傷の後
「あの事件があやふやになったのはお前の作品が上がったことに加えて、外部からの圧力があったらしい。むしろ、お前の作品が上がったことで世間は筋書きとしては遭っているのではないかって噂があったからな。そのことを考えてもお前は悪くない。・・・今でも思ってるんだろ。探求心で書くべきじゃなかったって。」
草間は授賞式を終えた俺を迎えに来た1人だったから。その上に何時も一緒にいたのだ。口に出さないが葛藤を見破っていたのだ。それを本当かどうかも確かめるためだったのかもしれない。草間に対しては感謝しきれないのだ。
「洋一は母親の事件に関して無気力だったが、娘の絵里は違った。母親と仲が良かったらしくて自殺したとされる日の数日前に会っている。約束をしたといっていたんだ。」
明子を嫌う権現と違って絵里は母親に頻繁に会っていた。当時は高校生というのもあって電車で行ける距離なのでたびたび訪れていた。その時にカレンダーについた赤い丸を見つけて聞いたのだ。すると、養護施設に行く日なのだといった。ボランティアとしていくのだそうだ。
「その日は養護施設の祭りがあるらしいとなってそれに行くといったそうだ。そのこともあって一番自殺に疑いをもっていたが、権現とつながりのある政治家からの圧力をかけた。それもあってね。半端な幕引きをしたまでだ。警察も愚かだ。」
彼はそう言って残っていた水に埋もれたサングリアを飲み干した。三枝はその言葉にほっとしているのかとも思ってしまった。
「絵里は高橋製薬を継ぐのか?まぁ、話を聞いている限り継ぎそうにないな。」
「それは捜査一課から聞くだろうけど、継がないだろうな。母親の事件の幕引きを早く求めたのが父親だって誰よりも知っている。それを許すほど単純じゃないだろ。」
マスターがパエリアを出した。凝ったものを見た。高橋製薬を聞いていいとは思っていないのだろうから。娘の絵里はすでに結婚をしているうえに自分で会社を経営しているのだといった。絵里について調べたのは興味本位ではなく、いずれ聞かないとダメになる時のための情報収集の一環だったのだ。父親である権現の名を聞く度に嫌な顔をしたと何時かの雑誌に書かれていた。
「心の傷ってもんはさ、人でしか解決できない厄介なものでありながら単純なんだよな。漏らすだけの勇気も捨て去る大人もいるのさ。全く難儀な世の中で嫌になる。ニュースを見る度に己の未熟さを感じてならない。」
草間はそう言って大皿に載っているパエリアを取って口いっぱいにほうばる。三枝はその姿を眺めるように見ていた。




