002・領主館で訓練
「お……さ……ん、…………す、お客さんってばー」
朝、体がゆっさゆっさ揺らされて目が覚め始める。
「おきゃくさーん、今起きないと昨日言ってた訓練に遅れますよ!」
あぁそう。起きなきゃ。
「あぁー髪の毛ぼさぼさじゃないですかーサービスで手伝ってあげますから早く支度しましょ!」
そういって私の髪をとかし始めるのは、この宿「毎日の朝」の店主の娘、アリベル。ちなみに昨日の受付のお姉さんの姉。
昨日、メリベルの紹介で来たと伝えたらとても親身になって状況を聞いてきて晩御飯もかなりお安くしてくれた上にモーニングコールをしに来てくれた。
駆け出し冒険者にもお優しい値段だったので、ベッドにはあまり期待してなかったがまぁこの世界では及第点。
元の世界のお布団を知っているだけに自分だけの部屋ないし、家を手に入れて私の力でお布団を出すことは急務である。
っと、心に決めていると私の身支度が整った。もはや殆どやってもらったようなものだ。
ほかにもポケーっと考えながら硬いパンをスープにつけてほぐしながらサクっと完食。
朝のフワッとした空気を吸いながら領主館に向かった。
領主館の前には門番が立っており合同訓練に参加することを伝えると驚かれたがギルドカードの受注記録を見せると、疑いつつも納得し入場を許可された。
しかし、まだ訓練の準備が終わっていないので邪魔にならないように端っこで待機しておくように言われた。
暇なのでアイテムバックから出したことにしてバックから座る為のシートを取り出し座って待つことにした。
準備は大したものではなく、訓練用と思われる刃を潰して殺傷力を抑えた剣や簡素な人形や的などを並べているだけだ。
そんな準備風景を眺めていたがいつのまにか騒がしくなって、訓練に参加する冒険者たちが集まっていた。
探知スキルで確認すると9人のようだ。私を合わせて10人。
騎士団の方はすでに30人ほどが整列して待っている。慌てて冒険者たちのいるあたりに集まると待っていたように騎士団の前に立っていた人物が話し始める。
「アーリマイン領の騎士団長のアレクセイだ。今日は冒険者の人数が少ないので隊列などの練習はせずに、1対1の模擬戦形式を行う事にする。
騎士団、冒険者それぞれお互いの技術を吸収するように努めてくれ」
そういうと、私以外は慣れているのかサクサクと2人一組が出来上がっていく。
よくわからないうちに私も知らない騎士とペアになって他の組と同じように訓練用の剣を箱から借りて距離を取る。
鎧のせいでよくわからないが、声からして比較的華奢な体系の相手と思われる。
お互いに礼をして模擬戦が始まった。
相手は私の見た目に惑わされていたのか、最初は今一つキレのない攻撃をしてきたが私がひたすら躱していると徐々に力の入った攻撃になった。
最終的には力が入りすぎて隙だらけな攻撃になったので後ろに回って剣で叩いたら気絶してしまった。
一瞬、殺してしまったかと思ってステータスを確認したがHPはさほど減っていなかったので安心した。
「ふむ、ステータスに頼り切った回避だが、その分鍛えがいがありそうだ。君は確か初めてだったか」
そういうと騎士団長のアレクセイは救護兵を手配して私に近づいてきた。
「かなりステータスが高いようだが無駄が多い。ほかの者では相手にならないだろうから私が相手をしよう。構わないか?」
そういうとアレクセイは剣を構えている。
有無を言わせない雰囲気を出しているので私も剣を構える。
合わせてすぐにアレクセイが剣に剣を当てに来た。多分、自分の剣速を見せるためだろう。
衝撃が来るのが嫌だったので剣を引いて空振りさせた。
アレクセイの顔にしわが寄った。意表を突いたはずの剣撃がスかされたからだろう。
若干の隙を見せたもののすぐに剣を構えなおす。
「思っていた以上にやるようだ。楽しめそうだな、名を教えてくれ」
完全にバトルジャンキーなセリフを吐きながらニィっと頬をあげるアレクセイにめんどくささを感じつつ名乗る。
そこからは先ほどの一般兵さんとは比較にならない剣撃の嵐な上、隙も殆ど無いように見える。
普通の人にとっては。
私は普通ではない。いつの間にか私とアレクセイを囲むように人だかりになっていた。
攻め続けるアレクセイ。ひたすら躱す私。
剣と剣がぶつかる音はただの一度も起こらず、剣を振るう音と息を吐く音、土を踏みこむ音しかしない。
みんな息をのんでその殺陣に見とれている。
わぁいつの間にか他の人たち模擬戦辞めてるなー。と考えていたのがバレたようで、アレクセイが
「戦闘中に考え事とは私も舐められたものだ」
と、つぶやき更に剣速があがった。
そんな時、領主館からはっきりと「視られる」ような感じに気を取られたのが悪かった。
アレクセイの攻撃を躱せずに剣ではじいた。
反射的に腕を振ったので、要するに強く振りすぎた。
アレクセイの剣を弾き飛ばすどころが本人も吹っ飛ばしてしまった。
ヤバイ。と思ったときにはアレクセイは数メートル吹き飛び、目を回していた。
しばらく間があったあと、観客と化したギャラリーはおぉぉお!と盛り上がる。
「騎士団長がやられたぞ!」「あいつは誰だ」「初めて見るぞ」「衛生兵-!」「俺、彼女が昨日冒険者登録しに来たの見たぜ」
「まじか?」「他所で実は有名なんじゃ」「あの見た目なら絶対噂になってるだろ」「というか団長ってすげぇ強くなかったか?」
「確かLv.50を超えてるはず」「模擬戦で気絶させるとか…」「ロリ巨乳最高!」
などと、ざわついている。完全にやらかしたと内心慌てていると、
領主館の両開きの玄関扉が「バーン!」と音を立てて開いた。
そこには赤い軍服の様なドレスを着た美女が現れた。
彼女はスコスコとこちらに歩いてくる。観客と化したギャラリーはすぐに横にどいて道を開ける。
「貴様、私とも手合わせを願いたい」
そういうと近くの兵士から模擬剣をひったくるようにもらい受けすぐさま剣を軽く振るう。
明らかにさっきまでとは格が違う。なんというかオーラが出ている。
文字通り赤いオーラが出ている
「皆、もっと離れてよく見ておけ」
一向に離れないギャラリーに「早くしろ!」と一喝すると全員が全力で離れる。
十分距離を取ったと判断したのか改めて剣を構えた。
「行くぞ」
一声直後には剣が目の前にあり、驚きつつも剣を当てることで対応する。
これが初めて私が今日、剣をぶつけ合う瞬間だ。
そのまま鍔迫り合いになると彼女が露骨に顔を近づけてきて、
「貴様、ステータス隠蔽持ちだろ?何が目的だ。そのステータスであの動きはいくら何でも頭がおかしいとしか思えない」
と、小声で話しかけてきた。挙句罵声まで飛んできた。
答えに困っていると、「ならば体に聞くまでだ」とかなり殺意に溢れてた言動になった。
鍔迫り合いから弾かれて距離を取ると今度は先ほどとはまた格別に早い剣撃が来た。
多くのギャラリーは多分、目で追う事すら困難なレベルだと思う。
だが、私は相変わらずびっくりするくらいで反応できる速度だったのがいけなかった。
ッガ
私の剣が折れ、彼女は剣を手放してしまった。
しかし彼女はそのまま臨戦態勢のままだ。
とりあえず、私は両手をあげて残った剣の柄を横に放る。
それでも臨戦態勢を解いてくれないので、彼女にだけ聞こえる声で「内緒にしてくれるなら話すんで」と言うと、
しばらくしたのちに、「私自身でどうにかなるものではないし仕方あるまい」と言って警戒を解いてくれた。
幸いギャラリーはとても離れていたのでこの会話は聞こえないだろう。
直後、彼女はニコリと笑顔になり、
「素晴らしいな!少し話を聞かせてくれ!」
大声でそういうと私を館の中に誘ってきた。
大人しくついていくことにする。
最後に、彼女は残ったギャラリーに今日の訓練は終了の旨と箝口令を強いた。
場所は変わって応接室。
お茶を入れてくれたメイドさんはすでに退室している。それどころが執事さんや護衛まで外に追い出して完全に二人きりだ。
彼女は、机の上に二つの魔道具を置いて起動した。
一つは盗聴防止。もう一つはうそ発見器と思われる。
「さて、単刀直入に行こう。貴様の目的はなんだ」
「とりあえず、冒険者になって自分でお金を稼いだりお店開いたりいい感じに楽に暮らす事が目的」
一拍子おいてうそ発見器を見やる。
「……貴様は私の領地に害をもたらすのか?」
「多分、しないと思う」
「……貴様は馬鹿なのか?」
「多分、馬鹿じゃない」
チーン
うそ発見器が初めて反応した。失礼な機械だ。
彼女が盛大なため息をつく。
「…………貴様が馬鹿者なのはよくわかった。一先ず、自己紹介をしよう。
私はこのアーリマイン領の領主、アーリマイン・スカーレットだ」
「ノギヒ・ヨウ。ヨウが名前。昨日冒険者登録したばっかり」
「貴様は、ステータス偽造を行えるようだが解除して見せてもらえるか?」
「え?あ、はい」
偽造を解除してすぐにまた「視られてる」感覚が来た。ぞわりとする。
恐らくアレクセイと模擬戦をしている時にも視られたのだろう。
アーリマインは、目をこすりもう一度見たようだ。またぞわりとする。
2度3度と繰り返される。
暇なので私も彼女のステータスを見てみる。
が、ノイズの様なもので見にくいので「正確」に見ようとしてみた。
名前:アーリマイン スカーレット
種族:人族[正:吸血鬼・真祖]
Lv.90[正:451]
HP:3200/3200[正:160000/160000]
MP:2011[正:105110]
途中で面倒になったので基礎ステータスだけ見た。
覗いた直後からアーリマインの目つきが鋭い。
「貴様、ステータス鑑定の上位スキル持ちか?」
「いや、スキルはないけど見れる」
うそ発見器は反応しない。
「…貴様の存在がどうかしているな。…私の種族は視たか?答えろ」
「吸血鬼の真祖」
「もう何も言うまい。貴様のこのステータスが本物ならば私は何をしても貴様に太刀打ちできない。
貴様に、害意がない事が救いか」
「私は普通に暮らせれば何もしない」
「そのステータスがあったらとても普通にはならない。常識を考えろ。貴様は本当に何者なんだ」
「んー普通の人?」
チーン
「……普通に暮らしたい人?」
今度はならない。
「……貴様は本当に人なのか?」
「人だよ」
反応はない。
アーリマインは頭を抱えて下を向いてしまった。
しばらくたって、そろそろ声をかけようとしたところ、
「あぁもう分かった!貴様を領主と直接契約を結ぶ冒険者とする。拒否はさせん」
「え、めんどうそうだからやだ」
「馬鹿者。面倒を避ける為に結ぶのだ。あとこれから私のことはマインと呼べ。私の友と名乗っておけば色々が都合がつく。
さて、説明しなければわからないようだから言ってやる。
まず、箝口令を敷いたが私に勝ったことは冒険者ギルド内で噂になることは間違いない。どうやっても止められん。
そうなると、スカウトや怪しい奴に目を付けられることは間違いない。
だから私の知り合いをお前の冒険者パーティーに入れてもらう。そいつに常識を教われ。
あと、この町で暮らすなら貴様の要望があった店舗兼用の家を提供する。住民税も免除にしよう。
売上などはどんな店なのか聞いてからにするが、やはり貴様一人に任せるのはあまりに不安だから私から一人は人選したやつをつける。
今私に出来る譲歩はこれだけだな。どうだ、これでも不満か?不満でももう何も出せんぞ。
最後に私の種族をばらさない事。色々面倒になる」
とてつもない好条件なのは間違いないので頷いた。
「多分だけど、マインに勝ったことはなかったことに出来ると思うよ」
ふと思いついたので時間を戻せるんじゃないかと言ってみた。
すると、マインはこめかみを抑え眉をぴくつかせながら、
「提案ありがとう。だが止めておけ、超越者に目を付けられて面倒になるぞ」
「超越者?」
「これだけのステータスを持っていて知らんのか?一言で言ってしまえば神様のようなものだ」
もう、説明も投げやり気味だ。
「さて、他に不満が無ければ貴様に丁度いい人物のところへ行こうと思うがいいか?」
「大丈夫」
2つの魔道具を停止して、執事を呼び入れて何やら指示していく。
私はお茶のお替りをメイドさんに頂いてみているだけだ。
その後はここまで何をして来たか簡単に話した。
マインはこの話でも頭を抱えてしまった。