盾を持ち戦う
夏樹は彼女の家庭で起きていることに納得いかない様子だった。三枝にとっては何処かわかっていた気がする。会社をなげうってまで見つける必要もないようにと。
「どんな会社かは知らないけど、お姉さんは継ぐよ。」
「どうしてそんなこと言えるの?」
「株式会社だとすると君より多めに持っているじゃないのかな。それでお父さんが決めていたとするなら君には継ぐのに必要な株式が足らないことになってしまう。それによって継ぐように仕向けているんだよ。まぁ、そんなところだろうね。」
彼女から聞くとまさにそうだったのだ。両親の手をもってして継がすという意気込みということなのだ。だが、株式を妹に明け渡すとわけが違ってくる。それによって妹が権限を持つとなってくる。それには見えていないから故の行動としていえる。
「親戚もうるさいから、私継ぎたくないからバンドをやって離れたいんですよ。逃げているように見えても私なりの防衛ですから。」
「逃げてないよ。君のしっかりとした判断だ。それなら音楽活動に専念するのが筋なんじゃないか。」
「そうですね。」
彼女はそっといったのだ。決意のあるうちに家族の有無なくやってのけるのがいいのだと思った。彼女にとって家庭の権限を持っている父親が邪魔なのだろうから。三枝が話を聞いて何処か世間話になりかけたときに彼の電話が鳴った。
「ごめん。ちょっと話してくるね。」
「はい。」
三枝はいったん店を出てそこで受けた。
「もしもし。」
「俺だ。草間だ。お前の言った通りのことになっている。鈴木兄妹の指紋がどんどん出てきている。」
「ならその資料を澄川書店の橋倉さんに送れないか。あと、鈴木孝則と窪塚公子の事故をある人の指紋とかに照合してほしいんだ。」
草間は忙しいのか疲れているか時折ため息を漏らしているのだ。上条とともになっていることで調べているのだろうから。
「わかった。その資料もだな。」
「そうだ。もうそろそろ受けるという話になるだろうからな。ことの始まりのかけらくらいちゃんとしておかないとな。」
三枝にとって事件が見えているが故の気持ちでもあったのだ。警察が権限で押し負けたが故に作り出した事件であることも知らせないと上層部は口をつむるだろう。雲隠れをして何もしないのだろうからとなる。草間もきっとわかっているのだろうから。
「警察じゃあいけないところまで来ているのかもな。お前に託したぞ。」
「わかっている。後ろ盾のないうえに前にも弱い盾を抱えている人物だから大丈夫だよ。」
少し乾いた笑みが三枝自身から漏れた。




