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007・領主様の憂鬱

最近、突然現れた冒険者に頭を悩ませている。

ただでさえ不慣れな領地運営。執事のヨーデエルはよく私をフォローしてくれている。

もっと信頼厚い部下が欲しい。いや、信頼の厚い部下は居るのだが領地運営の方で役に立つものが現状彼だけだ。

正直、周りは敵だらけだ。貴族と言うものは本当に回りくどい嫌がらせが多い。

あの手この手で貶め手絡め手と取り込みに来るやからと本当に溜まったものではない。

しかし、先達の冒険者達の方が問題であった。


あのエンシェントレジェンドを撃退した私たち全員でかかっても数秒しか持たない程強力な奴が我が領地に現れた。

幸い、馬鹿で平和的思考の持ち主であるが、抜けているため何をしでかすかわからない。

やっと、新しくできた方のダンジョンの件が落ち着いたというところなのに。

だが、前向きに考えるとしよう。

同時に来ていたら私は対応しきれてもストレスが爆発していただろう。


あの馬鹿者の面倒事はこれからも増えそうだ。

馬鹿とはさみは使いようとは言うがあまりにも危険だ。

だが、あの圧倒的な戦力をみすみす他に渡すのはあまりにも危険だ。

何よりあれが馬鹿者だからだ。何も気づかずに利用されるに違いない。

ならば、目の届く範囲においておくべきだろう。

そう思いあの馬鹿者の願いを片っ端から受け入れた。

思ったほど要求が多くなかったのは良かったが、手続きはとてつもなく苦労させられた。

特に商人ギルドからは抗議文まで送られてきた。

最後には私が半分キれて黙らせてしまった。反省しなければならない。

商人ギルドのマスターには悪い事をした。もう、彼の頭頂部は絶望的だろう。

ヨウに頼んで育毛剤でも贈ろうか。

とまぁ、何とか黙らせることには成功してひと段落と思った矢先である。


ミーヤから唐突な面会依頼が入ってきた。

当然、他の者の面会依頼なら数日準備の為に時間を取るが彼女の面会は問答無用で通す。

何かあったらすぐに報告するように厳命しておいたからだ。

はっきり言って憂鬱だ。

今度は何が起きたのだ。冒険者として育てたミーヤが唐突に面会を入れるほどなのだからよっぽどなのだろう。

しかし、彼女はどうしてあんな自堕落になってしまったのだ。

どこで育て方を間違えたのだろうか。私が領主になってから程無くして自ら冒険者パーティーを作って活動していたがなぜか解散し、遊び歩いて借金作って犯罪奴隷落ちとは。まったく悩ましい。


話がそれてしまった。

それで確か彼女達は新しい方のダンジョン『炎の妖精ダンジョン』に昨日出発したはず。

初心者なら当日に帰ることはよくあるが、ミーヤが付いていれば数日かけて潜っても不思議はない。

ならば、ダンジョン内で何か起きたのか。

スタンピードか?いや、冒険者ギルドにはそう言った情報は上がっていない。

それなら冒険者ギルドに報告するはず。それをミーヤが間違うはずがない。

ならばなんだ。

ユニークモンスターの発生か……いやそれなら奴らなら大抵倒せる。むしろやつに倒せなければ他に倒せるものがいない。

そもそもあのダンジョンならそんな事はまず起こらないはず。


ふむ。これ以上は私の想像力の限界だ。

大きな問題ではない事を願っておこう。

そうでなければ私が過労死してしまう。

さて、ミーヤ達が屋敷に到着したようだ。本来ならば応接間に通すがあ奴ら私の執務室でよかろう。

私も暇ではないのだ。普通の領地経営をしなくてはならないのだ。

何かあった時にすぐに動けるようヨーデエルもこちらに来ている。


メイドに連れられミーヤ達がやってきた。

私が融通したメンバーから一人増えて4人で入室してきた。

まだ仮パーティーかもしれないが、こちらの世界に順応してきているようで少しばかり肩の荷が降りる気持ちだ。

それに加え貴族らしいめんどうな挨拶がない分、気楽に話せる。

内容がどういったものかわからない分は貴族相手にするより心臓に悪いが。


「さて、今日は何をやらかした」

単刀直入に切り込んでいく。

「説明が難しいのでまずは彼女をステータス鑑定で見て頂けるでしょうか」

先日ミーヤと共にヨウの奴隷になった確かハイダークエルフのライラだったかが答えた。

他の者に比べ礼節を持った人物のようで非常に好感を持てる。

ライラの言う通り彼女のステータスを見てみることにする。


名前:ホロ

種族:ブレイズスピリットノイド

使役者:ヨウ

Lv.31

HP:60030/60030


そこまで私は見てそれ以上見たくなくなった。

思わず天を仰ぎ見てしまう。ヨウ程ではないにしろまた、災害級が目の前に増えた。

「あぁー見たくないものを見てしまった。HPまでしか私は視る気が起きなかったが、何をしでかした」

「完結に述べますと、ご主人様がダンジョン内で作ったゴーレムに大妖精が憑依してそのゴーレムとご主人様が契約しました」

意味不明すぎる。なぜダンジョン内でゴーレムを作る!?大妖精だと!?あのダンジョンに何故いる……

「はぁ……詳細を聞こうか。それと何故貴様ら2人がいてこうなった」

「はい。説明させていただきます」


説明を受けた。

転移のスクロールによってパーティー分断からゴーレム作成。

大妖精が出現し作成したゴーレムに憑依して襲われるさなかに合流し、契約することで大人しくさせたと。

「まずは、パーティー分断を受けながらも無事であったことを心から嬉しく思う。そして、先ほど責めた事は詫びよう」

「いえ、ありがとうございます」

「それで契約した大妖精が貴様か」

「な、なんなのよー!吸血鬼のくせにーなのよー」

ホロがシャドーボクシングを行いつつ威嚇してくる。

「……ヨウ、この大馬鹿を……面倒みられるのか」

本当に頭が痛い。正直今この瞬間消してしまいたいほどに殺意がわいた。

「ホロ。大人しくして。とりあえず、冒険者兼店の警備要員として様子見ようと思う」

「……わかった。ただし、何か問題を起こしたらそいつはすぐに処す。それから私の種族を言わないように教育しておけ」

「ホロ。わかった?処されるよ?」

ヨウの対応が適当過ぎるが、【契約】魔法で縛っているならそれでも効力があるのであきらめる。

ホロの方はコクコクと頷いている。

一応、力の差は理解しているようだ。そしてヨウが味方でないとわかると一気に弱気になっている。

「他に報告はあるか?無ければ仕事があるので終わりたいのだが」

「さっきも言ったけど、ホロを冒険者登録してもいい?」

「あぁ構わない。種族は誤魔化しておけ。あと、さっきも言ったが問題を起こしたら即座に処す」

最後は語尾に殺意を込めホロの方に飛ばしておく。

「ありがとう」

ヨウはどこ吹く風で普通に答える。

ミーヤは苦笑いで落ち着いているが、ライラは若干怯えている。悪い事をした。

だがホロがすべて悪い。

過去最大の瞬間風速で殺意が怒髪天だったから仕方ない。

しかし、あの大馬鹿の言動は気を付けねばならない。

次からは確実な人払いも必要だ。盗聴防止の魔道具はこの部屋なら必要ないだろう。

防音と盗聴防止共に万全なのだ。

そして4人は退出していった。


「アーリマイン様。念のためにホロ様に盗聴器を付けておきました。ホロ様以外には伝えておきました」

「ご苦労。恐らく何かしら問題は起こすだろうが、これで早く対応出来るだろう」

「左様でございますね」

綺麗ごとから荒事まで完璧にこなすよくできた執事だ。

本当に彼がいなければこの領地は回らないだろう。彼を付けてくれた閣下には感謝しかない。

しかし、拍子抜けした。

あの馬鹿者たちの事だ。もっと吹き飛んだものを持ち込んでくると思ったのだが。

まぁ大事では……あるな。大妖精と契約したものが現れたのだ。

そもそも、この馬鹿者達の事を隠すことは無理だろう。

いい加減現実逃避をやめて国王に報告するとしよう。

いっそ中立国として独立を本気で考えようか。


正直、悪い話ではないのだ。

冒険者上がりの騎士は思いのほか忠誠心が熱く熱心に仕事をしている。

商人達ともよい関係が築けている。ダンジョン資源がある限りこの町は安泰である。

その資源調達をする冒険者も国の政策によるダンジョン資源買い取りに税をかける事に反対している。

現に私は元、いや現役冒険者として反対して税をかけないでいる。

そもそも、私をこの町という小さな領地を任せたくせに何の支援もしない国に搾り取られる理由もない。

それどころか、政策の邪魔ばかりして足を引っ張られている。

徐々に自分が危険な思考に陥りつつあることに気が付き大きく息を吐く。


まだまだ準備が必要だ。

仮に独立してもまだ戦力で劣る。簡単に抑えられることはないがじり貧になる。

ならばまだ待つべきだ。理性で軽率な考えを抑え込む。

あの愚かな貴族達や自分の事しか考えない国王を黙らせる力が必要なのだ。

時間はかかるがそれに見合う成果が得られるのだから耐えるのだ。

しかし、本当に私が耐えられるだろうか。今ですら相当に我慢している。

私は元々冒険者なのだ。知略より武力の方が得意なのだ。

故にこの領地なのだろうが。


今日の応接の予定は相当に狂ってしまってやる気が失われつつあるが、もう一つの問題児との応接がある。

こちらも貴族ではなく一応冒険者なので気楽と言えば気楽だが、毎度問題を持ってくる問題児であることには変わりない。

「アーリマイン様。ザサイトー様とリン様が到着致しました」

「わかった。応接間へ通してくれ」

「かしこまりました」

ヨーデエルと短いやり取りをし仕事にキリを付ける。

窓の外の空を見やると快晴で気持ちがいい。

「っふ。吸血鬼が太陽を好むか」

自嘲気味に笑うと立ち上がって応接間へと移動する。


応接間へ入ると青年と少女の2人が出迎えてきた。

領主と会うにもかかわらず青年の方は顔上半分を覆う黒いマスクをしていて茶髪。

少女の方も同じく茶髪でポニーテイルでつり目がちだが美少女と呼ぶには十分な容姿をしている。



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