崖のあとの広場
草間がつぶやくのは警察になったにもかかわらず、何もできていないことを痛感しているような顔だった。マスターはその言葉をよく聞いているのではないだろうかと三枝は思った。
「何もできないと思っているやつはまだどうにかできるんですよ。むしろ、わかっていながら何もしないとかあるからどうしょうもないんです。」
マスターは三枝に小さな声で言った。店は盛況な時間にもかかわらずどこか静まり返った感じがあった。騒ぐ人の音さえも聞こえぬように・・・。
「俺はたたき上げやらキャリアのことはわからないが・・・、事件にどれだけ全うに向き合ったかを見れる機械があってもいいはずだ。保身のための事件を終わらすくらいならな。」
三枝が言った言葉に草間は驚いたようだった。彼も少なからず三枝の作品を読んでいるのならわかっているはずだ。三枝の作品には警察は登場するならと思って警視庁に話を聞きに言ったのだ。事件を解決するための向き合い方のマニュアルを聞かされたのだと思ったほど。初動捜査の大切さも加えていっていた。
「お前、高橋明子の初動捜査はどうだった?」
「あぁ、通報されてからかなりの時間がたっていたと書かれてあった。警視庁内でごたごたがあったことで遅れたなんてマスコミの的になるのに捜査員がキチンと書き残していたよ。」
「その捜査員って誰だ。話が聞きたい。」
「上条さんだよ。先輩はそのこともあって捜査一課じゃあ邪魔者扱いでな。けど、上層部も結論として事実だから下手に対応なんてできない。マスコミにでも流されたらおしまいだからね。・・・今は違うみたいだけど。未解決事件部なんてできて・・・。」
未解決事件部という部署が出来上がったことによってさらにマスコミにリークしやすい環境を作ってしまったのだといった。マスコミは今の事件ももちろん過去の事件も興味を持つ。特に真犯人なんて見つければ特にだ。上条が指揮を執るようになってから事件の解決するようにもなっている。捜査一課自体が疑問にはならないものの今の事件の検挙率を比べられてしまう。捜査一課長の立場もあやふやになってしまっている。
「上条さんの部下になることも拒まれそうになったんだ。それに口を出したのが上条さん自身だった。所轄から来たばかりなのだから少しくらいはいいじゃないかってね。捜査一課において事件をあやふやにするほど強くないからな。」
いろいろあって今があるのを実感しているようだった。草間にとって否定してしまうのは簡単だろうけど、肯定して進むほうが面白いのではないかと思っていると。上条はもっぱら捜査資料を眺めている。どれだけ丁寧に書かれているか突っ込めるかなどだ。それをメモをして残しておくことで進めると。




