明かりを得る太陽
三枝の前には白ワインが置かれ、夏樹は生ビール、夏樹が連れてきた後輩はサングリアの赤が置かれた。適当に頼んだつまみが花を添える。つまみながら話を聞こうと思った。
「君は今の仕事をどう思っているんだ?」
「別に好きとかじゃないですよ。バンドを組んでいた時の爽快感というのは上にあるので、バンドを組む人が見つかればやめたいですけど・・・。」
バンドメンバーを見つけようとしているようだが、なかなか見つからないのだ。仕事と掛け合わせとなるとやめる人も多い。三枝は白ワインを少し飲んだ。
「俺が作家になった理由を教えようか?」
「お願いします。」
三枝が高橋明子の事件を不思議に思ってニュースであったり、新聞を眺めていたのだ。明らかに自殺でけりをつけたがっている警察に疑いの眼を向けたのだ。高校生で事件の話に口を出すのも可笑しいと思って文化祭程度ならいいかもしれないと。文芸部に与えられる冊子の部数も決められているので少なく書くようにしていたが、現場に行ってみたり聞き込みをしていたので膨らんだものを書いているうちに1冊子分の文字数に達していた。それも堅物の顧問に頼んで了承を得て出したところ、出版社の人に止まり、勝手にコンテストに出されていたのだ。そして、大賞を取ったに過ぎない。
「こんなものかな。」
「そうだったんですか。プロフィールには写真のコンテストも出てますよね。入賞をしている。」
「あれは写真部の1人が俺の写真を使ったんだ。俺の親父がいないと見抜けなかったと思っていて、俺の手法を知ってる親父が学校に問い合わせたんだよ。写真部で使うカメラの番号が決まっていて応募してきた人の写真を見たらなかった。俺のも調べたからそれで判明したんだよ。」
コンテストで人の写真を使ったということになって利用した人物は4年間のコンテストに出ることを禁止になったのうえ、三枝にとっては思っても見なかった入賞だったのだ。全ては他人から動かされたと思った。
「俺もしたいことをしたうえで今の小説家として充実しているわけだし。」
「したいことって何ですか?」
「会社に入ることだよ。まぁ、俺の親父には組織には合わないといわれたうえで入ったからよかったんだけどね。2年間だけ。」
三枝はワインを飲み干し、店員を呼んで新たな赤ワインを頼んだ。彼女には理解できるのだろうか。単純に会社に働きたいなどというのは・・・。
「可笑しいことかもしれないね。」
「そうとは思いません。私もしたいことをして、バンドを組んでいきたいと思います。会社の人にも迷惑をかけてますし・・・。」
照れ笑いを浮かべる彼女を横目で夏樹はそっと見つめていた。




