005・ダンジョンは何が起こるかわからない
早速、5階層までやってきて今はアタックをかける前に
入口の小ホールで小休止を入れているところだ。
「ご主人、ここから先は少なからず罠が残っているので気を付けるにゃ。さっきの階までになかったものだと、
階層無視の落とし穴とかが危ないにゃ。ただでさえにゃー達はパーティーメンバーが少ないので致命的になりかねないのにゃ」
「そっか。じゃ一応予備の武器も渡しておくね」
私はアイテムバックから取り出すふりをして新しい短剣を作って付与する。
頑丈とHP/MP吸収、攻撃力10倍、そして魔力10倍。
魔力10倍を最後につけた瞬間から短剣がカタカタと震えだして不穏な動きをしたので思わず後ろに投げた。
壁に刺さると思われた短剣はその瞬間破裂してしまった。
ミーヤとライラにジト目で攻められる。
「何をしたのですか?ご主人様」
「いやぁ安全の為に頑丈とHP/MP吸収、攻撃力10倍と魔力10倍付けたらああなった」
「……普通の武器に1つ付与するだけでも相当難しいと聞きます。恐らく武器が強度限界を迎えたのでしょう」
「強化のし過ぎでも壊れるのかー……」
「そうですね。品質の良い装備、良い素材を使った装備は付与できる数が増えるとも言われています」
「そうなんだ」
また短剣を取り出すふりをして作って、今度は武器を鑑定してみる。
よく見ると、スキルの欄に空きという記載が3つある。
恐らく4つ目になる魔力10倍を入れようとしたから爆発したようだ。
なら最初の3つを付与しておく。その短剣をライラの予備として預ける。
同じく槍にも3点セットの付与したものをミーヤに渡す。
「最後にもう一度確認にゃ。このダンジョンは5階層からは罠が仕掛けられるようになるので注意にゃ。
あとこっちが重要にゃ、このダンジョンのユニークモンスターが5倍数階層毎にでるにゃ。この階層はティンダーバタフライにゃ。
ティンダーバタフライは要注意モンスターにゃ。まず出くわしたら壁際しゃがむにゃ。
問答無用で広範囲の炎魔法、ファイアーストームをぶっ放してくるにゃ。
何より攻撃は厳禁にゃ。理由は根性スキルで絶対に5秒間は死なないのにゃ。
その5秒間は発狂してファイアーストームを四方八方に乱射してくるのにゃ。
ご主人は耐えられるにゃろうけど、にゃー達が大怪我するから絶対に攻撃しちゃダメにゃ。
ドロップは10階層に出てくるファイヤーバタフライと同じ上にそっちは根性で耐えて来ないからご主人がいる以上無理する必要ないにゃ」
「わかった」
「予定通り正規ルートから外れた未探索エリアの地図を作成しつつ罠の見分け方を覚えましょう。
ご主人様は未探索エリア付近に入ってから戦闘に参加してください」
「ん。了解」
「それじゃ、いくにゃ」
広げていたマットやお茶をアイテムバックに放り込んで出発する。
ギルドに公開されている地図の範囲は殆どの罠は解除されていて特に今までの階層と変化はなかった。
特に正規ルートと言われる次の階層に向かう幾つかのルート周辺は特に平和だった。
ちなみに未探索エリアとはギルドが公開している地図に載っていない範囲の事を指す。
そこをマッピングし地図にしてギルドに渡す事で報酬がもらえる。
もちろん、地図の整合性が取れてからの支払いになる。
マッピングする能力が必要なうえにここは5階層なので正規ルートから離れた範囲の地図作製はリスクに見合わないと普通は考える。
だから5階層に留まるもの好きは殆どいないし、ましてやマッピング能力のある人をティンダーバタフライで危険に晒すのは、
多くのパーティーからして得策ではない。
その為、2時間も正規ルートから外れればほぼ完全に未探索エリアだ。
故に他人に会うこともないので周りに気にせず戦える。
「そろそろ未探索エリアに入ってしばらくたったからマッピングするのに小休止入れたいにゃ」
「了解。その間警戒してる」
小さめのルームの入口を警戒しつつ3人で交代で休憩する。
その間、ミーヤは来た道を地図に書き写していく。
私にはとても真似出来ない精度の地図がスラスラと書きあがっていく。
まぁ私はスキルのおかげで通った場所はオートマッピングされるので必要はないけど。
どうにかして簡単に地図を広げられないか考えてみる。
まず思い浮かんだのは、振動というかソナーによる探知。
自分の耳や感覚でやることは出来ないだろうけど、スキルに頼れば出来る気がする。
けど、振動がどの程度影響あるかわからない。ダンジョンとは言え見た目は洞窟だからそんな振動をさせて崩落などしたら危険だ。
などと考えていると、ミーヤのマッピングが終わったようでミーヤも休憩に入る。
「ご主人、なにをかんがえていたにゃ?」
「ん~?もっと楽に地図作れないかなーって考えてた」
「ご主人なら簡単にできそうにゃ。ん~にゃーの知る限りだと、精霊に聞いて地図作る精霊使いとか、
使い魔に先行させてそこから地図を作るやつがいたにゃ」
「精霊に使い魔かー」
「っまそんにゃ簡単にいかにゃい……にゃ……ご主人なら何とでもなりそうにゃ。あとでライラも交えてまじめに考えてみるのにゃ。
今はダンジョンに集中するのにゃ」
「そうだね」
「ミーヤも少しは休憩できましたか?」
ライラが周囲の警戒をしながらこちらに声をかけてくる。
「もうちょっと休みたいにゃ~」
「もう大丈夫そうですね。行きましょう」
ライラはこちらに来て片づけを始める。
それに合わせて私とミーヤも大人しく片づける。といってもアイテムバックにしまうだけなのですぐだ。
ここで出てくる罠とギミックの特徴や対処の方法をもう一度確認する。
危険度の低い罠しか今までなかったとはいえ全てがそうとは限らないし、他の階層やダンジョンで
へまをしない為にも心構えは大事なのだ。
「確認も出来たし出発にゃ」
ミーヤの掛け声にライラと2人で頷いて出発する。
その後、何匹かのモンスターを狩った。私が攻撃すればやっぱり一撃。
ミーヤやライラの攻撃では2~5発の攻撃を入れる必要がある。
先ほどの休憩の際に決めたことだが、結局私は敵の注意を引きつけて2人が攻撃して倒すスタイルになった。
複数のモンスターと同時に出会った場合は、ミーヤとライラは1体ずつもしくは2人で1体になるように、
私が注意を引きつける形で何となくパーティーとして成立している気がする。
この形にした理由はパーティー登録を行っていない為、2人は攻撃を与えないと経験値が入らないから。
冒険者ギルドのギルドメンバー同士であれば簡単にパーティー登録を出来るらしいが2人は、今は冒険者登録されていない。
私の能力で出来る気もするが、パーティー登録と言うのがいまいちわからないのでやっていない。
ミーヤとライラもわからないならやらない方がいいと言っていたのでここに落ち着いた。
地上に戻って落ち着いたら2人を冒険者登録しようとも話した。
更に進んで普通の通路でミーヤが立ち止まった。
「この壁怪しいにゃ」
そう言って壁をノックしてみたり耳を当ててみたりする。
「ご主人、この壁を壊すにゃ。お宝の匂いがするにゃ」
「わかった」
ミーヤが下がったのを確認してかっこつけて回し蹴りをしてみる。
ボゴーン
簡単に壁が壊れて人が通れるくらいの穴が開いた。
「ご主人、流石にゃ」
「ご主人様……」
「……中に宝箱があるよ?」
とりあえず話をそらして近づく。
「ちょっと待つにゃ。宝箱にもトラップがあるかもしれないからにゃーが開錠するにゃ」
そういうとミーヤは私とライラに宝箱から距離を取らせる。
ミーヤは宝箱の前でごそごそして、しばらくするとぱかっと宝箱が開いた。
「多分、魔法のスクロールにゃ。鑑定してみにゃいと何のスクロールかわからないにゃ」
「鑑定スキル持ちがパーティーに居ない場合は地上に出て換金所で見てもらって売るか売らないか決めたりしますね。
でも、ご主人様なら恐らく視られるのではないでしょうか?」
言われてそんな気がするので「アイテム鑑定」をしてみる。
【転送のスクロール】
効果:ダンジョン内で使用すると5層深く移動する
「なんか5層深くに転送するスクロールみたい」
「んー初めて聞いたにゃ」
「私もです」
「マイン達と冒険してる時にも見にゃかったからかなりレアかもしれないにゃ。売るか売らないかは……」
「売るかどうかは今は考えていても仕方ない事です。ダンジョン探索の続きをしましょう」
そう言って3人で頷いた直後、ミーヤが宝部屋の入口を警戒しだしこちらに静かにのジェスチャーをする。
「モンスターの気配が近づいてるにゃ」
言われて自分の脳内マップに注意を向けると確かに不規則な動きをしながら通路を通るモンスターがいる。
丁度、宝部屋の入口に差し掛かったところでそのモンスターがこちらを向いた。
「ティンダーバタフライにゃ!」
ミーヤが叫ぶ。
私は自分のマップに気を取られて反応が遅れてしまった。
ミーヤとライラは既に右側に飛び始めている。
目の前には炎だ。これがきっとファイヤーストーム。
私もステータスが高いお陰でギリギリで左側に躱す。
数秒間炎の嵐が目の前を燃やし続けた。
炎が収まった時に入口を見るともうティンダーバタフライはいなくなっていた。
「ご主人、大丈夫かにゃ?」
ミーヤが反対側で立ち上がりながら声をかけてくる。
「大丈夫」
そう答えて立ち上がる。
と、その時青白く自分の周りが光り始めた。
見渡すとさっきのスクロールが広がって光っている。
あ、やばい。
つぎの瞬間、目の前は真っ白になった。
「「ご主人」様!」
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「「ご主人」様!」
きっとライラも叫んだのにゃ。
ライラの手をつかみすぐさまスクロールによって起動した魔法陣に飛び込む。
目の前が真っ白になる。
転送の魔法陣は大体こうなるにゃ。
目が慣れてきてあたりが見えるようになる。
とっさに掴んだライラがミーヤの左側にいる。
が、先に飛んでしまったヨウの姿が見えない。
「い、今のは?!」
ライラの声は焦りを孕んでいる。
「転送のスクロールが起動してしまったようにゃ」
「ご主人様はどこでしょう?!」
「落ち着くにゃ」
「ご主人様が一人になってしまわれました!急いで探さないと!」
「だーかーらー落ち着くにゃ。ご主人はまずとてつもなく強いから大丈夫にゃ!」
「し、しかし」
今にも走り出しそうなライラを掴んでいる手で引き寄せて更に言う。
「それより、にゃー達の方がよっぽど危険にゃ、とっさに一緒に転移しようと思って転送陣に入ったはいいにゃけど、
ご主人と別の場所に飛ばされた見たいにゃ。その上、スクロールの効果がご主人の言う通りならここは10階層にゃ。
にゃー達2人でお気楽に歩ける場所じゃにゃーのにゃ。だから落ち着くのにゃ」
「もしもの事があったら……」
「全く……最悪の事態は避けられてるからもっと安心するのにゃ」
「今の状態が最悪ではないのですか?」
「そうにゃ。最悪はにゃーとおみゃーが分断される事だったにゃ。無理に転移陣に乗ったからそういう可能性があったにゃ。
それどころか、転移に失敗して壁の中とか、体が半分になっていたかもしれないのにゃ」
「そんな可能性が……」
「だからまずは良かったのにゃ」
少しの間をおいてライラは深く深呼吸してから、
「落ち着きました。これからどうしましょう」
「思いつく目標を適当に言ってくにゃ。にゃー達の脱出」
「なっ!ご主人様をほおっておくのですか?!」
「違うのにゃ。ご主人は何でもありだからいくらでも生き延びられるにゃ。でも脱出できるかは別にゃ。
だから、地上に出て救助の要請を出して手伝ってもらうのにゃ」
「なるほど……」
「脱出する為に、現在地の把握が必要にゃ。どれくらいかかるかわからにゃい位から休む場所も必要にゃ。
食料の把握も必要にゃ。そこからにゃー達でご主人を探していられる日数を計算するのにゃ」
「わかりました」
「何はともあれ、落ち着く場所を探すにゃ。大丈夫にゃ!にゃーはこのダンジョンの15階層までのギルドの地図なら殆ど網羅してるのにゃ。
10階層にゃらその気になれば1日もあれば地上に帰れるから安心するのにゃ」
「ミーヤがこんなに頼りがいがあるとは意外です……」
「失礼な奴にゃ。まぁダンジョン以外はからきしなのにゃ~。だからそっちは任せるにゃ」
「ふふふ。わかりました。ご主人様を頑張って支えましょう」
「そのいきにゃ。まずは10階層であることを確認するためにファイアーバタフライの有無かにゃ。
他のモンスターは別階層でも出るにゃ。あとファイアーバタフライの巡回ルートはある程度決まってるから現在地を特定しやすいのにゃ」
そう言って慎重に探索を始める、ミーヤとライラだった。
程無くして、地響きと爆発音がダンジョンを揺らす。
「……ご主人な気がするにゃ」
「……えぇ私もそう思います」
「しかも結構近くな感じにゃ」
急いで音源の方へと走り出す。
何とか音源に近づこうと走り回るが一向に近づけない。
それどころか地響きも音も収まってしばらく経ち、手掛かりがなくなってしまった。
モンスターを倒しながらダンジョン内を駆け抜けていく。
「次の角、左に敵の気配にゃ!気を付けるのにゃ」
「わかりました」
ミーヤが先行して角を曲がる。が直ぐにライラをかばう様に後ろに飛び込む。
直後、炎の嵐が吹き荒れる。
「一瞬しか見えにゃかったけどファイヤーバタフライにゃ。10階層確定にゃ!」
急いでライラを起こしながらミーヤも立ち上がり角でファイヤーバタフライが来るのを待ち構える。
角に来た瞬間、ミーヤが槍で突く。同時にライラが発射待機状態にしていたアクアスパイクを放つ。
ファイヤーバタフライは壁の角にぶつかり青白い光になって消えぽとりと魔石が落ちる。
「根性スキルもないのでファイヤーバタフライで間違いなさそうですね」
「そうにゃ。丁度手掛かりも無くなったから一旦落ち着こうかにゃ」
そう言って、ミーヤは来た道を視る。
「焦りすぎていたのにゃ。ここはダンジョンであってただの洞窟じゃにゃーのにゃ」
「当たり前のことですがいきなりどうしたんですか?」
「普通の手掛かりがにゃいにゃらダンジョン特有のものを探すのにゃ」
「どういう意味ですか?」
「簡単にゃ、隠し部屋にゃ!」
そう言って感覚を研ぎ澄まし壁や天井、床まで意識して歩き始める。
怪しいところは、片っ端から探索していく。
「意外とこうやって歩くと見落としが見つかるんですね」
「そうにゃ。本当に焦りすぎていたのにゃ。それよりご主人のくれたアイテムバックは超高性能にゃ」
「そうですね……本当に便利すぎて盗難に注意しなくてはいけないですね」
隠し部屋や隠された宝箱をいくつか見つけたころで気が付く。
そこは転送されて位置のすぐ近くだった。
「ここにもあるのにゃ、少し離れるのにゃ」
ライラに距離を取ってもらい、ミーヤが槍で壁を連続で突く。
突いた跡が楕円形になっていきほぼ完成したところでミーヤが中心に蹴りを入れると、
バーン
壁が倒れ中に入れるようになった。
警戒しつつ2人で中を覗くと、
全 裸 の 美 女 に 馬 乗 り されたヨウの姿がそこにあった。
「「ご主人!?」様!?」
「あ、いやこれは……」