言うんじゃァねェ。別に俺様ぁオモい出してなンかねぇ~ってんだYO!」

「フッ、そう照れる必要はない。なにせオレ『も』同じなんだからな」


 久々の再会だが、思ったよりも会話が弾む。時間が経とうが拗らせてようが、センガはセンガで、自分とは志を共にした戦友。その事実はいくら時間が経とうが、変わらない。


 この分ならチョオローとの口裏合わせだとか、アーチとした戦闘準備だとかも不要だったかもしれない。


 すべて杞憂だったのだろう。


 あとは犯行声明の事情を聞き出し、迷惑をかけた宿民のところへ謝りに行けばすべて丸く収まるだろう。

 ユスに成り代わり、ロクの母親を騙ってまで宿に近づいた理由は分からないが、そこも含めて宿民には訳を説明しないとな。


「ちなみにオレが宿を出ていく事を、ソレとなくユスの姿をしたオマエに吹き込むようチョオローに仕込んだのもオレだ。宿とオレ、どちらに動くかは分からなかったが……やはりオレの方へ来たか」


 犯行声明文には宿民を襲うとも書かれていたが、当の本人がこの森まで離れたんだ、もう宿民に危険は及ばないだろう。


 きっと、戦う必要なんてない。


「オレから言うべき事は全て話した。オマエも話してもらおうか。目的やハンコウ声明の意味を洗いざらい、な」

「へへっ、良いぜェ……まっ、とりあえずそこの木にでも座れよォ」


 センガが示したのは、ベンチのように太い倒木だった。湿った幹に腰掛け、センガは土の地面にあぐらをかいた。


 ユスの姿で腕を組み、地べたにどっかりとあぐら(ずわ)りするセンガ。その格好が淑女であるユスのイメージとはあまりにもかけ離れていて、目の前の女が本当にセンガであるとあらためて実感した。


「目的を教えろってことだったなァ。ヒトコトで言やぁ、救世だよォ」

「キュウセイ。救世と言ったのか?」

「お使いの聴覚センサーは正常です」

「茶化すな……続けろ」

「変えんのさ、この鬱陶しいセカイを。我らがママンの理想にさァ」

「ママン……ジエのことだな。フッ、聞くも久しい呼び方だ」


 だろーwww。ニヤニヤと相槌を打つのが何ともセンガらしい。


「待て」


 だが聞き捨ておけない情報が二つあった。センガはなんでもない風に言ってのけたが、それはあり得ないことだ。

 そう思いつつもモガは確認せずにはいられなかった。


「その言い方だと、まるで最近までジエと会っていたような言い草だな」

「そりゃそうさアニキぃ。このセンガ! ママンの腹心にして情報中枢。俺様の心がママンから離れることなんざぁ! こンの一万年間! ほンのひと時もなかったっテェ~の!! ハッキリ言って今の質問愚問ですZE」

「――――ッ!」


 モガは倒木から跳んで立った。


「なら、ジエはどこにいる。どこに行けば会える?」

「落ち着けYO。あと諜報マン的にはその情報、ケッコー高く付くZE?」


 座れ、座れやアニキぃ。モガが座り直すまで、センガは答えるつもりがないらしい。

 腰を掛け直し、モガの尻に湿った感触が戻る。


「ん~にゃ、とりあえず今のアニキをコピーさせてくれよォ。ママンについてはそれくらいの値が張るぜぇ~?」

「オレをコピーだと? オレに変身したことなどムカシは山ほどあったハズだが」

「ヴォイ、ソレってYO、一万年前のネタじゃんか!? もうワスれちまったんだわ~サスガに」

「……………………」

「どォ~したどしたァ? ママンのこと聞きたくナいの、ン?」


 センガは昔と変わらないように見える。モガも知ってる、昔のままの、仲間だった頃のセンガ。

 その変わらなさがほんの一瞬、モガの目に罠として映った。


 センガのまとう雰囲気はまるで、一万年という時間経過を無視したかのような馴染みがある。

 文化も風景も生態系も変わり切った世界で、センガだけは昔のまま。

 まるで現実でコラージュを見せられたような違和感があった。


(オレは……どうするべきだ)


 過去への憧憬を刺激するセンガを前に、モガは気が緩みそうになる。

 過剰な親しみを持った時、理屈はたちまち追いやられる。

 客観的視点に立たせないという、センガが得意な口先の罠。


(迂闊なハンダンは出来ない、ということか)


 チョオローが見せたモノを忘れるな。

 血で書かれた『停止(殺す)』の文字。


 目の前の相手は油断ならない。

 危機感とは別の部分、傭兵ギアニックたるモガの本能が警戒(アラート)を出している。


「先に」

「ァン?」

「セカイを変える、とはどういう意味だ。聞きようによってはブッソウだが……先にそちらを聞かせてくれ」

「………………………」

「どうした? オレに言えないようなことか?」


 センガがコピーを提案してモガが躊躇ったのと同じように、今度はセンガが押し黙った。


 なぜなんだ。どうしてそこでスッと答えてくれない。

 まさか本当に、犯行声明通りの悪人にでもなってしまったのか。


 どこか遠くに目を上げて、ようやくセンガは語りだした。


「いや……実はママンは囚われの身なンだよ」

「ほう?」

「いやいやマジ、真面目なんだって、コレホント! ムカシは敵対してた国たくさんあったっしょ?」

「……まぁ、あったな」

「そン中の末裔にクッッッソネチっこいヤツらがいてよォ、ママンに恨みがアンだとさァ……!」

「…………」

「で・ぇ・も♡ モガシリーズ屈指の強さをホコるアニキの素晴らしいボォッデェーがありゃ俺様でも無双出来んの!! そのためにゃ一万年前のネタ(ニアライズ)やのうて俺様の新機能・コピーでないとォ! ンでもってママンも助けて救世!! わかったらサッサとマント脱ぎなさいYOォ!!」

「ふむ」


 戦闘に特化したモガのボディを、何某(なにがし)かの事情があって息巻くほどに欲しがっているのはモガにも伝わった。


 当初から知りたかったセンガの目的を知ることが出来た。結果として、不信感は増すばかりだったが。


「腑に落ちないことが多すぎる。ハナシの中でついたウソも一つではないハズだ」

「アニキぃ……ジブンが言ってっコト分かっテっかァ?」


 長らく不明だったセンガの目的は、最強と謳われたモガのボディをコピー(我がものに)することだと断定できた。


 モガに、同志に噓をついてまで。

 無関係な宿民を脅してまで力を欲しがるか。

 モガからセンガへ、失望の眼差しが落とされる。


「ジエの手掛かりになればと思ったが……期待外れだな、センガ」

「なんだァ、テメェ……ちょ、ォおぃ!」


 モガは立ち上がった。

 尻に付いた土を手で払う。

 もうここに用はないと言わんばかりに。


「オマエの目的は知れた。最後にオレの目的も教えてやる」


 立ち上がったモガを、センガはあぐらのまま()め上げる。

 ロボットフェイスで目元を読み取れないが、上手く進まない取引をよく思っていないのは明白だった。


「オレはジエを探している。生きているか死んでいるかは、もはや考えても仕方ない。オマエならば何か知っているかと思ってどうにか正体を突き止めたが……デタラメばかりであてにならん。キタイハズレだ、センガ」


 無辜(むこ)の宿民を脅してまでモガの武力を欲しがるセンガの(さま)を、ジエが見たら嘆くどころではないだろう。


 いつも平和や平等を願った彼女のことだ、このセンガにも何かしらの願いが込められていたに違いない。


 だというのに、なんだ、その体たらくは。

 モガは踵を返す。かつての同志に背を向けて歩き出した。


「オレのいない一万年間で何があったかは知らんが……オマエは変わってしまった。さらばだ」

「ちょ待てよ。アニキぃ、」

「なんだ……いや、そうだったな。ハンコウ声明のことを忘れていた。いっしょにチョオローのところへ謝りに行くぞ」

「小ボケんなァ――――! わざわざこンな森まで来てくれちゃった時点で、テメェにゃ拒否権なンざァ無ぇンだよ」

「!」


 センガの噓八百を耳にしたばかりだからこそ、比較して分かる。

 今の発言が投げやりではないと、背筋を走る悪寒が伝えてくる。

 有無を言わさない響きを敏感に気取り、モガはセンガを振り返る。


「ククク……静かでキモチい森だよなぁ」


 夜空に向けて大仰に両腕を開いて呟く。芝居がかった振る舞いが、センガの底知れぬ不敵さをさらに増長させた。


「こんなにキモチ良いとヨォ……耳を澄ましゃぁちったァ聞けるかもなァーーーーーーボロ宿の焼け落ちる音がYOォぉぉオぉおぉぉおお!!!!!」

「! キサマッ……まさかっ」

「さぁさぁサァさあぁぁぁああああーーーーーーッ!! 夜はまだ長ェ!! おハナシの続きをシよう、ZE~~~~~☆!!!!」


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