伝言
夏樹には大学の相談も全てしていたこともあるからだ。就職の時も相談したのだ。社会経験として少しでも役に立ちたいと思ったから。そういうと笑ってうなずいてくれた。
「そういえば、弘樹の担当していたゼミの教授から連絡か何かあった?」
「なかったぞ。あったなら会っているだろうし。お世話になっているのは事実で変えがたいんだから。」
「だよね。同窓会があった時に言ったんだよ。三枝には今からでも大学院に入ってもらって私の助手としていてほしいって。成績もよかったからなおさら惜しいとか言っていたけど・・・なんだ、口先だけか。」
就職をすると伝えたときに名残惜しそうに言っていたのを思い出した。大学院に行って勉強するのもまたしかりだが、社会経験というのはぬぐえないものがあると親の話を聞いて思ったのだ。三枝自身、大変な道を選ぶのもいいだろうといっていたのだが・・・。夏樹の会社の愚痴を聞くのは楽しいものがあったりする。会社にいれば起こりうる問題であったりするからそこから飛躍することも可能なのだと心底思ってしまう。楽しく笑っていた時に夏樹が少しだけ神妙そうな顔を張り付けた。
「ねぇ・・・。弘樹が良かったらもう1度付き合わない?」
「えっ・・・。」
「突然なのはわかっているの。弘樹が高校の時に付き合った人がよくなかったのは知っているから。考えて答えを出してほしいの。急いでいるわけでもせかす理由もないから。」
三枝が高校生の時に付き合った彼女はそろいもそろってみな、彼の名声ほしさの付き合いだったことが分かった瞬間に別れを決めていた。大学に入った最初はちやほやされるのも嫌なのでとりあえず距離を取った感じをしていた。そこに入りこんだといったほうがいいだろう。夏樹は友達からでもいいからといってきたのだ。何処かの名声ほしさの言葉だろうと高をくくっていた。それが良かったのかもわからないが、小説を書いているときはできるだけ会わないようにしてくれたり配慮をしてくれたことがうれしかった。高校の時に普通になれないと思っていたからだ。大学に入学するときにも何故かマスコミにあふれていた。うんざりした気持ちが入り混じってしまった。夏樹と付き合ったのは彼女のやさしさに付け込んだからだと思ってしまった。自分を少しばかり恨んでいたりしたので、そう長くは続かなかった。彼女も悟っていたから。
「あの時のような関係とは違ったものになるかもしれないから。・・・ねぇ、考えてくれる?」
「わかった。」
張り詰めた沈黙がかけ破ったのかもしれない。そういって彼女と別れた。