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性格の悪いお嬢様  作者: violet
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魔王降臨

ドッゴーン!!

部屋の天井に穴があき、外の光が差し込んだ。


舞い上がる埃の中に現れたのは、台座に立つアーレンゼル、ロイ、ベルンスト。

3人が目にしたのは、血に染まったドレスで髪を掴まれているメリーアンジュ。


次の瞬間には、メリーアンジュの髪を掴んでいた腕が床に転がった。

男が斬られた腕を押さえて(うずくま)っている。

「貴様、アンジュに何をしたーー!!」

憤怒の表情で、その男の顔を踏みつけるのは剣を手にしているベルンストだ。

台座から飛び降りたまま、メリーアンジュの髪を掴む腕を斬り落とした。

ベルンストの魔力が込められた剣は一瞬で斬り落とした為、メリーアンジュへの衝撃は少なく、更に引っ張っられることはなかった。髪を握っていた手が斬り落ち、緩むと手のひらから髪が滑るように抜けた。


アーレンゼルがメリーアンジュに駆け寄り抱き起こすと、ケガを確認している。

ドレスに付いた血が、メリーアンジュのものでないとわかって吐息を吐いた。


ロイは、他の男達を逃がすまいと男達の前に立ちふさがった。

「どういうことだ!」

ロイは、怒り心頭すぎて感情が抑えられないらしい。言葉と共に男達に斬りつける。


「ロイ、一人は生かしておくように。イロイロ聞かねばなりませんからね」

アーレンゼルがメリーアンジュを抱き上げてロイに言う。


外から大勢の気配がして、軍とみられる一団が突入してきた。

爆音と開いた穴と立ち上がる土煙。

気付かないはずがないが、軍が来るにしては早すぎる。

ここはどこなのだ?


突入した軍は、部屋の状態に唖然としている。

そこかしこに転がっているのは、こときれた若い女性達だ。喉と腹部を切り開かれている女性が多く、殺され方も尋常ではない。

部屋の中は目を覆うばかりの異常さだ。光にさらされた部屋は隠しておきたい全てのものを鮮明にさらけ出す。


床には大量の血が流れた跡。

血にまみれクシャクシャのドレスの女性は、乱れた髪、明らかに襲われたとわかるが、見る者が息をのむほどの美貌である。

自分達が追っていた男達を斬ったであろう3人の男。

「お前達は誰だ?」

軍の前に出て来た男性が、メリーアンジュを抱き上げているアーレンゼルに問う。


答えたのはアーレンゼルではない、メリーアンジュだ。

「貴方こそ何者ですか?

この男達の仲間ではなさそうですわね。助けに来るのが遅いですわ」

メリーアンジュの顔は、床に倒れている女性達に向けられる。

薄暗い中ではよくわからなかったが、光が入ると目をそむけたくなるような部屋の中である。

「この男達に生け贄にされ」

メリーアンジュが言葉を言いきる前に、ロイとベルンストが飛び出してきた。

「なんだと!

アンジュを生け贄にだと!?」

「ロイ、ベルンスト、落ち着いて。僕はここがどこかわかったよ」

アーレンゼルがメリーアンジュを降ろして、礼を取る。それを見たメリーアンジュもとりあえずカーテシーをする。

公爵令息の兄が礼をするのは、王族であろうと察せられるからだ。

「偶然だな、私もだ」

ベルンストは男性に対峙する。まるで、メリーアンジュを庇うように背中に隠す。


「突然の来訪で申し訳ない。

そこの台座に魔法陣がみえるだろう? それで連れ去られた令嬢を追ってここに来たのだ。

ムクレヘルム国王陛下。

私は、ベルンスト・シュレジ・キルフェ」

ベルンストの言葉にムクレヘルム国王と呼ばれた男は、わずかに眉をあげる。


ベルンスト・シュレジ・キルフェ、それは大国の王太子の名前だ。

王太子自身が最強の魔力の持ち主として知られている。


ムクレヘルム王は、軍を引き連れて建物に突入するタイミングを計っていたのだ。

だが、王太子達の出入りは見なかった。

爆音と共に建物に穴が開いたことで侵入してきたのだ。

「まさか、魔力で隣国から来たというのか?」

目はメリーアンジュを追って、ケガ人に礼は不要と手を出す。

メリーアンジュは自身の血ではないが血まみれで、ケガ人のようにしか見えない。


「結果的にはそうなるな。こんな距離を移動するとは思わなかった。」

それは隣国まで魔力で来たということだ。

「いままで移動する事は出来ても、短距離しかできなかった。我等も驚いている。

彼女の呼ぶ声で引き寄せられたのだ」

キルフェの王太子の魔力の大きさは諸外国にも知れ渡っている。

だが、これは尋常ではない。この距離を一瞬で移動できるなら、どんな防御も間に合わない。


引き寄せられた。


そもそも、メリーアンジュがこの男達に呼ばれたのだ。

男達は強力な魔力を持っている者はいないようである。だから、生け贄を用意したのだろうが、それだけではこの距離を呼び寄せられない。

「メリーアンジュだからか」

アーレンゼルの溢れた言葉に、ロイもベルンストも顔をあげる。


我々の力だけで移動したのではない、メリーアンジュが呼び寄せたのだ。


この男達の用意した魔方陣と、メリーアンジュのドレスについた生け贄の血が作用したことで、メリーアンジュの魔力を増強したのであろう。

生け贄など、迷信にすぎないが極度の緊張状態を演出することにはなるのだろう。

魔力の弱い娘のはずだったが、未知なる魔力があるのかもしれない。


「あれは、殺されそうで必死だったから」

メリーアンジュ自身が気がついたのだろう、顎をあげ決して逃げようとはしない姿。


「わかっている。

こんな事は二度とさせない」

怒りを抑えながら、ベルンストがメリーアンジュの横に立つ。

冷たい冷気のような魔力があふれでている。ベルンストの魔力に馴染んでいるメリーアンジュでさえ、身震いする程の怖さである。

ベルンストの強い瞳は、ムクレヘルム王を射ぬくようである。

少年王と言える歳のムクレヘルム王は、魔力にあてられ委縮するかのようだ。

キルフェ王国はムクレヘルム王国より格段に大国で、キルフェの王太子の態度はムクレヘルムの王よりでかい。


「ここにあるのは、儀式の祭壇だ。そして生け贄とされ惨殺された女性の遺体。

キルフェ王国の公爵令嬢が呼ばれて殺されかかった。

どういう事だろうね? ムクレヘルム陛下?」

ベルンストはムクレヘルム王に脅しをかけている。

「申し訳ない。この国が彼らを容認していないことは理解してほしい」

ムクレヘルム王はベルンストに屈するしかなかった。


ムクレヘルム軍が、男達を連行するが既に息のないものもいる。

生かして捕まえた者が自害しないように、厳重に縛り猿轡(さるぐつわ)をする。

「やはり、叔父上でしたか」

ムクレヘルム王が、誰にも聞かれないように呟いたのは、ベルンストに腕を切り落とされ、踏みつけられた虫の息の男に向けたものだ。


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