画を書いては消していく
「なら、自己判断で決めるしかないね。自覚しているのに立ち止まっているのは違うじゃないのかな。」
「弘樹ってそんなこと思っていたの?」
「思うよ。立ち止まって迷惑をかけるくらいなら開いてもらった道を行くなり方法を選ぶもんなんだ。躊躇する気持ちはわかるからね。・・・会社にいたときも楽しんでいたけど、やめたら済んだとしか思わなかった。」
夏樹は決まったつまみを手を止めずに進めている。おいしいのだろうか。それとも何かを忘れるために進めているのだろうかと思ってしまう。彼女の眼を見てみると意思をはっきりと示しているように思えるが、家族を説得するまでも動き出す道を選ばなかったのか。
「家族はバンドについてなんといっているの?」
「好きなことをすればいいと。父が経営している会社は姉が継ぐことになっているので、私なんて何をしていようといいんですよ。会えば愚痴を言って聞いてもくれないし。」
彼女にとって家族の愛情があったのだろうか。父親は社長だから社員も気にかけていないと揺れてしまう恐れもある。彼女の姉にはかなりの期待を寄せていたことが聴いていてわかる。姉妹で愛情が違ったのだろう。彼女の経歴を聞いてみるとわかるかもしれない。
「高校とか何処に通ったの?」
「私はその時部活が有名だった私学です。姉は特進クラスが存在して一般に落ちても難関大を目指せる高校に通っていました。姉だけはそこに小学校のころからです。私は小学校、中学は公立です。」
「そう。何となくわかったよ。それなら好きにしてさ、何も言えないようにするのが手っ取り早いけど。」
姉には激しいくらいの期待を寄せ、彼女に対しては全くなかったのだろう。彼女の姉は小関絵里と同じ高校に通っていたのだろう。特進クラスにいるのは苦労するようであったから一般にいた可能性もある。
「君のお姉さんは会社を継ぐつもりなの?」
「いえ、継がないといっているんです。父が作った会社だから継いでほしいという願望だけなんですよね。姉は別の会社の会社員として働いているんです。そこで一定の成果を上げているので・・・。」
「やめるつもりがないってことか。夏樹はどう思った?」
「聞いていると、なんかいろんなことを両親がお姉さんに押し付けているような気がするんだけど・・・。」
夏樹が言っていることは当たっている。両親はできのいい姉とそうでない妹という構造を意図的に作り上げたのだ。押し付けて会社を背負わせる雰囲気を作って断らせないようにさせているのだ。この行為はいずれ破綻の道が今見えているのだ。今はよくてもきっと会社は動かない。




