見た目と裏腹
昭は弘樹の話を詳しく聞きたいと思ったのか、知っている喫茶店を教えろといってきた。父親と仕事の話をすることなんてこれまでなかったのだ。弘樹は一緒に行った。何度も訪れる彼に驚いているが、けれど何も問わなかった。
「おじさん、コーヒーを2つね。」
「わかったよ。」
「彼はお前が作家をしているのを知っているのか?」
そう聞かれると黙ってうなずいた。出されるコーヒーを待つかのごとく沈黙が続くのだと思ってしまった。その沈黙に耐えきれなくなってしまったのか昭から聞いてきた。
「俺が高校生の時に訪れた際に見つけた場所なんだ。それに3作目くらいに出ているんだよ。その縁もあってな。」
「そうか。ならあの時に否定することをしなくてよかったなぁ。俺も美大を出てからフリーでカメラマンしていたこともあって苦労をさせたくなかったんだけど、お母さんに止められたんだよ。才能までつぶすことになってもいいのかって。」
「おふくろがそんなことを言うとは思っていなかった。」
実家に帰る度に包んでくれる存在になっていたのだ。その母が見ていたのは才能とかだったのだと思ったのだ。昭から打ち明けられるのは両親の思いだった。ふと、考える部分がある。話を聞いている鈴木卓と詩織は愛情を受けていたのだろうか。全くといっていいほど皆無だったのだろうか。なんて考えるうちにコーヒーがカウンターに置かれた。
「親子水入らずに入りこむのは性じゃないんだけど、仲が良くてついね、口出してしまったんだ。謝るよ。」
「そんなことしなくていいですよ。・・・おじさんに紹介していなかった。俺の父親の三枝昭です。」
「どうも。」
三枝昭という名を聞いてはっとしたのか、裏に行って色紙を取り出した。
「サインしてもらえないですか?」
「いいですよ。息子がお世話になっている店だと聞いたので・・・。」
昭はサインを書いている横で弘樹は出されたコーヒーを飲んだ。きっと味に飽きぬように配慮していることが分かったのだ。昭は此処に新しくできた印刷会社を見てきたといっていた。出版社からの依頼も受けているのだと思った。昭は印刷機械についても詳しくなっているのを編集者が知っていることもあったのだろうから。
「親父が言った印刷会社はどうだったんだ?」
「新しい割には機械には金をかけていないね。映りにこだわる人なら行かないと思った。加えて、料金が高いんだよ。古い機械を使うのなら同じかそれなりにしないとダメだね。出版社も手を出さない。」
印刷された様子も見たのだが、機械が整備がほどほどといったところだったのだ。




