一夜明けて
「待ちくたびれてよ」
突然、目を開け身体を起こしたメリーアンジュに、3人は驚いたが、アーレンゼルにいたっては抱きつこうとさえして避けられた。
「お兄様、レディにありえない!」
真っ赤になってメリーアンジュが怒る。
「ごめん、ごめん、アンジュが起きているとは思ってなくて。
明日、会議の事は話すからベルンストの執務室に来て欲しい」
さすがにこれ以上、女性の寝室にいられないと思ったのだろう。
「おやすみなさいませ」
メリーアンジュが挨拶をすると3人がそれぞれに答える。
「おやすみ」
「ゆっくり寝ろよ」
「おやすみ」
パタンと扉が締まり、部屋番であろう侍女と警備兵に声をかけているのが聞こえる。
ベルンスト一人で来ると思っていたが、3人だった。
レディの寝室なのに、彼らにはいつまでも小さな妹なのだろうか?
チクンと胸が痛む。
兄は仕方ない。
ああいう人なのだから。
ロイとベルンスト、男性として気にした途端、ベルンストと婚約。
どうしてもベルンストのことばかり考えてしまう。
陛下が婚約と言ってから、ベルンストがあまり話していない。
兄の声ばかり聞いている気がする。
まずは寝よう。
ユークレナ結社のことも聞きたい。
もう、二度とあんな目に合いたくない。
あんなに眠れなかったのに、横になるとすぐに眠りに落ちた。
翌朝、メリーアンジュは昨日のように侍女、警備兵に守られて王太子執務室に向かった。
昨日、公爵夫人がドレスを届けてくれて、久しぶりに自分のドレスを着れるのが嬉しい。
魔術で突然拉致されたので、助けられても着替えなどなく、ムクレヘルム王の側妃のドレスを譲ってもらって着ていたのだ。
昨日の会議は、ユークレナ結社の事が中心であった。
200年前に慈善団体として結成されたらしいが、時代とともに活動は闇に潜っていった。
キルフェ王国では、存在はベールに包まれている。諜報機関の調査対象となってはいるものの、本拠地もメンバーも秘匿されている。
ムクレヘルム王国が、今回拠点を確定できたのも、前王の弟である公爵の動向を調べているうちにわかったものだ。
設立時の慈善団体からは違っているのはわかっていたが、想像以上の危険な魔術団体になっているのがわかった。
そして予想を上回る高度な魔術を使っている。生け贄を捧げたのが初めてであるなどとは思えない。
「メリーアンジュが呼び出された魔法陣の書かれた台座は、古代遺跡から発掘されたものだ」
ベルンストがムクレヘルム王国からの情報を、昨日の会議で報告したうちの一つだ。
古代遺跡からの埋蔵品ともなれば、厳重に管理されているはずだ。
ロイがベルンストの言葉の説明をする。
「僕たち3人もあの台座に現れた。それほどの大きさの台座だ、すぐにどこの遺跡の埋蔵品かわかるだろう。それよりも、問題なのは、それを手にれる程の力があるということだ。
ベルンストが斬ったムクレヘルムの公爵だけではないのだろう。巨額の資金があるとみてまちがいない」
みなまで言わなくともわかる。
メリーアンジュは静かに頷いた。
キルフェ王国にも密かに構成員となっている権力者がいる可能性が高い。
力を望んでユークレナ結社に入ったのならば、望んでいるのは玉座だろう。ムクレヘルムの時と同じように。
「私、絶対王宮から出ませんわ。
ここのグルグルに厳重な防護魔法と、護衛兵の傍から離れたくありません」
強い決意でベルンストを見るメリーアンジュ。