無茶となる
草間が嘆くような少しだけすねているような口調で言っていた。三枝は言うことだけ伝えることだけ伝えて出て行こうとしたら上条に声をかけられた。
「無茶をしないでほしいです。真相に近づいていることは確実ですから。」
「わかってますよ。探偵ごっこをしているわけでもないんですからね。」
三枝は返した言葉に加えてほほえみを返した。すると、安心したのか上条はそっとその場を離れた。草間は立ったままだった。
「いい上司だな。」
「そうだよ。俺は交番にいた時期もあったけど、今が一番いいよ。上条さんは理解者なんだ。だって俺が資料を読んでいても何も言わないんだよ。」
「俺が会社に勤めていた時はぎすぎすしていたな。何処でもよかったから人事担当になったのはいいんだけど、会社の宣伝に使われていると思ったんだ。承知の上だったこともあった。」
上司も上司で人事だろうが広報みたいなことをやっていても社長に顔を立てることができるのであれば構わないと思っている人だった。広報に駆り出されることも多かったのだ。それに加えて、人事としての仕事を重なっていることも負担になっていたのだ。
「そんなことになっていたらろくに小説なんて書けなかっただろう?」
「それが書けるんだよね。嘘偽りのない世界じゃないからこそ、描ける何かを求めていた時期でもあったから喜んでいたよ。けど、慣れてきたというのもあって澄川書店から受けだした時期でもあったからやめるって言ったら上司が駄々こねてさ・・・。」
会社を辞めるなといってきたのだ。やめるにしてもすぐじゃないのだ。それでも子供ように駄々をこねてその上、社長に伝えてごちゃごちゃにさせたのだ。都合のいいようにするからとも口先だけで言っていた。
「社長が登場しても意思ってものは簡単に変わらないことを知らないのかな。上司も引き下がらないから出すに出せなかったじゃないのか。」
「だから、その上司がいないときに出したんだよ。そしたら困ったことがなくなったしね。人事の仕事だけを最後のほうだけさせてもらえたから。」
社長は観念していたこともあって受け取るのは簡単だったのだという。上司が引き留めてほしいといわれたというのもあるが、強引にやりすぎていたことも気になっていたのだという。
「その上司は俺が辞めて1年もしないうちにクビになったらしい。パワハラが明るみになったこともあるって。その上司は行き場をなくしていたらしい。やめる数日間は地獄だよ。」
三枝はそう言って過去を思い浮かべた。




