【接敵】2 10/32
【メタルエイジのMO-GA】投稿をはじめてからというもの、楽しみが一つ増えました。
それもひとえに、ここまでついて来てくださっている読者様のおかげです。ありがとう!
「オレにとって左手はブキそのもの。失えば命取りだ」
「あ?」
そう話を切り出したのはモガ。
「それを託せる相手ともなれば、紛れもなく『ナカヨシ』と言って差し支えない。そうだろう?」
「左手がなによ? アンタ、話が急ってよく言われない?」
バツン、とモガは自身の左腕――アームブレードが格納された、左の肘パーツから先を丸ごと取り外した。
モガの愛用武装アームブレードは、彼の戦闘において主戦力を担っている。
かつてから人は斬らず銃火器のみを無力化し、戦闘車をも一刀両断せしめた無血無敗の剣。
この時代に蔓延る赤黒い金属を鎧う異形・マキナでさえ、アームブレードを振るうモガの敵ではない。
基本的にはこれ一本、ピンチを切り開くのもアームブレード、困った時のアームブレード。
剣一辺倒、至極シンプルな戦闘スタイルはだが、だからこそ正面切った戦闘でモガに負けは無い。滅多なことで槍を使う機会は来ない。
あろうことか、その肝心要のアームブレードをアーチに託そうとしている。
「狩りの間は貸してやる。使い方をオボえておくといい」
「え。別に要らない。アタシにゃビリビリ矢あるし」
「そう言うな。『ナカヨシ』の証だ。なんなら調理に使っても構わない」
「いやメチャ要らな……きゃあっ!? ちょ、やだっ、触んなっおい……ぁ」
「ジタバタするな。チカラを抜け」
モガのをチン、とアーチの関節部にはめる。アーチの左肘にモガの前腕が装着された。
「うーわ……ホントにはまっちゃったよ、アンタのが」
「相性は良好らしい。この分ならオレのカラダも、すぐにオマエのパーツと馴染むだろう」
バツッ。モガもアーチの腕をはめた。
動作確認をしなくても分かる。アーチの左腕は初めてとは思えないほど、モガのボディにピッタリと収まっている。
「あーあ……付いちゃったわね。でどうすんのよ。これから」
「どうもこうないだろう。今日からオマエが狩りをする日は腕をすげ替える。ソレでオレたちは『ナカヨシ』だ」
「勝手な話すぎる。脱ぎなさいよ!」
「さっきも言ったが、せいぜい使い方をオボえておくことだ。じゃあな、オレは行く」
スタ、スタと。モガは当たり前のように森の奥へ歩き出す。
「ざけんな! 脱ぎなさいっ、この……固った!? ホントにアタシの腕かよこれ……ぐぬぬぬぅ……っ」
スタスタスタ、ズリズリズリ。
アーチの抵抗が如何に虚しいかを、二人分の足音がよく語る。
「ぜぇ、はぁ……くそっ、わかった。わかったから! ぜぇ……せめて……」
「せめて、なんだ?」
「使い方……はぁ、教えていきなさいよ……、剣の」
そう言われれば素直に教えるのがモガである。
/《スラッシュ》、÷《ディバイド》。=《オーバーラップ》と、いくつかレクチャーを施していくうちに、はたとモガは口をつく。
「――アーチよ」
「お、アタシなんか振り方違う?」
「いや、ただ……なんでもない。忘れてくれ」
モガらしからぬ歯切れの悪さで言葉を吞む。
――この教え合うやり取りもまた、ナカヨシと同じカタチをしている。図らずもな。
アーチに対する感情の正体について、モガには心当たりがあった。
それは一万年前に抱いた、ジエやモガシリーズの兄弟機たちに対しての愛情、友情、あるいは敬意……のようなものと、同じだった。
感情の機微に疎いモガは、アーチと自分がどう繋がっているかなんて自覚したことはなかったが。
「な~んだよ、エンリョすんなし。指摘されても怒らんからハッキリ言ってみ?」
はぐらかされたとでも感じているのか、目の前で不貞腐れそうなアーチとの、
絆。
アーチとの間に芽生えた関係性の輪郭が、ジエや兄弟機たちとよく似ていて、モガは思わず誓う。
「オマエは守る。オレと、オマエの左手にあるそのツルギが、必ず」
「ふーん? 意外とキザねアンタ」
「トボけたカオだな。オマエが言えと頼むから言葉にしたまでだ」
呆然とするアーチに気づかず、モガは再び森へ向かう。
「一通りは教えた。あとは使えば分かる。上手くやれ」
スタ、スタ。アームブレードの扱いを復習するアーチを一人置いて、足音は木々の奥へと進んでいった。
「Ѧ《プラズマフィスト》ッ!」
「キィィぃぃィイ!!!!」
モガは新たな関数を、自らの手で自身に実装した。
「……やったか?」
関数の名はѦ。アーチの『ビリビリ矢』こと電撃の矢が、モガの掌底から放たれた。
アーチがするようなクロスボウからの射出ではなく、モガの場合は掌に直接プラズマボールをチャージ、突き上げるような掌底打ちでビームを放った。
高電圧で息絶えたシカに触れる。アーチに注意されたように、まずは左手で帯びた電気を逃がそうと試みる。
バヂッ!
「くっ。アイツの電撃がこれほどとは」
左手以外の箇所がうっかり接触してしまったのか、シカから電撃が流れ来る。内側から切り裂くような痛みを伴ってモガのボディを駆け抜けた。
もう一度接触を試みる。水を飲む時以上におっかなびっくり、左手の指先をちょんと突く程度に触れてみた。
結果は――バヂッ!
「さてはアーチのヤツ……自身のゼツエンボディに気づいていないな」
彼女の電撃耐性は、クロスボウに変わる左手ではなくアーチ自身のボディにあるのだろう。
もっともアーチにその自覚はなかったらしい。結局左手では電気を逃がしきれず、目の前の屠体を解体しようにも手も足も出ない。
客室でアーチが言っていたように、せっかく仕留めた肉が硬くなってしまう。
「帰ったら教えてやるとしよう。なにせ『ナカヨシ』だからな。オレと宿民たちは」
ナカヨシ……ナカヨシ……。電気が自然に逃げていくまで、モガは低い声で辺りに呟きを撒き続けた。
「/《スラッシュ》! ……って、わわっ!?」
関数を呼び出したら、後は実行するだけだ。そう教わったのでその通りにしたら、シカの首が跳ね飛んでビビった。
跳ねた首とシカの屠体の処理するため、アーチは宿の裏手の川原にいる。そろそろ捌いていい頃かと、アーチは川で冷やした肉を揚げた。
「剣は調理に使ってもいいって言ってたわよね……じゃあまぁ、遠慮なく」
肉の解体は生臭いので、さすがに宿の中では行わない。外に用意した即席の調理台に首を、物干し竿には屠体を吊るした。
アーチは知らないが、モガとチョオローが密談をした場所と近い。
「うっわ、切れ味、ヤッバ。押しも引きもしてないのに……引くわ~この剣」
アームブレードはシカ肉の間を、まるで虚空を滑っているのかというくらいに淀みなく切り開いていく。
刃は骨にすら引っかからない。もしやと思って確認したら、なんとシカの堅骨ごと切断していた。
ひょっとしたら、すでに食感に大事な繊維とかさえ気づかずにブチブチ潰しているかもしれない……。
「モガったら贅沢な得物持ってるわよね~。どこで買えんのよ、これ」
アームブレードを包丁として使う事の方がよっぽど贅沢である、とは気づかない。
順調に解体が終わる。
その時。
「――――うっ、痛っつつ、急に首が……」
ピキ、とアーチの回路が熱くなる。
特に、アームブレードを搭載した側の肩から首にかけて痛みが走る。
「痛ったいわね……寝違えたってやつ?」
否。異変は、規格の合わないモガシリーズの武装を扱ったために起こる不具合である。
モガの硬い手が、アーチのボディを内側から侵している。
変わっていく自分の身体に、彼女は気づけないでいた。
「肉やわらけぇーーー!!!」
「「「うめぇぇえーーー!!!」」」
「食べる前から繊維ブチブチーーー!!!」
「「「ぶつ切りすぎーーー!!!」」」
夕空と夜が曖昧な空に、昨日よりほんの少し陰りのある月が浮かぶ頃。
もはや恒例となった子供たちの歓声を、アーチと肩を並べて耳にしていた。
「アンタ今日もなんも食べないわけ?」
「水なら、飲んだが」
「水食ってマジカラダに悪いらしいわよ。知ってる、水食?」
「? さぁな」
ギアニックに健康の概念はないだろう。あるとすればエネルギー枯渇による機能不全、長時間稼働による動作のパフォーマンス低下、金属疲労だ。
などと論を並べる気はとうに失せた。アーチをはじめ、宿のギアニックとモガでは活動のためのエネルギー源やメンテナンス方法がまるで違う。規格が異なるのは明白だった。
ベッドに背を預けてくたびれるモガと、すぐ横で構わずシカ肉ステーキを頬張るアーチ。カーペットもない木製の地べたに座る二人に、安息が流れる。
モガはギアニックの食事風景にも慣れつつあった。
以前とは違い、部屋の照明がオンだろうと問題なしだ。脂の乗ったステーキを貪るアーチがまる見えでも、吐くポーズを取らなくなった。
「ほれステーキ。あ~ん」
「チッ。いらん」
差し向けられたフォークの肉を、モガは瞠目のまま突っ返す。錆びを呼びそうなエネルギー源は相変わらず受け付けない。
「あぁ~……やっぱり?」
「ニクなど要らんが、そろそろ返してもらおうか」
「なにを?」
「オレのウデをだ」
空色の瞳をきょとんとさせたのち、すげ替えっぱなしの左腕に気づいて皿を置いた。
「そうだった。しっくりしすぎてこのままお風呂まで入るとこだったわ」
「フン、それは困るな。アームブレードもないジョウキョウでテキが来たらオレはどうなる?」
「敵ってなにそれ。どうなんの?」
敵って、と思いつつもツッコまず続きを待つアーチと互いの腕を手渡し合う。ようやく帰ってきた自分の左腕をチン、と肘に据え直した。
「いや、どうもこうもならない。屠るのみだ。オレにはまだ槍の武装……バリアブルスピアが残っている」
アームブレードとは反対側、モガは人を模した右手首から、ペンとよく似た棒が排出する。
一万年前からこの瞬間までずっと格納されていた、手の平サイズで棒状の武装・バリアブルスピアを窓の外の夕空にかざす。
手元で影を作るバリアブルスピアは、その小ささも相まってペンのようなシルエットをしている。
「そんな小っさいので何が出来んのよ?」
「戦う前には一手間加えればな。そしてオマエに降りかかる火の粉は――」
「ああしえおぃおぉあ? ん、ゴクッ」
今夕は妙に口が回るな。
明らかな変調として、モガの言葉数がいつもよりも多い。
浮足立つ気持ちの正体が一体何なのか、喋りながら、モガはよく自覚している。
「――オマエへのキョウイはアームブレードが払うだろう。ソレがオレの代わりに、オマエを守ってくれる」
「はいはいはい。アタシを守るね。アンタまたそんなこと言って」
モガの言葉はまさにセンガへの宣戦布告だった。
モガの変調の正体は、一言でいえば、緊張だ。
モガは緊張している。
かつてジエに、戦闘以外では緊張などしないと言ってのけたモガに、その時が来た。
バリアブルスピアの向こうの夕空が夜になる。
今夜は嵐になるだろう。
実際の天候は晴れだろうが、状況が穏やかではない。
バリアブルスピアの穂先が夜を刺す。
黒を広げていく空に弟機の姿を浮かべてみる。
誰かに紛れてこちらを窺うセンガを想う。
今、オマエはどんな顔をしている?
ただお調子者だったオマエが、何を血で訴える必要があるのか。
一万年前とは、何もかも変わってしまったというのか。
だとしたら。否、だとしても。
もとよりモガのやるべきは一つ。
――向かってくるなら、手加減は出来ない。
「朝からおかしいわよ。握手したこととか守るとか。それに敵とか。どうしたってのよ」
「今言っただろう。どうもこうもないと。たちはだかるなら屠るそれだけだ」
(それだけの……ハズだろう?)
兄弟機の面影を消し、バリアブルスピアを右手首に格納い、モガは立ち上がる。
「あとは、アレね。急に人さまの腕取ったりとか」
「アーチ」
「はーい?」
「今夜、もう一度オレの部屋に来い」
「はぁ。いいけど、なんで?」
「ハナシがある。誰にもサトラレずオマエ一人で来い。ヒトに聞かれたくはない。いいな?」
アーチは釈然としない表情ではあるが、とりあえずこちらに頷いてみせた。
「オレはメンテナンスに行く。ハナシはその後だ」
「んじゃアタシもいくわ。アンタの風呂上がりっていまだに廊下までビチャビチャだし。もっかいアタシが……」
「エンリョする。もう一人で入れる」
客室の扉まで歩いて、モガは最後に告げる。
「オレとオマエでハナシをするまではいい。だがその後、事態がどう転ぶかはオレにも分からん。だからアーチ」
「何のことかわかんないけど、とりあえず夜に話があるんでしょ。わかったわかった」
話を掴み切れないながらも、アーチはひたすら頷き返す。
「今夜はカクゴしておけ」
そう言ってモガは客室の扉を閉めた。
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