ヨハネの周遊
空いた枢機卿の席を巡り、正教会だけでなく、各国首脳を巻き込み数人の候補者が立てられた。
その中には、大司教になったばかりのヨハネ・ソレイユの名があった。
地方の神父から大司教になるのも異例の出世であるが、枢機卿になるには大司教の経験も足りなく、年齢も若すぎる。
だが、キルフェ王国の後ろ盾と、地方での噂からついた人気はキルフェ王国の王都で人々の信望となり、たくさんの国から招請が来ている。
キルフェ王家の寄進により、ヨハネが周遊する時は王族並みの準備がされるようになった。
そして、芥子畑のある教会を焼尽した時に、ヨハネの治癒術に感銘した二人の軍人が寄り添うようになった。常にヨハネを守る騎士として側にいる。
「ソレイユ大司教、ムクレヘルム王宮に着きました」
馬車の外から声がかかる。
「ありがとう、ピーター、レイバン」
馬車からヨハネが降りると、ヨハネに名を呼ばれたピーター・シュニフテフ、レイバン・テンペラの二人の騎士が付き添う。
ヨハネは要請のあった各国を歴訪して、各国教会でミサを行っている。
ムクレヘルム王国ではヨハネの希望で、ムクレヘルム王コーレッジに拝謁することになっていた。
ベルンストから、ムクレヘルムの事件を聞いていたので、その後の処理も聞きたいと申し入れたのだ。
王の謁見室にはすでにムクレヘルム王が待っており、ヨハネを見ると驚いたように目を見張った。
ベルンストの顔を知っているムクレヘルム王が、ヨハネとベルンストを重ねて見ているのは明白であった。
「ムクレヘルム王国では、ユークレナ結社の力が強い地域でもありました。
出来ればユークレナ結社の信徒を正教会に戻したいと思い、ミサを行いました」
ヨハネは正午にしたミサを持ち出して、ムクレヘルム王の反応を誘う。
「私も聞かせてもらったが、素晴らしい話であった」
そう答えたムクレヘルム王は、叔父にあたる公爵家の処分と関連する貴族家の処分を話した。
そして、亡き公爵がユークレナ結社の宗主であったが、今は別の者が継いでいると調べられた報告書を見せた。
「メリーアンジュ姫の為にも、我が国は貴殿を支援させていただく。
どうか、迷う人々の心の支えとなるような正教会にして欲しい。大司教殿ならば、人々の光となることが出来ると思える。
我が国は協調関係を持つのはもちろんだが、国民の信仰する正教会の主として望んでいる」
ムクレヘルムの言葉は、枢機卿どころか、教皇になれと言っているのだ。
「私には過ぎたる言葉です。
だが、ユークレナ結社と正教会内の浄化のためには必要なことと思っています。
キルフェ王国の大司教としてではなく、正教会の大司教として見ていただきたい」
阿片のことも、ユークレナ結社のことも、消滅させるには力がいる。
ムクレヘルム王国を出た後、他にも2国を周り、それぞれの中央教会でミサをしたが、熱烈に歓迎され、正教会の顔と成りつつあった。
半月に渡る他国周遊を終えたヨハネは、キルフェ王国の中央教会の奥深くを歩いていた。
廊下の奥にたたずむ人物に気が付くと、眉を寄せた。
それは、神学校時代にヨハネに嫌がらせをしていた男であった。
貴族の息子である彼は卒業後、司教として王都に残った。
それが、今はヨハネが大司教となり、立場が逆転した。
「その奇麗な顔で、どんな権力者に尻尾を振ったんだ?」
彼の言葉を受けて、ピーターがヨハネの前に立つ。
ヨハネにとって神学校時代は、楽しい所ではなかった。
母を自分の魔力の暴発で亡くした事の懺悔と、それを贖罪する為の魔術と勉学の場であった。
貴族の子弟達は、魔力の高いヨハネを侮蔑することで憂さ晴らしをするような人間が多かった。
ヨハネの魔力を恐れているくせに、平民が自分より有能なのは認めないから裏で手をまわし、ヨハネを陥れる事を楽しむような輩も多くいた。
そのうちの一人が目の前に立っていた。




