書き物の人生
作業員らしき中年の男性が鉄でできた階段の中腹で座っていた。缶コーヒーを携えて・・・。此処は風の通りがいいのかぴゅーぴゅーと音が鳴っている。
「俺はこの辺の取材に来ているんです。此処の社長さんについて聞きたいんですけど・・・。」
そういうと男性は缶コーヒーを階段においてタンタンと音をかき鳴らして降りてきた。こんなことめったにないことだからなのか乗り気のようだ。
「それなら社長はさっきのお客さんが見えてから新しい機械を見てくるといっていないから俺でよかったから受けるよ。」
「そうですか。有難うございます。」
澄川書店とスクリプトが共同で作った名刺を渡すと彼の眼は驚きを隠せないような表情になった。彼は受け取ったまま、2階の事務所にある応接室へと導かれていった。ソファは新しいのだが、座るクッションが堅くさせていた。テーブルもソファの割に合わないくらいに高さが見合っていなかった。お茶を丁寧に注いでいる。
「三枝弘樹ってまさか・・・。」
「そうです。先ほど来た三枝昭の息子です。・・・俺は高校生の時に此処に来て事件を調べていたし、今もその要件でやっているのは事実です。その後ろに警察がいるかいないかくらいで・・・。」
そういって三枝はお茶を飲んだ。苦味が強いがかすかに甘味が含まれていた。高校生の時は好んで飲まなかったのを思い出した。
「そういえば、貴方は?」
「俺は此処の工場長をしております。宇佐美といいます。こんななりでも社長に拾った身なんですよ。前の会社をクビになってホームレスにならざる負えなくなってしまってさまよっていたところであったんです。」
前の会社が印刷会社で営業をしていたことの縁で工場長になったが、あくまで建前だとみな知っているので同僚とかはため口で言わせているのだと寂しそうな笑みを漏らしていた。その笑みのわけを立ち入って聞いてみると、前の会社をクビになった時に離婚を奥さんのほうから申し出てきたのだという。それも奥さんは不倫をしていたことを隠したうえで離婚をしようとして疑った彼はなけなしの金で探偵を頼んだら不倫をしていたことが分かり、裁判を起こして賠償金をもらうようにできたのだといった。子供が2人いたが、奥さんのほうにもともとへばりついていたのでそのまま連れ子としていったのだ。彼自身、子供に会いたいという気持ちもあるが、不倫までしてそれを隠すことに力を入れた奥さんとは会いたくないのだ。そんな彼の人生を受け入れた社長なのだと。




