味覚
そのような人物がいれば警察は気にしないのだろうか。自殺と決めつけてしまうことで人の心がどうなろうと関係ないのか。
「それでね、妙な客がいたんだよ。高橋製薬の社長が殺される数日前に。」
「どんな人ですか?」
「名前は忘れてしまったんだけど・・・。此処らじゃあ名の知れた悪だよ。高校生の時に不良グループとかかわったから。その家族自体が村八分を受けてね、いないんだけどよ。久々に顔出したと思ったらデジタルカメラをもっていて金の生る木を見つけたとか言って・・・。」
デジタルカメラをもっていたことは決定的瞬間とも言わないまでもそこまでのもので金を巻き上げることができる。その時はこの喫茶店は貸し切りになっていたとおじさんは言った。大きな企業の社長とかを集めて交流会みたいなことが行われたのだ。都心部だと場所を借りるのに高くつくので主催者側から低価格で借りれるところをといったらその人物が快く探したのだそうだ。そこで此処で借りることになったのだ。
「幾分、その人は高橋製薬の社長と会いたがっていたなぁ。なんかフリーのライターをしていることもあって金にならない仕事もあったりしてうんざりしていたけど、昔のデジタルカメラを探ったらとんでもないものが出てきたとか盛り上がっていたみたいだよ。」
髙橋製薬の社長に会いたがったとすれば・・・。母親の事件しかつながりがない。その話に載らないわけがないだろう。兄妹そろって母親の死には疑いをもっていたのだ。大切な証拠をどうしたのだろうか。
「社長が買っていたみたいだったよ。」
社長が提示するいい値で買うといっていたみたいだったが、結末としては社長が提示した値段より2倍になっていたが売らないといわれても困るので買ったみたいだったらしい。
「いくらですか?」
「10万円かな。その場では金のやり取りは見てないから口座とか示して渡したじゃないのかな。このごろ、世知辛ない世の中じゃない。だからかなって。」
それで写真を売った相手は満足そうな顔をしていた。ただ社長のほうは険しい表情になったのを覚えているようだった。金のやり取りを残してまたあぶく銭を奪うつもりだったのかもしれないと思ったのだ。写真の相手が死んだときのために・・・。三枝には見えない壁や影を映す道具をもっているわけでもないのにと思ってしまう。
「まぁ、そんな話もあったというだけだよ。・・・弘樹君が考えるほどのことじゃないさ。」
「案外甘く見てしまってはいけないものかもしれない・・・。」




