広がった行く末
「フリーライターっていう肩書っていうのはお飾りで今も何処かの不良グループにいるんじゃないのか。」
「お前の仮説はあっているんだろうな。・・・ごめん。上条さんから呼ばれたから切るわ。」
草間はせわしなく切った。上条に呼ばれたということは会議が始まったか何か新たな事件が起きたのだろうか。細道から出るとおじさんが立っていた。
「どうしたの?おじさん。」
「いや、お客さんもいなかったから名簿を見たんだ。そしたら名前が分かったから伝えようと思ったら電話していたから立ち聞きしていたんだ。性でもないのに・・・。」
おじさんは寂しそうな笑みを見せつけるようにしていた。その話をするにも喫茶店で話すのが一番いいと思ったのか改めて戻った。コーヒー豆を変えて新たなコーヒーを出してくれた。
「話をしていたのは誰だ?」
「俺の同級生の人で警視庁の捜査一課にいるんだ。未解決事件を取り扱う部署にいることもあって相談していたんだ。」
「そう。その人ならああいう言い方をするよね。情報交換もちゃんと許可は取ってるんだ。」
おじさんは情報交換の部分を心配していたのだと思った。伝えるとほっとしたのか笑顔がなめらかになっている。三枝が問いにうなずけば話は進むものなのだと。おじさんは貸し切りにするのに名前を聞いているのだ。日にちもキチンと残っていた。パソコンを使うのもいいのかもしれないが、おじさんは好んでいないのだ。
「此処じゃパソコンに詳しいのは宗助君くらいでさ、おふくろさんが亡くなってから1人でやっているのに世話になるのを考えるんだよね。」
前山の母親は数年前に大往生の末に亡くなったらしい。1人息子だった宗助が全てを請け負ってやっているのだ。父親は高校生の時に聞いたときに言っていた。大きな鉄工所がありそこの工場に働いていたが、些細な事故で亡くなってしまった。女で1人で育て上げたこともあって周りはよくするのだ。
「それでおじさん、予約をした人の名前は?」
「窪塚康・・・、今思い出した。この辺の大きな鉄工所の社長の息子だ。」
おじさんが言うには窪塚鉄工所があったのだ。当時はつぶれていたが、盛んだった時期があるのだという。
「何があったかはわからないけど、銀行の融資が取りやめになって社長が自殺したんだよ。噂も持ち上がった上に三男坊の不良グループのリーダーが人を殺したこともあって近所の人が嫌がったんだよ。」
「その三男坊って康って名前ですか?」
「そうだよ。長男は医学部に行って、次男は進学校に行ってとかでね。お父さんが生きていた時に言っていたんだよ。康は出来損ないだって。」
此処に生まれた噂というのは時間はかかったとしても広がってしまう。そのこともあってか窪塚という家はこの場所に入れなくなってしまった。




