魔笛編 第1話「胎動」
神隠し、消えた列車、無いはずの町、妖精、雪男、小人、人魚etc.
不思議な話はたくさんある。
理屈で説明のつかない事を全て夢事と決めつけるのは乱暴すぎる。
現に今生きている僕等の世界。
このリアルな世界にも魔法使いが存在している。
★ーそう、この日本のとある高校の話ー★
世良 潤也 特に目立たない普通の高校生である。しかし彼は生粋の魔法使いである。
友人の白洲 緑郎 頭脳明晰で落ち着いた物腰の彼は誰からも一目置かれる存在だが、彼も魔法使いの1人。
そして、変わり種の月ヶ瀬 梨央は通称ウルフボーイ。実はその名の通り“狼男”である。
しかし、それは誰も知らない。
彼等は、人間界で普通に高校生活を送っていた。
★ーさあ、文字が溶け出す時間だ…………。ー★
と言っても、普通の人間には分からないから魔法族だけ……
そう、黒板とか、貼り紙、コップとか何でもいい。
書かれている文字がグニャッと歪んだかと思うと、溶け出し、別の文字が現れる。
それは、魔法族のニュース。まあ、連絡とかに使う場合もある。
ちょっとくだらないウワサ話とか……
○○くんは△△さんが好き♡とかさ…………。
そんなニュース速報が1日に何度か。
その中から目を引いたのは行方知れずのニュース。
俗に言う、神隠し的な……。
でも、最近はずっとこんなニュースが続いている。
人間界でも普通にあるニュースだが、世良潤也は“これは何か大きな事になりそうだな”と感じた。
日本のあちこちで神隠しが起きている。
誘拐? でも、根拠がなさすぎる。
魔法界でも何か関わりがあることに気が付いているからニュースに取り上げている。
潤也は、休み時間に白洲緑郎の所へ行った。
近くの窓枠には月ヶ瀬梨央が腰掛けていた。
「ニュース見た?」
緑郎は何時もの穏やかな顔で
「見る前から知っている」と答えた。
「さすがだね。白洲家はさ。で、白洲家ではメドはついてるの?」
「ついてない。これだけ痕跡のないものは珍しい……僕等で調査してみるか?危険は伴うが」
「僕はいいよ。何が起きてるか知りたいしね。
ウルフボーイは?」
「断る理由ねえだろ」
梨央はかったるそうにソッポを向いた。
「良かった。君達がいないと乗り出せないから……では、学校が終わったら僕の家へ来てくれ」
「うん!あっ!ねえ、緑郎んちのケーキ美味しいんだ。用意しといてよ。よろしく」
潤也は笑って自分の教室へ戻っていった。
「アイツ、お茶会か何かと思ってやがる」
梨央はケッという顔をして「じゃな」と背中越しに手を上げて戻っていった。
放課後、2人は白洲邸へー★
重厚だが繊細さも感じさせる大きな鉄製の門。
そこから広大な庭が続いている。
木々や花々が美しくきちんと手入れされており、イギリスの庭園を思わせる。
その中央に白亜に輝く豪邸
白洲邸である。
潤也は臆しもせず、呼び鈴を押し
「世良です。緑郎くんいますか?」と声をかける。
「緑郎様から伺っております。お入り下さい」
鉄の扉が開いた。
潤也は「どうも~」と元気良く入っていく。
梨央は「何やったらこんなのがブッ建つんだ!?」 と周りを見ながら足早に歩いて行く。
「白洲家は魔法界の中枢、“魔方陣”のトップクラスだからね。これ位の家は建つさ」
魔方陣は魔法界の中でも“選ばれた者”だけが入れる王族のトップ集団。
魔法を生み出す意味の魔方陣。
白洲家はその中でも上位に入る。
「わあ、この花良い香りだね。これ魔法植物だな。結構手に入れにくいのに、すごいね。魔法薬作れるよ。これさ、中にある実をすり潰してさ……」
「おい、潤也。いつまでのほほんと喋ってやがる。家に着く前に日が暮れるぞ」
「ごめん。つい、珍しくてさ。この間来た時より花増えてるしさ。すごいよね。この増え方。これも魔力かな」
「ケッ! 庭師にでもなりやがれ」
「アッハ! せっかち梨央。走って行くか」
潤也も速いが梨央には敵わない。
扉の前で腕組みして梨央が待っていた。
「行くぞ」
扉が開き、使用人が迎え入れてくれた。
「お待ちしておりました。緑郎様のお部屋へ御案内いたします」
クラシカルなエレベーターに乗り、最上階へ。
「ホテルか。ここは……」 梨央は顔をしかめた。
フカフカの絨毯を敷き詰めた長い廊下を歩き、
一番奥の部屋へ案内された。
「ただ今、こちらへいらっしゃいますので」
「ここが緑郎の部屋か?」
「いえ、この階が全て緑郎様のお部屋でございます」
「聞いたオレがバカだったぜ!」
潤也は「案内してくれてありがとう!緑郎ごめんね、遅くなって」と入っていった。