魔笛編 第3話「狼兄弟」
「そういう事!」 と言って潤也はニコニコ地図を巻いてお土産にしてしまった。
「おい!お土産作ってる場合か!いつ調査するんだ」
「あっ……そう! ……どうしようか?」 と潤也。
「明日、土曜はみんな空いてるかい?」
緑郎が皆を見る。
「いいよ~。ついでにファミレスでランチしようよ」
「どれだけお気楽だ」
帰り際、緑郎は潤也と梨央に「御家族で」と言ってケーキを渡した。
「気が利くなー。ありがとう緑郎」
「いいのかぁ。“マロ”が喜ぶわ」
「あっ、まろくんに会いたいな!帰り、梨央の所寄ってくね」
“月ヶ瀬 まろ太” 梨央の年の離れた弟である。
月ヶ瀬 梨央は狼族の頭領の息子で、父は羅我麿。
まろ太は麿の部分を取って名づけられた。
羅我麿は、梨央以上の強面で強靱な身体を持ち、物に動じない性格である。
ちょっと見、カタギに見えず、怖がられがちだが、根は優しく、家族思いだ。
弟のまろ太は4才。彼も狼族であるが、身体は4才児の中でも小さい方で、性格は素直、人懐っこく、誰にでも好かれる。
梨央とは全然似ていない。
まん丸い目、小さな鼻、ニコニコのお口を持っている。
お兄ちゃん大好きで、いつも後を追いかけている。
梨央にとっても可愛い弟である。
狼族には、大切な儀式がある。
産まれて初めての満月の夜には、彼等の真の姿、“狼”に初めてなる日だ。その為、皆を集めてお披露目する。
初めてまろ太が狼になった時、その白色に“伝説の白狼”だ!
と誰もが驚嘆した。
頭領は皆、銀色の狼だった。それに紫や青が混ざり合うこともある。
梨央の時も、その金色の体毛に皆がざわついた。
白い狼は幸運の兆しと言われ、大切にされる。
まろ太が白色だった時は皆が息をのんだ。
そして、その頭を上げると、水を打ったように静まった。
。……… ポメラニアン ……… 。
「かわい~♡」 母親のかすみさんは大喜びだった。
羅我麿も 伝説の白狼だしな…… と考えるのをやめた。
梨央が 「狼族、始まって以来の初ポメラニアンだな」 と言った。
まろ太は梨央の友人達からも本当に可愛がられている。
「まろく~ん」 潤也が駆け寄る。
「じゅんくん♡」
まろ太は潤也に懐いていて、すぐに抱きついてきた。
「大きくなったね。まろくん♡」
「オイ、3日前に会ったばかりだぞ!3日で変わるかよ」
「子供は毎日大きくなっているんだよ。鈍感なお兄ちゃん!」
「ケッ!」
「じゅんくん、あがってって~」
まろ太は潤也の手をギュイギュイ引っ張った。
「あっ、じゃあ、ちょっとだけ」
梨央の家は、緑郎の家から比べたら一般的な家だが、割と大きく広々としている。
父親は、人間界でコンサルタントをしていて、かなりの稼ぎがある。彼の風貌から何のコンサルタントか予想出来ないが、悠々暮らしていける額である。
まろ太は、年の離れているせいもあって家族みんなに可愛がられている。
部屋へ入るとたくさんのオモチャがあった。
中でも、お気に入りの電車のオモチャ。
レールをつなげて、トンネルの中を走らせ、駅には人形の鉄道員やたくさんのお客さんもいる。
「わぁ!すごいねー。まろくん、電車走らせて遊ぼうか」
「うん♡うん♡これ、しあわせニコニコ号だよ。じゅんくんやろっくん(緑郎くんのこと)お兄ちゃんとのるんだ~」
「アッハ! 楽しそう」
潤也はまろ太と楽しく遊んだ。
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次の日の土曜日、緑郎達は事件の現場に立っていた。
「ここでターゲットは何かを仕掛けられている。それを探ってくれ」
潤也は魔法の呪文を唱え始めた。
「ランドュ・ラングッセ・ランドュルーダム。隠された姿を現せ」
周りにユラユラと陽炎がのぼる。
手や背中が現れては消える。
隠そうとする魔力が抗っている。
潤也はその手に魔力を込め、指し示した。
「姿を現せ」
陽炎からハッキリと姿を現した。
“セイレーン”が歌っている。 陸の上で……
誘惑の歌。人は抗えない。
潤也は手を上げ、幻を消した。
「これが隠されていたものか」
緑郎は考えた。
「陸の上にセイレーンを連れ出すことは難しい。彼女らは海に住み、その歌で人を誘い、喰らってしまう……その姿は人魚に似ている。セイレーンを陸に出現させて、魔法界からも隠した。大きな魔力を持った者だ」
「ねえ!パフェ食べようよ♡」
また、お気楽潤也が言い出した。
「まろくんもお腹すいたよねー」
まろ太は梨央の手を掴んで足を浮かせてブラブラ遊んでいる。
「あぁ、ごめんね。行こうか」
4人はファミレス『ホップ・ステップ・ジャンプ』へ入っていった。
「さあ、何にしようか」
まろ太は真剣にメニューを凝視している。
スミからスミまで必死に見た後、こう言った。
「お子様ランチ♡」
梨央はあきれた感じで
「いつものヤツな」
お子様ランチを注文すると、おまけのオモチャがカゴに入れて運ばれて来る。
まろ太は目を輝かせた。
「お兄ちゃん、ダッコ♡ダッコ♡」
「仕方ねえな」
梨央は立って、まろ太の脇に手を入れて、持ち上げる。カゴをちょうど手の所にくる様に潤也に持ってもらって、まろ太はオモチャを見ない様に上を向き、両手をゴチャゴチャしてオモチャを選び始めた。
「早くしろ、まろ」
「まって♡まって♡」
まろ太が渾身の思いで選んだのは、女の子用のかわいいお花付きヘアゴムだった。
「よかったな」 梨央が顔を歪めて言った。
「うん♡キレイ、キレイ。つけて!」
「本気か?」
「いいじゃない。かわいいよ。つけてあげる、おいで!」
潤也はまろ太の巻き毛を一房取って、結んだ。
「ほら、かわいい♡」
「ありがと♡」
梨央は何とも言えない顔をして
「お前、それで歩くのかよ。」 と言った。
「うん♡うん♡」
「さ……お食事がきたよ、召し上がれ」
緑郎はお子様ランチが運ばれて来たのを見て、まろ太が食べやすい様に配置して、まろ太にエプロンを着けてあげた。
「ワ~イ!おいしそう♡」
まろ太はパクパク美味しそうに食べ、ドリンクバーの時は3人に代わる代わる持ち上げてもらって好きなジュースを飲んだ。
お腹いっぱいになると眠ってしまった。
まろ太は眠ると、たまに狼になってしまう事がある。
実際、ポメにしか見えないが、この時がそうだった。
「ヤベ」 梨央はまろ太を懐に入れ、
「オレ、もう帰るわ」
とポメまろ太を抱いて帰って行った。