警笛
彼女は見たことがないのだといった。光景を見たことがないというのも不思議に思ってしまうのだ。
「鈴木君たちを見たことがないのは確かなのよね。獣道を通って行ったとしても反射材はつけていかないからわかるはずなのよ。だって、そうでしょ。獣道を反射材をつけずに歩くなんてまるで裸で戦っているようなものじゃない。」
獣道を通る小学生が多くいたのだ。それで猟友会が学校に配ったのだとしてそれでもつけない子は確かにいただろう。猟友会の人はそこかしこに言ったのかもしれないのだ。獣道を反射材なしに歩いてどうこういわれては困るのでやっているのだ。それを踏まえると鈴木兄妹は境遇からか見放された大人を黙って観察していたとも考えられる。
「・・・思い出した。明子さんの薬局に行ったときにね、やけに騒がしかったわ。店舗と自宅がつながっているから聞いたのよ。そしたら、娘は来ていないって言ったのよ。テレビをつけるとも思えなくてね。近所の子が来ているって。名前を聞いても教えてくれないから少しでも心を開いてくれればいいんだけど・・・って言っていたわ。」
名前を教えてくれない子供が高橋明子の家に来ていた。大人を信頼などしていないとすれば育児放棄を受けていた鈴木卓と詩織なら考えられる。テレビなどろくに見れなかったりするので、明子の家で見せてもらっていた。明子が鈴木卓と詩織を見捨てるとも思えなかった。むしろ、児童相談所に相談をかけていた可能性も無きにしも非ずといったところだろうか。
「それからこんなことも言っていたわ。父親が給食費を使い込むんだって。そのことも全て児童相談所に相談したけど、人数が足らないとか言って全く相手にしてくれなかったとかぼやいてた。」
「確実に鈴木卓と詩織ですよ。・・・そして、事件後に自ら児童相談所に行ったのなら何かのタイミングで明子さんを殺してしまったとも考えられるし、否定してしまうのはおこがましいことになってしまうんですよ。」
「やっぱり、あの子たちだったわけね。だから、事件の話を小学校でしたときに妙によそよそしかったとか言っていたのよね。でも、警察なんてそんなものよね。圧力もかかっていたし。」
彼女の話を聞いているとけたたましく携帯の音が鳴り響いた。画面を見つめると、草間と警笛のような音が追加されていた。草間のほうでもしかしたら悪いことが起きてしまったのかもしれないと・・・。
「どうしたの?私を気にせず出ればいいのよ。」
彼女はそう言って催促した。三枝はそれを聞いて彼女に一礼をして廊下へと向かった。




