はざまの決断
草間と話していると時間さえも忘れてしまうものなのだ。事件のことは上司から許可を得ているので全くといっていいほど躊躇していないのが見てとれる。別れる時は割り勘をして帰った。帰り道にふと三枝はビルを見上げた。見上げたところで星など見えないのはわかっているが、何処かで見透かされているような気がしてしまう。足早に過ぎ去っていく人を見る度におぞましいと感じてしまう。冷たいと思ってしまっても仕方ないのかもしれない。自転車に乗っていき急ぐような素早い走りをしてしまうものなのか。車に乗っていてもあおりをしてまで自分を優先しようとして法を犯す理由にならないうえに相手が悪いと言い切ってしまう姿が恥ずかしいのだ。非を認めていないといっている。相手にもある程度の猶予があってもいいのではないかと。寛容になる時代ではないのか。自分が悪いのを相手の所為にして逃げたところでいったい何処でどんな解決策があるのだろうか。三枝にしてみればそこから生まれる事故や事件で時間を遮っているようでしかない。
「難儀な世の中っていうのは簡単なんだなぁ。誰も叫んでも聞こえない耳をしているのに、都合がいいときに権力を振りかざすものなのか・・・。」
後ろからヒールがアスファルトをたたき打つ音が近づいている。振り返るのも何処か嫌なので見知らぬふりをして前を歩く。
「弘樹。」
肩をたたいた。振り返ると夏樹だった。スーツ姿だったので仕事終わりに飲み会でもしてきたのだろうか。顔を見ると少しだけ頬が赤く染まっていた。歩道の中央だったのでビルの隙間に2人で行った。
「どうしたの。声をかけてくるなんて・・・。」
「ニュースでさ、高橋洋一が殺されたって聞いてね。弘樹なら興味持つなって。それに私の保険に入ってもらっているのが小関絵里っていうの。」
「小関絵里ってまさか高橋製薬の娘の高橋絵里ということ。」
夏樹は何処か胸を張ってうなずいた。その話を聞かされたので暗闇に光がさすような話だ。高橋明子の事件を調べるにしても少しは情報がいるのだ。夏樹は喜んでついてきた。近くにカフェがあったので入ることにした。深夜まで空いているのは珍しいのだ。タクシー運転手などのために空いているのだろう。窓側の雰囲気のあるところに座った。三枝はコーヒーを夏樹はカフェオレを頼んだ。
「小関さんは私の大事な契約者でもあるんだけど・・・。弘樹ならいいかなって。」
「それでも明かすのはいけないじゃないの。」
「保険の契約内容を話すわけじゃないんだし、いいんじゃないの。」
ウエイターがおらず店主自らコーヒーとカフェオレを届けてくれた。




