魔笛編 第6話「隠された闇、そして騎士達と」
夜、3人はこっそり茂みに近づき、分けいって入っていき、小さな建物にたどり着いた。
近づいてみたが、気配が無い。
鍵がかかっていて入れないが、潤也は魔力で簡単に開けて、入った。
中へ入ると、一見、家具もきちんと置かれ、片付いた部屋に見える。しかし、大きな柱時計に近づくと、針が1本多い。
緑郎は考えていたが、柱時計のガラス扉を開け、
4本目の針を12に合わせた。短針を3に合わせ、
長針を9に合わせた。秒針が6の所に来ると時計の針全体がグルグル回り始め、暖炉の火が消え、下に通じる階段が現れた。
「これ、何の意味?」 と潤也は訳が分からないという風に肩をすくめた。
「針が4本あった。だから単純に東西南北に合わせて、全ての位置、世界を示してみた。そしたら隠し階段が現れた。だけさ」
「どっちみち、いーもんは無さそうだぜ」
梨央は階段を下りていく。
階下にあったのは、たくさんのガラス瓶。
とても大きな、そう、“人が入るくらいの……”
「わっ!何だよ、コレ!緑郎……」
潤也は叫んだ。
「これが相談員の行き先か……」
梨央はガラス瓶に入っている死んだ人々をジッと見つめた。
緑郎は 「僕が一番恐れていた事が起こっている。何としても止めてみせる」 と言って、ガラスの容器に入れられた人々を観察した。
手前にあるガラス瓶の人々は肩に傷があったり、足に傷があったりして損傷している。
中程の人々はアザなどがあるものの、あまり損傷がない。
奥の人々は外的には全く損傷が無かった。
一つ一つのガラス瓶には性別、氏名、生年月日、保存期間まで書かれている。そして、ラベルの色が分けられている。
緑郎は2人に「部屋へ戻ろう」 と促した。
3人は無言でこの建物を出たが、振り返り、それぞれに冥福を祈った。緑郎はここの土を少しだけ持ち帰った。
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重苦しい気持ちで、部屋へ戻るとまろ太が目覚めていて
「どこいってたの~?」 と聞いてきた。
「ちょっと、お散歩~」 と潤也が笑って答える。
「あ~今日はまだお話してなかったね」 と緑郎は言って
「おいで」 とまろ太を膝に乗せた。
まろ太が喜ぶので、毎日たくさんの話を聞かせていた。
「今日はとびきりのお話をしよう」 と緑郎は、騎士道物語を話し始めた。騎士達は馬で駆け抜け、ドラゴンが飛び回り、妖精が歌う……。その中を王が先頭に立ち、勇敢な騎士達と共に悪い魔法使いに立ち向かう……。
まろ太はワクワクした。
潤也は「へ~、緑郎、そんな話読んでたんだ~。
もっと難しい本ばっかかと思った。ファンタジーじゃん。あっ!僕達がファンタジーか」 と言って笑った。
「よし、潤也。魔力をかけてくれ。
まろ太くんと騎士の世界へ飛び立とう」
「いいよ~」 潤也はニコニコして、緑郎が描いた魔方陣の中に美しい虹色の光を送り込んだ。
「行こうか」 4人は魔方陣の中に入って行った。
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この世界では、まろ太くんが王子様、緑郎は賢者、潤也が魔法騎士。梨央が漆黒の鎧に身を包んだ伝説の黒騎士になっていた。
「王子、悪い魔法使いはあの城にいます。しかし、彼は用心深く城からは中々出て来ません。それに、彼は自分で戦わない。我々は、数々の至難を乗り越えて、あの城にたどり着かなければ」 と緑郎は言った。
潤也は、「まずは、ドラゴンやっちゃいましょー」 と指差した。
火山に住むファイアードラゴンに戦いを挑む。
山も険しく、登りにくいが王子達の馬は優秀で難なく駆け上がっていく。
火山の上では、ドラゴンが待ち構えていた。
威嚇して、ゴウゴウと炎を巻き上げ、口から業火を吐いている。その熱さといったら……。
梨央は先頭を切ったが、振り返り、
「オイ、潤也。コレ、本当に熱いぞ。大丈夫か?」 と聞いた。
「うん!大丈夫!梨央死なないから。
まろ太くんは守るから」
「フザケてんのか!お前」
「そんな事言ってると、ドラゴン来てるよ」
ものすごい風圧。ドラゴンが爪を振りかざしてきた。
梨央はまろ太達を守って、ドラゴンを自分におびき寄せる。
岩の上まで駆け上り、ドラゴンの肩を切り裂いた。
「グワァ~」 耳をつんざく様な咆哮。
まろ太はびっくりして、目を閉じたが、
緑郎は黒騎士を指し示して言った。
「王子、騎士は世界を守る為、戦っています。あなたを信じて。最後まで見届けてあげて下さい」
「うん」 とまろ太はドラゴンと騎士を見つめた。
ドラゴンは猛り狂って攻撃を仕掛けてくる。
まわり一面に炎を吐いてきた。
まろ太のまわりは潤也が「ホワージュ」 と呪文をかけて、シールドを張り、守った。
騎士は難なく跳ね除けて、ドラゴンの胸を突いた。
ドラゴンはグラグラとよろけた。
緑郎は、「王子、今です。トドメを。眉間を狙うのです」
まろ太はビックリしたが、腰に剣をさしている。
梨央はまろ太を抱えて岩を蹴り、ドラゴンの顔面まで飛び上がった。
まろ太は勇気を出して、剣で眉間を「ツン」と刺した。
潤也は魔法で剣からキラキラした光を出した。
ドラゴンは「グワァ~、グワァ~、グワ~、グワ~」 と恐ろしい咆哮を上げて、崩れていった。
まろ太は騎士道と戦った自分に誇らしさを感じた。
魔方陣から帰ると、まろ太は満足して眠ってしまった。