魔笛編 第8話「笑顔の悪意」
潤也達は学長に会う為に、本部施設へと急いだ。
本部施設は土地の中央にある。
看板には「お父さんの家」と書かれている。
潤也は身震いした。
「絶対、ヤバイやつだ!正気じゃないよ」
本部施設へと入って行くと、働いている相談員達が
笑顔で声をかける。
「おはようございます」
受付に行くと、「今日は何の御用ですか?」
と聞かれた。
「学長と話したいのですが」 緑郎が言う。
「ご相談ですか?何でも聞いてくれますよ。
私達をとても大切にしてくれるんです」
ニコニコ笑っている。
「それはありがたい」 緑郎も笑った。
学長室へ案内され、ノックして中へ入った。
そこにはカーペットの上にあぐらをかいて座って、プラモデルの部品を散らばらせて、組み立てている若い男がいた。
見た目は緑郎達とそんなに変わらぬ程若く、
ガッチリした体型ではないが、筋骨たくましいのは分かる。
それに何だろう…………。柔らかな雰囲気を出してはいるが、不思議な威圧感がある。
「あっ、待たせてごめんね。もう出来たよ。
つい夢中になっちゃって…」
ニッコリ笑って振り向いた顔は、人懐っこく、
そして若い。中々の好青年である。
「あれ?珍しいね~。白洲君かぁ。
世良君も一緒。何かな?何でも話してよ」
「コワ~。何だコイツ」 潤也は中々凄みのある男だと思った。
「何もかも、お見通しですか……では、話が早い。僕達はあなた達の計画を阻止しに来ました。そして、あなたの真の目的を知りたい」 と緑郎は迫った。
「う~ん。難しいね……お父さんもこまっちゃうな……かわいい息子の言う事は何でも聞いてあげたいんだけどね」
ニコニコしながらプラモデルの飛行機を手に持って、部屋の中を飛ばせて歩き回っている。
部屋の壁には、一面に学長と通称子供達の写真が飾られている。
緑郎は遺体の中にあった顔がたくさんある事に気づいた。
「遺影ですか?」
学長は、「えっ?何言ってるの?みんな生きてるじゃん」 驚いた様に言う。
潤也が「フザけてんの?アンタ!殺してんじゃん」
と部品を蹴った。
「アレ……アレ……一個無くすと大変なんだけどなぁ。まあ、セイレーンじゃ君達をヤレなかったかぁ。長老も丸め込まれちゃったしね……
君達、優秀だし、見込みあるんだけど、惜しいね……でも、邪魔するんなら、そろそろ消えてもらおーかな」
ジロッとこちらに向けた目は邪悪な意思に満ちていた。
「では、行ってらっしゃい」
学長はパチン、パチン、パチンと指を鳴らした。
部屋がグラグラと揺れたと思うと、壁が天井が
こちらへ倒れてきた。次の瞬間、天井も壁も無くなり、緑郎は砂漠に立っていた。
「何だ」 緑郎が気配を感じると、砂が足下で崩れだした。飛び退くと、そこに大きな渦が出来た。その砂の中から巨大なサソリが飛び出してきた。
大きなハサミで襲ってくる。
緑郎は大地の精霊の剣を出し、戦った。
ハサミの攻撃を避け、力勝負しない様に
サソリを誘ってハサミと尾を振らせ、
飛んで背中に乗り、急所を刺し、絶命させた。
見ると、砂漠のあちこちで渦ができ、サソリの
ハサミが出てきている。
緑郎はハッとして剣を捨てた。
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一方、潤也はプラモデルでいっぱいの部屋にいた。
「何?アイツの趣味?」
戦闘機や軍艦、ヨット、車、電車。
あらゆるプラモデルが種類別にキレイに棚に並べられている。
カタカタ、カタカタ、戦闘機がひとりでに飛び立ち、潤也の前で大きくなり、攻撃してきた。
「フン。さっきの仕返しかよ。
じゃ、こっちもそれっぽくいくか」
潤也は魔力で大きな機関銃を出し、
撃ち抜いて墜とした。
カタカタ、カタカタ、次々と命を与えられた様に
プラモデルが動きだす。
「キリないなー」 潤也がゾッとした時、
緑郎の声がした。
「潤也、戦っちゃダメだ。何も考えないで」
「え?だってヤラれるじゃん」
「とにかく、今は考えるな」
「チェッ」 潤也はやる気満々でたくさんの武器を魔力で出していたが消した。
そして目を閉じ、考えるのをやめた。
するとユラユラと部屋は揺れ始め、
キューブが畳まれる様に無くなった。
全て畳み込まれる前に、潤也は外に飛び出した。
そこは暗い闇の中で、たくさんのキューブが浮いている。
緑郎がそこにいた。
「何だい!コレ?」 潤也が聞いた。
「これは僕達、魔法使いを屠る最高の罠だ。
どこへ飛ばされたのか分からぬ不安で、自分の
イマジネーションから敵を作り、魔力を使う。
キリがないから魔力も使い果たし、体力も無くしてしまう。自滅を誘うんだ。ヤツは巧妙だよ」
「いけ好かないヤツ!アイツ、どこだよ!」
と潤也が見渡す。
闇の中にボウッとランタンの様に光を出して、
キューブがたくさん浮いている。
各キューブにそれぞれの世界がある。
上の方にスッと向かって行くキューブがあった。
「あそこだ」 緑郎は手をかざし、
「アコーシオン」 と呪文をかけた。
キューブの側面が開き、学長がこっちを見て
ニタついている。
「いや~。やっぱり賢いね。君は。
もっと疲弊すりゃいいのに。
では、サヨナラするね。またすぐ会おうよ」
次の君キューブに飛び乗った。
「捕まえてやる」 潤也が追いかける。
それは凄まじい早さで。
もう少しで追いつける!その時、伸ばした手から
ブレスレットが赤く点滅した。
「えっ?」 その一瞬の間に学長は消えてしまった。
潤也は青ざめた。
「これ、まろくんだ…………」