掻き合わせ
「それに今日はいいことがあったの。嫌っていた先輩が東北の支店に行くことになって送迎会を開てね。ほどほどに仲がいい人と二次会を開いても2時間くらいでお開きしたの。明日、仕事があるっていう人も交じっていてからあっさりしたものよ。」
夏樹が嫌っていた先輩は何処から漏れた内部告発によって辞令が出たらしい。出所を探す必要もないので、会社としては辞令を出して終わりにしてしまうのだといった。大ごとにしてしまえば保険を契約している人が不審がることを恐れているのだという。夏樹は特別、不利な内容を言うわけでもないのを心得ているのに別の会社が興したことで同じ目で見られるのも少しはわかっている。
「会社はその人を別の支店に行かせてもいいと判断したわけだもんな。横領をしたと告発を受けたというんじゃないんだもんな。」
「そうなの。部長とかもすっきりした顔をしていたわ。一時的な関係だって思ったわ。」
その部長は東北支店に行くことになっている女性と時々食事に行っていたのだ。部長のほうは結婚をしており、愛人じみた関係に見られるのが嫌だったと明かしていたという。食事に行ったとしてももっぱら部長に払わせるばかりで何もなかったという。
「話は変わるけど、小関絵里について聞かせてくれないか?」
「いいわよ。小関っていう苗字になったのは外資系金融のサラリーマンの人と結婚したのよ。それで大学生の時に絵里さんは自分の会社を経営していたのよ。」
絵里は明子が死んで立ち直ることができず、夢であった母親と同じ薬剤師になることもできなかったので、会社を自ら作っているのがいいと思ったのだといっていたと。自然食品を扱う会社を行うことにしたのだ。
「母親に恩義を思っていたんでしょうね。あの事件があった時からお兄さんに会っていたらしいの。仲が悪かったのはお父さんのほうよ。」
洋一とはたびたびあっていたのだといった。絵里にも子供がおり、洋一にも子供が同じころにできたのだ。だから顔を合わせることもしていた。
「息子の洋一が死んで得したのは父親ってところか。」
「そうね。絵里さんと同じころというのなら子供も4歳とかじゃないの。会社なんて継ぐわけなんてないから会長の父親が戻ることになるか今の専務とか常務とかになるんじゃないかしら。」
事件が起きてからまだ夏樹は絵里に顔を合わせていないらしく、また顔を合わしたら情報をくれるといった。夏樹にとって弘樹と顔を合わせるのがいいと思っている。会社の内部事情を明かすのも小説に役立てるためだと改めて思った。




