得るべきこと
「若かったし、つまらないといわれる話だけど聞くよね。高橋絵里との対談もあるわけだし・・・。」
「はい。」
彼は机から分厚いファイルを取り出した。そこには高橋製薬と大きく書かれている。高橋製薬との契約のうちに扱った裁判資料なのだという。捨てずに置いたのは何か役に立つかもしれないという薄らとした気持ちだったが、今は役に立っているのだという。
「高橋製薬というのは味方に付ければいい会社だけどね。見た目は。だけど、敵にすれば厄介として扱われていた会社でもあるんだ。俺は民事でも刑事も請け負っていた時期で弁護士事務所に入りたての若造だったのに何故と思った時もあるんだ。」
最初に扱った裁判は薬品にかかわることだった。海外製の薬品の落ち度を知っていたかどうかが焦点となった民事の裁判であった。資料を見ているだけでは知っていなかったということになるらしい。だが、木佐は裁判に臨んでいるうちに知っていたことが分かったのだという。それでも依頼者の有益を得るとしたらそうするしかなかったのだ。
「それで思ったね。この会社の契約になった自分の意思が殺されるかもしれないって。だから、高橋絵里との婚約を要求されたときは断ったよ。そしたら、契約を切りたいだの言いだしたのには驚いたよ。娘の失態を隠すために出版社とかに動いていたのは俺なんだから。」
社長の代理をしていた高橋権現は出版社の脅し文句を考えていただけなのだというのだ。そのこともあってか木佐は高橋製薬と契約が切れたときにマスコミを味方につけることが難しかったらしいが、噂というのが流れてきて理解してもらえたのだ。長年弁護士としての腕を買ってもらったわけでもないと思ったのだ。高橋製薬が契約をするのは大きな弁護士事務所の若造であると知っているので、戦うのが一番だと思った。
「そしたら、経験不足のなり立ての弁護士と契約をしていて全く歯が立たないという感じ。法律を飲み込んでいるにしてもどう戦うべきかを教えない事務所で、所長も上司もろくに動いていないと思ったよ。その事務所に入ったらみな一人前という評価をするそうなんだ。」
裁判に負けそうになっても助言がないことが明白だったのでそこを突き勝つことができたのだ。木佐は思った。あの若者は恵まれていないと思った。
「だから裁判に勝とうが負けようが関係ないと思っているみたいだった。・・・裁判に勝った時に所長からスカウトがあったけど断ったんだよ。腕が良くでも教えないと若手は生まれないと教え込まない事務所は壊れるってね。」




