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魔笛編 第9話「絶景」


梨央はカザフスキーを叩く為、西の山へ

向かった。


族長のいる山は一番奥の高い山。

そこに着くまでにいくつもの山を越えなければ

ならない。一つ一つの山の木々の間、岩陰の間には

たくさんの人影が動いていた。


ザワザワ……ザワザワ……


「来たぞ」 「来たぞ」


何人ものカザフスキー族が梨央を目がけて襲ってきた。爪で()()き、噛みつき、飛びかかって来る。


梨央はスラスラと()けたが、避けきれない時は

殴り、邪魔(じゃま)な背中を蹴り、叩きのめしながら

とにかく奥の山を目指した。


木々で(おお)われた山や、岩陰のゴツゴツした荒々しい山を超え、全力で走り抜けると奥の山が見えた。


そこへ、また、一群が来た。

とても大きな巨漢の男達が前を(ふさ)いだ。


「オイ、ここは通さねーぞ」

睨みつけている。


梨央は「邪魔だ。どけ」 と言って

そのまま前へ進んだ。


一番大きな男の腹を殴り、持ち上げて

一群の中へ投げ込んだ。


一群はひるんだが、全員なら と一斉にかかってきた。


梨央はかかってきた相手の手をへし折り、

足を()り飛ばして、(したた)かに折った。

回転して、相手をかわしながら、手足を折っていく。しばらくすると全員骨を(くだ)かれて、

地面に転がった。


「邪魔しやがって」 梨央は先を急いだ。

そして、一番奥の山の崖の下へ来た。


カザフスキー族が黒い(かたまり)の様に

あちこちに群れを成している。


梨央にかかろうとした瞬間

「まだ 手を出すんじゃねえ」

族長の声がした。


族長が自ら現れた。

まだ若い男だ。筋骨たくましく、恐ろしく巨漢の

見るからに屈強な男である。

鋭い目、不敵な笑いを浮かべている。


挿絵(By みてみん)


その手には何と、まろ太を捕まえている。


「まろ太!」 梨央は大声を出した。


族長はまろ太の襟首を掴み、ニタニタ笑いながら

崖の上に立ち

「落とそうか?お前の弟だったな」 と言った。


「お兄ちゃん、ごめんね。

お兄ちゃんの後、追いかけちゃった…

捕まっちゃった……」


梨央はまろ太をジッと見て、

「いや、オレもちゃんとまろが分かる様に

言い聞かせれば良かったな」 と言った。


族長は 「健気だねぇ。(うるわ)しい兄弟愛だわ」

ケラケラせせら笑った。


「オイ、お前、月ヶ瀬 梨央だろ。

狼族、頭領の息子。おエライお坊っちゃんな。

やんごとなくて(うらや)ましーわ。


オレ達はな、皆から忌み嫌われて、(さげす)まれてんだよ。喰わなきゃならないからな。

人をだ。人喰って、力を得るんだよ。魔力もな。


オイ、坊っちゃん。オレ達が人だけ喰ってると

思うなよ。

魔族も喰うぞ。その魔法力を得られるからな。

試しに喰うか?この“チビ犬”を」


そう言って鋭い爪でまろ太の(のど)元を突いた。

「ウワ~~~」 まろ太は叫び声を上げた。

血がほとばしり出て、真っ白な毛を赤く染めていく。


梨央の毛は逆立った。

もの凄い闘気とユラユラとのぼるオーラが、

身体から(あふ)れんばかりに立ちのぼった。

梨央は自らを抑え、少し落ち着かせると、静かに言った。静かになった梨央はことさらに恐ろしい。


「オイ、お前が捕まえてるのは“狼”だぞ」


「このチビか?それじゃ、喰って確かめてみるか」


梨央はまろ太に

「まろ太、なぁ、周りを見てみろ。

“良い景色”じゃねーか」 と言った。


まろ太は(こわ)くて、目を閉じていたが、お兄ちゃんの声を聞いてハッとした。


まろ太は物心つく時から、母親からある魔法を教わってきた。水や木などを動かせる魔法……

でも、全然出来なくてまろ太が唱えても、水が波紋を起こすくらいだった。


今、崖から見ると、ゴツゴツした岩、岩と共に生えている木々。下には水が流れている。


まろ太は(わかった!)と思った。

そして全神経を集中し始めた。

光を帯びたオーラが、まろ太から放ち始めた。


「何だ?このガキ。喰っちまおうか」

族長がさらに深く爪を入れようとした。


梨央は身構えた。


まろ太はギュッと目を閉じ、さらに集中する。

爪が刺さる………

その瞬間、目を開け、そして叫んだ。


「〝狼の(きば)〟」


その途端、水は逆立ち、木々は揺れ、岩は砕けた。

それらが皆、牙の形となり、カザフスキー族を

襲った。


族長も身を守る為、とっさにまろ太を離した。


落ちてくるまろ太を梨央は飛んで受け止め、

安全な岩場の影へ連れて行った。


「まろ太、まろ太、大丈夫か?」


「お兄ちゃん……」 まろ太はあれだけ魔力を使い、

血を流して失神寸前だ。


「お前……カッコ良かったぞ」


「ありがと……お兄ちゃんもがんばって……」

まろ太はお兄ちゃんとグータッチをした。

その時、梨央にパワーが流れ込んできた。


まろ太へ静かに目を閉じ、意識を失った。


「まろ太、お前、まだそんな魔力残してたのか。

お前大した男になるぞ」


梨央は緑郎から(もら)ったバルーンを(ふく)らませ、

まろ太を入れた。


「緑郎と潤也の所へ。アイツらなら、まろを治せる」 バルーンはスッと消えていった。


梨央は岩場から出て行った。たくさんのカザフスキー族が牙にやられて動けなくなっていた。


梨央はその間をスタスタと通り抜け、崖の下に立つ。

崖の上では族長があぐらをかいて座っている。


「おせーじゃねーか」 と族長。


梨央は「そんなに死にてぇのか」 と言い、

ほんの一瞬で崖の上に駆け上った。


「さすがだなぁ。坊っちゃん。お前喰ったら

オレ、最強になるわ」


「“生きてりゃな”」 梨央はそう言うと容赦(ようしゃ)なく

かかっていった。


族長も受け止めたが、タダでは済まない。

その威力で腕が折れた。


「何だ?この男」 族長は驚いた。

(今まで戦ってきたのとは全然違う。腕、折れちまったわ。本気出さないと()られる……)


族長は頭突きしてきたが、梨央は手で受け止め、

殴り飛ばした。


族長は後頭部を打ち、フラフラになりながらも

立って体勢を整えた。

「フー」 「フー」 息を荒く吐いている。


族長は魔力をかけて梨央に蹴りを入れてきた。

足には刃をたくさん付けている。

切り裂きながら、蹴り飛ばすつもりだ。


梨央は難なく避けて、族長の首をへし折った。


「まろに手を出した時から、お前死んでんだよ」

梨央は振り向かず、帰って行った。





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