出会いと別れの間
荒木は高校生の時から面倒を見てもらっている。よくも悪くも性格をよくわかっているのだろう。社長のほほえみを見た。やさしさしか感じられない。三枝自身も他の出版社との連載もしていたりもするのだが、社長はそれも勉強だといってくれた。その上、スクリプトで賞をやるから審査員をしてほしいといわれた。ペーペーが口を出す立場じゃないといった覚えがあった。それでも他の作品を見るのは悪いことじゃないといった。そのこともあって両立がうまくいっている。
「わかりました。ですが、少しだけ考える時間をください。俺も突然で思考が追い付かないです。」
三枝がそのままの思いを告げると社長はうんうんとうなずいた。荒木も少し心配そうな顔をした。心配するのは可笑しくないだろう。何処かの出版社に引き抜かれたのではないかと思っているのかもしれない。
「弘樹君がそういうのなら考えて。急ぎじゃないし、他の出版社のほうの仕事を済ませてからでもいいんだ。何時でもできるようなことだから。」
「有難うございます。」
机に向かって頭を下げた。高校の時に賞を受賞したときのようだ。突然の連絡に驚いた。荒木が代理で賞を受けていたと知った時に驚きはしたが、そこまで怒れないし、実力が認められてうれしかったのを思い出した。
「まぁ、君の人生なんだ。君らしく生きればいいさ。」
「はい。」
三枝は確かに他の出版社から受けている小説がもう少しというところでもあったのだ。書き終えてからでもいい。書きながらやってもいいのではないかと思った。荒木はお茶を飲み干した。
「先生は他の出版社から抜け駆けの話は受けていないのですか?」
「両立していることもあるからですし、それに他の先生に比べて年齢が若いこともあってあまり頼りにされていないんです。だから、心配しないでください。」
そういって会議室を出た。すると、社長を待っていたのか応接室で座っていた男性がすっと立ち上がった。どこぞの相談なのかもわからない。
「決まったら連絡をください。」
荒木はそう言って一礼をした。それにこたえるように深々とお辞儀をした。そして、立ち去った。三枝は外に出ると温度の違いに驚いてしまう。何処かでお茶でもしようと思った時に声をかけられた。
「弘樹?」
振り返るとばっちりとスーツに決めた女性が立っていた。
「夏樹か。どうしたんだ。」
「どうしたもないでしょ。私も保険で出歩いているんだから。・・・ちょうど、休憩でもと思ったら知っている面影を見つけて声をかけちゃった。」
張り付けたような笑みを見せながら言った。