メリーアンジュの決意
少し休んだメリーアンジュは、護衛や侍女を引き連れて王宮内を歩いていた。
メリーアンジュは、侍女や護衛の名前を聞いて、覚えようとしているらしく、小さな声で繰り返している。
勝手知ったる王宮である。子供の頃から何度も来ている。
自分の身のためにも、外に出るのはためらわれたので、王宮内部にある軍事務室に向かう。
「メリーアンジュ・エリア・マドラスですわ」
事務室に入るなり、名を告げる。間違ってはいないが、順番がおかしい。
「生物生成の魔術が得意な魔剣士はいらっしゃるかしら?」
高飛車な物言いのメリーアンジュである。
『生物生成の魔術が得意な魔剣士はいらっしゃるかしら? メリーアンジュ・エリア・マドラスですわ』
順番が違うだけで、人の印象は大きく変わる。
それでなくとも、美人過ぎて近寄りがたい雰囲気を出しているメリーアンジュだ。
メリーアンジュの顔を知っている者も多く、事務官があわててソファーに案内する。
「マドラス公爵令嬢、こちらでお待ちください。
ただいま調べておりますので」
すぐに事務官が、メリーアンジュの元に戻ってきた。
「お待たせしました。軍の魔剣士には、生物生成よりも攻撃魔術が得意な者ばかりです。
生物生成の魔術者なら、王宮庭園を管理する管理事務室で
確認される方がいいと思われます」
尤もなことである。メリーアンジュも納得するしかない。
「すでに先触れを出してありますので、僕がご案内いたします」
返事より早くメリーアンジュが立ち上がる。
「貴方、お名前は?」
メリーアンジュも、対応が気に入ったのだろう。フワリ、と微笑むと事務官の顔が真っ赤になる。
「じ、自分はアッシャー・トンプソンであります」
様子を見ていた侍女は、メリーアンジュ様、笑顔の使い方が間違ってます。王太子殿下の苦労がわかります、と思うばかりだ。
「セリナ、お兄様達は会議中でしょうが、誰かに私が管理事務室にいることを伝えさせて。行方不明と心配させるといけないので」
メリーアンジュは、先ほど覚えた侍女の名を呼び、指示を出した。
王宮庭園の管理事務室には、すでに事務官と庭師が待機していた。
そこで、魔力の大きいと言われる女性の庭師が紹介された。
「マドラス公爵令嬢は、何を希望されるのでしょうか?」
自分達が公爵令嬢に呼ばれる理由がわからない。
国の中枢幹部ならともかく、使用人達がメリーアンジュ拉致事件を知っているはずもなく、どうして公爵令嬢が? と思っても仕方ないことだ。
「私に内存する魔力を引き出したいのです。
誰かに与えるなら、自分の意志で与えるようになりたいのです」
メリーアンジュ自身が、女性の庭師ということで安心していた。
もし男性の庭師に教わろうものなら、3人が何を言うか想像できるし、兄に至っては大袈裟な騒ぎを起こすだろう。
「ああ、それで、植物に魔力を与えて成長を促している我々に目をつけたのですね?」
「よくわかってますわね」
ホーホッホと高笑いをしそうな表情をしたメリーアンジュである。似合いすぎる美貌が噂を独り歩きさせる。
「貴女お名前は?
私は、メリーアンジュ・エリア・マドラスですわ」
「私は、ブリニア・トウトワエといいます。
現在の王宮庭園では、私の右にでる腕前のものはいません」
庭師が膝をつき、男性のように礼をする。
「あらあら、ブリニア。そんな挨拶は必要ないわ。すぐ実践に使えそうなものを教えてちょうだい」
気位の高そうなお姫様しようのメリーアンジュは、よく似合っている。
目をキラキラさせて、やる気に燃えてます、と言わんばかりである。
メリーアンジュは、もし助けがなくとも自分で守れるように魔力の訓練をしようと思ったのだ。
今まで、自分の魔力は弱いと思っていたが、大きな魔力が内蔵されているのなら、それを自分で使いたい。
自分の魔力を植物に与えて成長を促す生成魔術がいいのではないか。
防御の魔術の訓練は子供の頃から練習させられたが、上手くできなかった。それは魔力の系統が違うからだ、と思いいたった。
「がんばりますわ!」