苦労と書くかどうか
三枝は木佐の事務所から出たら別会社の社長なのか役員なのかはわからないが、会議室で話し合っていた。会社の未来を考えているのだろうと思った。深く話し込んでいるのか何処か喧嘩をしているようにも思えた。少し間席を外していた木佐の事務所の事務が連絡を受けて戻っているようであったのだ。その事務の人が三枝に気づいたのか声をかけてきた。
「先生とお知り合いなんですか?」
「えぇ、出版社の社長が一番知り合いでしょうけど、その系列です。」
「そうなんですか。親しい人じゃないと私に席を外すようには言わないんです。目撃者としていてもらったほうがよかったりするんです。・・・以前、聞いたことがあったんですよ。貴方に法律について教えたのだといっていました。弁護士という職を題材にした小説も悪いものじゃないから何かあったら受けるんだとも。」
事務の人は入って来たのは木佐が此処に移転してきたときなのだという。その時は事務がいなくても処理が出来たこともあったので、入るつもりもなかったのだ。事務という職はかけることもできないと思っていた。
「先生は苦労させたそうです。高橋製薬という会社の弁護士になっていい面もあったでしょうけどね。契約で自分を守ることを証明できたとも言ってました。契約を切られてからは自力で奮闘したそうです。味方に付くのはいないと思っていた時期でもあったそうです。マスコミも卑しくもはやし立てるに決まってますから。」
週刊誌の書くことで代償が大きくなったりもしたが、高橋製薬にも目を向けていたので時期を選んだのだろう。民事だけでもと取り合っているうちに今事務をやっている人物の身にも降りかかってきたのだ。まだ、豪華なビルではなくさびれてたビルに入っていたころの話だ。そこで裁判で戦ったのだ。腕は一流だったと自分を評価した木佐に何も言えなかったのだという。
「それで終わったと思っていたんですよ。けど、何も言えなかったことに後悔しました。・・・事務を募集しているのを見て応募したんです。覚えていてくれて驚きました。」
木佐は面接のときにいったのだ。きらびやかな世界にいたときもあったが落ちぶれてしまったのだ。それでも弁護士として求めている人がいるのも事実だと。それでも何もできなかったと思うのは嫌なのだ。自分に返ってくる代償の大きさは身に染みている。覚悟も受け取った上で事務をしてくれる人はいないのだ。安定という字のごとくを探しまわっているとも。




