魔笛編 第5話「自然な不自然」
降りると、迎えの者がいた。
「よくいらっしゃいました。お疲れでしょう」
若い男や、女達だ。
小さな車に乗せられて連れて行かれたのは、田園風景に広がる場所に建てられた質素な建物だった。
潤也も梨央も珍しく黙っている。
緑郎に目立つなとクギを刺されていたからだ。
まろ太は梨央の荷物の中でちんまりしていた。
梨央達はホワイトボードのある部屋へ連れて行かれ、木の椅子に座らされた。
「さあ、まずここについて説明しましょう。私達は自然を大切にする集団です。名前は『グリーン ラボ』です」
(ケッ!胸クソ悪い) 梨央は思った。
(ウヘ~、苦手なタイプだ) 潤也はウンザリした。
緑郎はジッと聞いている。
「グリーンラボでは、皆仲間であり、家族です。
皆で考え、話し合い、お互いを信頼してより良い未来を築いていきましょう」
(いよいよバケモンだな) 梨央は背中がかゆくなった。
(こんなセリフ棒読みで言ってる人初めてみた。コワスギ~)
潤也は顔が引きつった。
緑郎はジッと聞いている。
「ここでは、朝6時に起床。皆で美味しく朝食を頂きます。朝食は全て手作りです。当番になったら朝5時に起きて仕度して下さい。皆で回しますので、楽しくやって下さい。
それから、畑仕事や機織りなど、生活に必要な仕事があります。色々な事について勉強出来る講習もあります。楽しく勉強していきましょう。
ここには、私達のような相談員がいますので、気軽に声をかけて下さいね。皆、悩みがあってここに来た人が多いですから。
ここではもう一人で悩まなくて大丈夫ですよ」
(いい加減、気色悪い口を閉じやがれ) 梨央はイライラした。
(もう寝ていい?こんなの今時流行らないでしょ。
さっさとボス見つけて片付けちゃおー♡)
潤也は途中から聞いていない。
緑郎は黙って周りを見渡した。
それから食堂や畑などを案内され、部屋を割り振られた。
異色の4人には部屋など無いので、緑郎は相談員に幻覚魔法をかけ、初めから予定にあった事とし、4人に部屋をもらった。
「フー、気持ち悪かったぁ」 と潤也。
「やっと喋れるよ。まろくんどうした?」
梨央は「まろ、大丈夫か」 と出してきた。
「うん。おなかすいた」
「あ!僕、パンとか持って来た」
クリームパンをまろ太に渡した。
「わぁい!」 まろ太は喜んで食べた。
「ありがとな。お前のお気楽が今回は役立ったわ」
「いつもカリカリしてるとよくないよ~。
緑郎はさ、何考えてたの?あんな面白くない話聞いてさ」
緑郎は考えながら言った。
「何が目的なんだろうな。教育か?彼等の住みやすい国にする為の……。でも、それなら彼等はある程度になったら帰さないと。
今、帰っているという話は聞かない。
それとも計画した者の意志通りに事が運んでいないのか? とにかく、真相を探ろう」
「OK!OK! アフッ~」 潤也はアクビをして、
「ちょっと休もう…まろくんおいで~。一緒に休もう」
まろ太と昼寝をしてしまった。
夕食まで自由時間だ。
まだ時間がある。
「探索してみるか」 梨央が言った。
「そうしよう」
厨房ではすでに夕食の仕込みをしている若者がいた。
楽しそうにやっている。
講習も覗いてみた。
野菜の作り方についての講習。特に変わった事も無い。
畑を見回り、木々の茂みに来た時、梨央は“異臭”を感じた。
「オイ!」
「うん。“何か”あるね。この奥だ。
でも、今は引いておこう。情報を集めてからだ」
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夕食は野菜ばかりだった。それとパン。
梨央はパンをまろ太に持ち帰った。
潤也はチーズを。緑郎はクラッカーと紙パック牛乳をこっそり持ち帰った。
「ごめんね。まろくん。待ってたよね」
まろ太は夕食をパクパク食べた。
「ケッ!こんな葉っぱバッカじゃ力も出ねぇよ。
ヤツら、逆らえない様にしてんのか」
梨央はメニューに不満タラタラだ。
「講習とか開いてさ、みんなバカにしてくんじゃないの~?」 と潤也。
緑郎は講習に参加している。
「野菜の講習とかは普通だったよ。
もし、思想をどうにかしたいなら、ここの生活ぶりだろう。
シェアハウスして、相談員を置いて、同じ食事、仕事、一体感。自由にしていいですよと言ってはいるものの、全く自由にさせてないんだ。
昼間、梨央と違和感を覚えた場所も調べたい。
もう少し情報を集めよう」
「OK!OK!化けの皮剥いでやるさ」
潤也はこっそり持って来たバナナの皮をムキムキして
「まろくん。ハ~イ!」 と言ってまろ太に食べさせている。
「おいし~♡」 まろ太は口いっぱいに頬張っている。
そんなまろ太を見ながら、梨央も
「早いとこ、帰らねえと。まろ太まで来ちまってるから、オフクロ、今頃心配で眠れねーだろ」
と言った。
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翌日、なるべく目立たない様に皆と同じ生活をしろ と緑郎に言われた二人は、講習を受けに行った。
「畑の耕し方 その①」
やっぱり興味をそそらない。潤也は退屈で、あちこち目線を動かした。手先はペンをクルクル回している。
梨央を見ると目線が動かない。
(アレ?梨央、もしかして……目、開いたまま寝てるよ。へ~スゴい特技。僕もやりたい)
そんな時、講師の相談員が声をかけた。
「世良君…でしたっけ?私の話つまらないですか?」
潤也は立って
「ハイ。つまらないです!」 と答えた。
ハッと目線を感じる。 殺気?
緑郎だ。睨んでいる。
「いえ。つまる、つまらないの問題じゃないです。
僕達の生活に必要な事なので、大事に聞いています」
「そうですか」 講師は納得した。
(あ~、面倒くさい。いーなー梨央、気持ち良さそーに寝てて) そう思って梨央を見ると、引きつった顔でニタニタ笑っている。
(コイツ~!何時から起きてんだよ。
何でこんな時だけ起きてんだ)
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とにかく、この2人は目立たない様にしなくてはならない。
そう緑郎に言われている。しっかりクギを刺されている。
まろ太を部屋に置いて行ってるので、3人で交互に部屋へ様子を見に行った。
緑郎は講習や機織りなどの仕事の合間を見つけては、
まろ太に自分達は今、どこにいて、何時に帰るかを細かく伝え、安心させた。
梨央は畑仕事の合間に2秒ほどで走り抜け、3階の部屋までひと蹴りで上り、窓枠に手をかけてぶら下がり 「やっ 元気か!」 と様子を見た。
潤也はクッキー作りに参加して、焼き上がると、廊下の角を曲がった瞬間、魔法で移動し 「まろく~ん。クッキー焼いてきたよ~」
とクッキーを渡した。
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何時もの様に緑郎は講習へ行き、梨央と潤也は畑仕事に行った。
畑には見事な野菜がたくさん実っている。
畑を耕し、水を撒き…
絵に描いたようなスローライフ!!
梨央はクワの一振りで人の3倍も4倍も耕してしまう。
潤也はその横でやっているフリをした。
と、そこへ涼子が通った。
女の子の友人と話している。
「涼子ちゃん!」 と潤也は声をかけた。
「あら?来てたの、潤也君。ビックリ!」
「アハハ。涼子ちゃん、ここの暮らしどう?」
「とっても素敵よ!新しい自分を発見したって感じ。私、今までレッスン、レッスンでゆっくりした事無かったし。こんな美しい自然の中で暮らせて、改めて自分を見つめ直してるわ」
「へえ…」
「それから、友達もたくさん出来たわ。皆、向こうから気軽に話しかけてくれるの。聞いたんだけど、今にここだけじゃなくてたくさんこういう町を作って、皆、家族になるんですって……争いも無くなるわね。その為にね、新しい相談員として、ここで慣れた人達が新しい土地に行くみたいよ。もう何人も行ってるらしいの。あっ!待ってくれてるみたい。 じゃ!またね!」
「ま・た・ね~」
潤也は引きつりながら手を振った。
(人ってこうやって洗脳されてくんだ。カンタン~。もう、ヴァイオリン嫌いじゃん。
スカイウェーブどうしたんだよ~。
梨央とろくろーに言おー)
部屋へ戻り、梨央と潤也はシャワーを浴びた。
「汗かいたなー」 梨央が出て来た。
「泥んこ、やだワー。畑行きたくな~い」 と潤也。
緑郎は
「お疲れ様。僕はグリーンラボという新しい未来の講習に行って来たよ。ここには“学長”と言われる存在がある事を知った。おそらく黒幕だ。そこを叩く」
「あっそうだ~!涼子ちゃんから聞いたんだけど…」
潤也は涼子の話を2人に伝えた。
緑郎は「なるほど。その相談員の行方が気になるね。あの茂みの向こうへ行ってみよう」 と提案した。