理由と名目
店員と話していると声をかけてきた。
「もしかして、三枝弘樹さんですか?」
「そうですが・・・。」
「ファンなんです。サインしてください。」
黒スーツを着たカップルのような若者に言われた。店員の彼を含んでサイン会を開いた。ペンはあってもキチンと用意をしてくれている。カップルから名前を書き入れてほしいと頼まれた。鈴木卓と鈴木詩織と書いた。調べていた人物だと思った。
「何処にお勤めなんですか?」
「2人とも高橋製薬なんです。妹は秘書をしていて、俺は病院へ営業です。」
詳しく聞こうとしたところに高級そうなスーツを着飾った人が現れた。そこに浮かんでいた空気すらも消してしまうほどの力があったようでもあったのだ。三枝を見つめるとぱっしりとしたスーツから名刺が取り出された。そこには窪塚紘一と書かれている。国立大学の付属の病院に勤めているのだ。窪塚が名刺を出したのを見て、鈴木兄妹も同じく名刺を差し出した。
「窪塚さんって高橋製薬と仲がいいと聞いたことがあります。」
「そうですよ。俺の実家が医者の家計じゃないこともあって、融通の利く製薬会社がなかったんですが、高橋製薬の営業をしている鈴木君と話をしているうちに上に掛け合ってくれて今の状況になったんです。ですが、思いもよらない障害があったみたいです。社長さんもなくなって会長さんまで・・・。」
窪塚が鈴木といった時にカップルのような2人をチラリと見た。兄妹であると認知しているということになる。知らないとわからないだろうと思ってしまう。店員の大学生の子はコンビニの中へと入ってしまった。
「もしかすると、今行っている融通がなくなるかもしれないと噂をたたている人もいるんです。」
「それは誤解です。窪塚さん。俺と同じ営業先を回っている先輩が俺のと窪塚さんの契約を白紙にしたいとあがいているだけですから放っておいてください。」
「わかりました。・・・それにしても有名人に会うというのはいいものですね。」
窪塚は三枝の書いた澄川書店で書かれた3作目が好きなのだといった。卓は1作目、詩織はスクリプトの新作が好きだといった。
「妹が時間を割いてサイン会に行ったんですけど、手順が分からなくてできなかったんです。悔やんでいたからよかったです。」
「よかったですね。俺は声をかけてくれた書店さんとかには喜んでしますから。」
窪塚は診察をしているときに追っかけをしている患者に会う理由が分かったとうなずいた。




