握りつぶす絵
彼女は此処の幼稚園の時から在籍していて大学もだが、今は教師をしながら大学院の生徒としているのだという。
「校長は絵里のお兄さんのことを悪く言ってましたけど、私はそう思わないんですよ。確かに受験に失敗しても此処と対立する学園の高校の特進クラスにいたんですから。」
「特進クラスですか?」
「そうですよ。それから何処かの国立大学に行ったとか聞きましたよ。絵里もそうなればよかったんでしょうけど、親の反対を押し切ってするとか性格じゃなかったからお父さんのことに巻き込まれて夢破れるという形だったんです。」
テーブルに置いてあったコーヒーに彼は手を付けた。こだわった豆なのか苦味も甘味も感じられているのだ。小関絵里もまた権現によって動かされた人間だったということだ。洋一はのちに動かされるようだった。
「絵里のお兄さんは気が弱いとか言われていますけど、あれは絵里が作り出した偶像だとしか思えないんですよね。絵里って高橋製薬を継ぎたかったんですよ。だから、薬剤師を目指すとか言っていたんですけど。」
父親の事件に巻き込まれたことによって母親も失い、夢も破れる結果となってしまった。父親に対する恨みは大きかっただろう。洋一は社長になっても会長の意見を受け入れなかった恐れも見えてきた。父親に反発する子供を怒ったのは父親だけ。
「高校の時、1年、2年は特進クラスだったけど3年の時くらいに落ちてしまって・・・。一般に落ちても特進クラスの試験を受ければよかったのに受けなかったんですよ。今見ても先生たちにとって残ってほしかった生徒だと思います。」
成績が良かったが特進クラスから落ちることはあるらしく、たいていの人は受けることになるのだという。教師の押しとか受けるのだろうから。彼女の言い分からするとかなり頭がよかったらしい。それすら捨てて・・・。
「特進に落ちてから悪い連中とつるむようになってしまって私も手に負えなかったんです。私は特進クラスにいて受験とかで忙しくて・・・。特に、特進で此処の大学に入ればいい待遇を受けることもわかってますから。」
彼女の両親は教師であったこともあって、教育学部に行ったのだという。そして、学園に戻ってきて特進クラスの専属の先生となり、大学院まで行かせてもらえるのだ。親には助かることばかりだろう。
「卒業するとかその前ぐらいに絵里のいた不良グループが何処かの企業にけしかけて不良グループのリーダーが殺されたと聞いたんですよ。あれはきっと絵里の思惑だとしか思えなかったんです。」
相手も不良グループとすることで相手の立場を悪くしたのだ。それに喜ぶのは相手側だ。よって、殺したとされる相手のリーダーは重い刑を受けることになったのだ。真実を握りつぶしたということだ。




