進まない音符
「本部の人はさ、今のところでの働きを買ったからとか言われるんだけどね。外回りに乗り気じゃない気持ちもわかるから余計な事を言っておきたくはないのよ。」
「それでもやる気を出さないのか?」
「そう。パソコンに顔を合わせるのが性に合うのか、なんていうかその子を採用した人に聞いたら全くもともとやる気がない子だったらしいの。就職も遅れてやっていたこともあって・・・。」
夏樹が言う子は大学時代にバンドをしていて就職をすることになり、自然消滅をしたらしいのだが、彼女はバンドに対する熱が薄れておらず心底参っているのだという。周りのバンドをしていた子たちは大企業とかに就職をしたとかの報告会も開いたのだという。それすらも行かなかったらしい。趣味という範囲を超えていると思っているがバンドを組む人もいないのだろう。
「親にも職に就けとか言われて働いているだけだということもあって本気じゃないのよね。今更やめてバンドを組んでバイト生活をされても親が困るじゃないの。聞くところによるといい所のお嬢さんっていう感じだから。」
「世間体を気にするよね。それでも働いているんだから本気になってもらったほうがいいと思うんだけどな。親も黙ったままってことはしないだろうし。」
外回りに抜擢されることを喜んでいるのは親なのだ。少しでも変わってくれればと思う部分が大きいのだ。バンドを組みたいという気持ちが捨てきれないこともあってか最低限しかやっていないのを危惧している人もいる。
「会社を辞めたら非難されるとまではいかないけど親に響くのが目に見えているから言わないだろうし。残業もしないから仕事をため込んだままで一向に進まない事務も困るの。だから外回りをさせて遊ぶなり勝手にしろってことみたい。」
「会社も大変なんだね。それでもいいと残ってもらっているんだからね。」
彼女と話をしてみると仕事の話はなく、大学の時にやっていたバンドの話になるのだという。テレビに映ったほどのバンドだったらしいが、一時で終わったのだ。歌がうまいとちやほやされたボーカルが彼女だったのだ。ボイストレーニングも受けていた経歴もあるので此処で終わるわけにはいかないと思っているのだろう。音楽事務所に行くほどの勇気もなく会社で働いているのだ。
「だから、その子の上司が言うのよ。そうにバンドをしたいのならやめて音楽事務所に行ってもらうのが一番だって。」
「けど抵抗するし、やめないんだろう。」
困った人をそのままにもできない。




